宅建過去問 権利の変動篇
契約総合の過去問アーカイブス 平成20年・問7 注意義務
注意義務に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、誤っているものはどれか。 (平成20年・問7) |
1 ある物を借り受けた者は、無償で借り受けた場合も、賃料を支払う約束で借り受けた場合も、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。 |
2 委託の受任者は、報酬を受けて受任する場合も、無報酬で受任する場合も、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。 |
3 商人ではない受寄者は、報酬を受けて寄託を受ける場合も、無報酬で寄託を受ける場合も、自己の財産と同一の注意をもって寄託物を保管する義務を負う。 |
4 相続人は、相続放棄前はもちろん、相続放棄をした場合も、放棄によって相続人となった者が管理を始めるまでは、固有財産におけると同一の注意をもって相続財産を管理しなければならない。 |
<コメント> |
肢1〜肢3 有償契約と無償契約の注意義務の違い
肢4 相続財産の管理 肢4は初出題ですが,肢1から肢3には過去問の出題歴があります。正解肢の肢3は昭和61年に出題歴があるので,知っていれば難解な問題ではありません。 この問題で勝負を分けたのは,委任と寄託の以下の違いです。 委任−有償・無償に関係なく,善良な管理者の注意義務 民法での寄託−有償では「善良な管理者の注意義務」,無償では「自己の財産と同一の注意義務」 なお,各肢とも,当1000本ノックではすでに扱っていたので,見ていた方は正解できたと思います。 |
●出題論点● |
(肢1)使用貸借,賃貸借とも,「善良な管理者の注意」をもって契約の目的物 を保管する義務を負う。 (肢2)受任者は,「善良な管理者の注意」をもって委任事務を処理する義務を (肢3)受寄者は,有償寄託では「善良な管理者の注意」,無償寄託では「自己 (肢4)相続人は,固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理し |
【正解】3
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
正答率 | 44.7% |
1 ある物を借り受けた者は、無償で借り受けた場合も、賃料を支払う約束で借り受けた場合も、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。 |
【正解:○】昭和61年・問2・肢2,
この義務は以下のものに課されます。みな特定物を引き渡す義務のある者が善管注意義務を負います。 特定物の売買,贈与,交換,賃貸借,使用貸借,有償の寄託など → 債務者がこの規定に反して,目的物を滅失毀損したときは損害賠償の義務を負います。(415条) → (債務が特定物の引渡しのときは)400条の善管注意義務を果たしているならば,弁済者はその引渡しの時の現状でその物を引き渡せばよい。(483条) つまり,本肢で言えば,使用貸借で借り受けた者〔無償で借り受けた者〕も,賃貸借で借り受けた者〔有償で借り受けた者〕も,契約の終了時には借り受けた物を返還する義務を負っているので,どちらも,引渡しをするまでは,契約の目的物の保存については,善良な管理者の注意義務を負うことになります(民法400 条)。 |
2 委託の受任者は、報酬を受けて受任する場合も、無報酬で受任する場合も、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。 |
【正解:○】昭和59年・問11・肢4,平成9年・問9・肢1,
▼寄託では有償か無償かによって区別されていますが,委任では区別されていません。⇒ [判例] 委任の報酬の多寡にかかわらず受任者は善管注意義務を負う。(大審院・大正10.4.23) ▼この規定は準委任〔法律行為ではない事務の委託〕にも準用されます。(656条) ▼この規定は後見人〔成年後見人・未成年後見人など〕(869条)・後見監督人(852条)・保佐人(876条の3第2項)・補助人(876条の10第1項)・遺言執行者(1012条)に準用されています。 ▼事務管理〔法律上の義務がないのに他人のために事務の管理を処理すること〕にも善管注意義務があります。←軽減される場合アリ。(698条) |
3 商人ではない受寄者は、報酬を受けて寄託を受ける場合も、無報酬で寄託を受ける場合も、自己の財産と同一の注意をもって寄託物を保管する義務を負う。 |
【正解:×】昭和61年・問2・肢1, 寄託とは,(寄託者)モノを預ける−(受託者)預かるという契約です(ex.ホテルの手荷物預かりなど)。注意義務については,無償寄託と有償寄託で異なります。 無償でする「寄託」での寄託物〔寄託の目的物〕の保管の場合は,『自己の財産と同一の注意義務』です。〔有償での寄託は善管注意義務(400条)〕
●貸金庫やコインロッカーは寄託と間違えやすいのですが,貸金庫やコインロッカーは物を入れるために使っているのに過ぎず,言うなれば,場所を提供してもらっている−『賃貸借』に該当します。 ●銀行にお金を預けるのは『消費寄託』です。(666条)預金契約とは預金者から預かった金銭を銀行が自由に消費〔運用など〕して払い戻しのときに金銭を返還します。(利息をつけて)←寄託の場合は,寄託者〔モノを預ける人〕の承諾を得ないで寄託物を使用することはできません。(658条1項) ▼問題文の「商人ではない受寄者」という表現に引っかかった方がいらっしゃると思いますが,商法での寄託は民法とは異なり,以下のように,無償と有償で区別をしていないためです。 商人がその営業の範囲内において寄託を受けたときは,報酬を受けなかったときであっても,善良な管理者の注意をなすことを要する(善良な管理者の注意をもって寄託物を保管しなければならない)(商法593 条)。
(商法593 条の原文)商人カ其営業ノ範囲内ニ於テ寄託ヲ受ケタルトキハ報酬ヲ受ケサルトキト雖モ善良ナル管理者ノ注意ヲ為スコトヲ要ス
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4 相続人は、相続放棄前はもちろん、相続放棄をした場合も、放棄によって相続人となった者が管理を始めるまでは、固有財産におけると同一の注意をもって相続財産を管理しなければならない。 |
【正解:○】初出題 民法では,相続財産の管理について,以下のように規定しています。 ・相続人(民法918条1項)相続人は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。ただし,相続の承認又は放棄をしたときは,この限りでない。⇒相続人は,相続の承認や放棄をするまでの間,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産を管理しなければならない。 ・相続放棄者(民法940条1項),相続放棄した者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで,自己の財産と同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。 ・限定承認した者(民法926条1項)限定承認者は,その固有財産におけるのと同一の注意をもって,相続財産の管理を継続しなければならない。 ▼918条と940条の文言の違いが気になるかもしれませんが,本肢では,内容としては同じものと考えて構いません。 |