贈与契約の過去問アーカイブス  平成21年・問9 負担付贈与


 Aは、生活の面倒をみてくれている甥 (おい) のBに、自分が居住している甲建物を贈与しようと考えている。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成21年・問9)

1 からに対する無償かつ負担なしの甲建物の贈与契約が、書面によってなされた場合、はその履行前であれば贈与を撤回することができる。

2 からに対する無償かつ負担なしの甲建物の贈与契約が、書面によらないでなされた場合、が履行するのは自由であるが、その贈与契約は法的な効力を生じない。

3 が、に対し、の生活の面倒をみることという負担を課して、甲建物を書面によって贈与した場合、甲建物の瑕疵 (かし) については、はその負担の限度において、売主と同じく担保責任を負う。

4 が、に対し、の生活の面倒をみることという負担を課して、甲建物を書面によって贈与した場合、がその負担をその本旨に従って履行しないときでも、はその贈与契約を解除することはできない。

<コメント>  
 正解肢の「贈与者の担保責任」は,負担なしの贈与について,平成10年に関連出題歴がありますが,負担付贈与の担保責任については初出題です。

 4肢とも過去問の出題内容と微妙にカスってはいますが,大半の受験者にとっては想定外の出題だったでしょう。出題者は未出題の論点を探して出題したと思われますが,何も未出題の論点でなくても,十分試験になるので,余り出題範囲を拡大してほしくないですね。

●出題論点●
 (肢1) 〔反対解釈〕書面による贈与は撤回することができない。

 (肢2) 贈与契約は,書面の有無に関係なく,贈与者の意思表示と受贈者の受諾によって,法的な効力を生じる。

 (肢3) 負担付贈与契約では,受贈者の負担の限度において,贈与者は売買契約の売主と同じ担保責任を負う。

 (肢4) 〔判例〕 負担付贈与では,受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは,履行遅滞(民法541条)あるいは履行不能(民法542条)の規定を準用し,贈与契約の解除をすることができる。

【正解】

× × ×

 正答率  35.8%

1 からに対する無償かつ負担なしの甲建物の贈与契約が、書面によってなされた場合、はその履行前であれば贈与を撤回することができる。

【正解:×初出題〔類題の出題歴があるため,厳密には初出題とはいえない〕,
 関連・〔書面によらない贈与の撤回〕平成3年・問10・肢1,平成10年・問9・肢1,
 〔死因贈与の撤回〕平成3年・問10・肢4,平成10年・問9・肢4,

◆書面による贈与契約は撤回できない

 書面によらない贈与は,履行の終わっていない部分については,各当事者が撤回することができます(民法550条)

 しかし,この反対解釈として,書面による贈与は撤回することができないとされています。

 したがって,「書面によってなされた場合、その履行前であれば贈与を撤回することができる。」とする本肢は誤りです。

書面による贈与でも,受贈者の忘恩行為があったときなど,判例や通説によって撤回できる場合があります。

2 からに対する無償かつ負担なしの甲建物の贈与契約が、書面によらないでなされた場合、が履行するのは自由であるが、その贈与契約は法的な効力を生じない。

【正解:×関連〔定期贈与契約の効力〕平成13年・問6・肢4,
◆書面によらない贈与契約の効力

 贈与契約は,当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,相手方が受諾をすることによって,その効力を生じます(民法549条)

 つまり,その贈与契約が書面による場合,書面によらない場合のどちらであっても,贈与者の意思表示と受贈者の受諾によって,法的な効力を生じるので,本肢は誤りです。

3 が、に対し、の生活の面倒をみることという負担を課して、甲建物を書面によって贈与した場合、甲建物の瑕疵 (かし) については、はその負担の限度において、売主と同じく担保責任を負う。

【正解:初出題〔類題の出題歴があるため,厳密には初出題とはいえない〕
 関連〔551条1項〕・平成3年・問10・肢2,平成10年・問9・肢3,
◆贈与者の担保責任

 負担付贈与契約では,受贈者の負担は有償性を帯びるため,その負担の限度内で,贈与者は売買契約の売主と同じ担保責任を負います(551条2項)。

贈与

(負担なし)

 贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在に
ついて、その責任を負わない。

 ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に
告げなかったときは、その責任を負う(551条1項)。

負担付贈与  贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。

4 が、に対し、の生活の面倒をみることという負担を課して、甲建物を書面によって贈与した場合、がその負担をその本旨に従って履行しないときでも、はその贈与契約を解除することはできない。

【正解:×初出題
◆〔判例〕負担付贈与の解除−負担の不履行による解除

 負担付贈与では,贈与者の贈与と受贈者の負担に対価的な関係があると考えられるので,双務契約に関する規定が準用されます(民法553条)。

 このため,判例により,負担付贈与では,受贈者がその負担をその本旨に従って履行しないときは,当然,債務不履行〔負担の不履行〕として,贈与契約を解除することができるとされています(民法553条,541条の準用,最高裁・昭和53.2.17)

 負担付贈与が,書面による場合,書面によらない場合のどちらであっても,このことに変わりはありません。

 (負担付贈与)
第553条
 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。
 ⇒ 双務契約に関する規定のうち,同時履行の抗弁権,危険負担,解除などが事情に応じて,負担付贈与に準用されます〔贈与が先履行,負担が先履行,負担・贈与とも同時履行などの事情による〕。

●最高裁・昭和53.2.17の要旨
≪負担付贈与の解除≫

 負担付贈与においては、受贈者がその負担である義務の履行を怠るときは、履行遅滞(民法541条)あるいは履行不能(民法542条)の規定を準用し、贈与契約の解除をなし得るものと解すべきである。
 そして贈与者が受贈者に対し負担の履行を催告したとしても、受贈者がこれに応じないことが明らかな事情がある場合には、贈与者は、事前の催告をすることなく、直ちに贈与契約を解除することができるものと解すべきである。

≪忘恩行為による撤回≫

 民法550条の反対解釈により書面による贈与は撤回することができないのが原則であるが、受贈者に著しい忘恩行為が認められる場合には、民法550条により撤回することができない場合であっても、信義誠実の原則(民法1条2項)により撤回しうる。⇒ 忘恩行為による撤回では,負担が履行されていたかどうかには関係なく,忘恩行為があれば撤回できることに注意。

●条文確認
(贈与)
第549条
 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

(書面によらない贈与の撤回)
第550条
 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

(贈与者の担保責任)
第551条
 贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。

2  負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。

(定期贈与)
第552条
 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。

(負担付贈与)
第553条
 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。

(死因贈与)
第554条
 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。


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