宅建過去問 権利の変動篇
代理の過去問アーカイブス 平成22年・問2 無権代理
AがA所有の甲土地の売却に関する代理権をBに与えた場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。なお、表見代理は成立しないものとする。(平成22年・問2) |
1 Aが死亡した後であっても、BがAの死亡を知らず、かつ、知らないことにつき過失がない場合には、BはAの代理人として有効に甲土地を売却することができる。 |
2 Bが死亡しても、Bの相続人はAの代理人として有効に甲土地を売却することができる。 |
3 18歳であるBがAの代理人として甲土地をCに売却した後で、Bが18歳であることをCが知った場合には、CはBが未成年者であることを理由に売買契約を取り消すことができる。 |
4 Bが売主Aの代理人であると同時に買主Dの代理人としてAD間で売買契約を締結しても、あらかじめ、A及びDの承諾を受けていれば、この売買契約は有効である。 |
<コメント> |
4肢とも頻出論点ですが,肢3,肢4は21年に出題されており,連続の出題でした(肢4は20年から3年連続の出題)。 |
●出題論点● |
(肢1) 代理権の消滅事由−本人の死亡
(肢2) 代理権の消滅事由−代理人の死亡 (肢3) 代理人の行為能力−代理人の行為能力の制限を理由に取り消すことはできない。 (肢4) 双方代理 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
正答率 | 70.2% |
1 Aが死亡した後であっても、BがAの死亡を知らず、かつ、知らないことにつき過失がない場合には、BはAの代理人として有効に甲土地を売却することができる。 |
【正解:×】 本人が死亡すれば,法定代理・任意代理とも,代理権は消滅します(民法111条1項1号)。 したがって,本人Aの死亡について代理人Bが善意無過失の場合でも,代理権は消滅し,BはAの代理人として有効に甲土地を売却することはできないので,本肢は誤りです。
▼下記については,本肢では問題文中に触れられていないので,考慮する必要はありません。 (1) 本人の死亡によって代理権が消滅しない旨の合意があった場合,判例では,民法111条1項1号の規定は,そのような合意の効力を否定するものではないとしている(最高裁・昭和31.6.1)。 (2) 委任による代理では,急迫の事情があれば,その限度において,本人が死亡した場合でも存続すると解されています(民法654条)。 〔関連出題歴〕平成7年・問9・肢3,平成18年・問9・肢3[正解肢],(不動産登記法・17条1号)平成14年・問15・肢3[正解肢], (3) 商法では,商行為の委任による代理権は本人の死亡によって消滅しない(商法506条)。 |
●委任 |
(委任の終了後の処分) 第654条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。 (委任の終了の対抗要件) |
2 Bが死亡しても、Bの相続人はAの代理人として有効に甲土地を売却することができる。 |
【正解:×】 代理人が死亡すれば,法定代理・任意代理とも,代理権は消滅します(民法111条1項2号)。 代理権は代理人に一身専属なので,相続によってその地位を承継することはできません。 したがって,Bが死亡した場合,Bの相続人がAの代理人として有効に甲土地を売却することはできないので,本肢は誤りです。 |
3 18歳であるBがAの代理人として甲土地をCに売却した後で、Bが18歳であることをCが知った場合には、CはBが未成年者であることを理由に売買契約を取り消すことができる。 |
【正解:×】平成21年・問2・肢2, 本 人A 代理人は行為能力を要しないとされています(民法102条)。これは,制限行為能力者が代理人の場合に,相手方が不利益にならないようにしている規定です※。 本人や制限行為能力者である代理人は(相手方も),行為能力の制限を理由に,取り消すことはできません。 ※ただし,制限行為能力者が無権代理人の場合は,相手方に対して民法117条1項の無権代理人の責任(善意無過失の相手方に対して履行または損害賠償の責任を負う)は負わない(民法117条2項)。 |
●制限行為能力者が代理人 |
本肢のBが,Aとの委任契約によって代理権を授与されていた場合に,Bが法定代理人の同意を得ていなかったことを理由に,委任契約を取り消したときは,Bの代理行為が遡及的に無効になることはありません。
Bの代理権は,委任契約の取消しによって,将来に向かって消滅するだけなので,Cに売却した行為は有効だと解されているからです。 委任契約の取消し後に,Bが代理行為を行った場合は,無権代理または代理権消滅後の表見代理として処理されます。 |
4 Bが売主Aの代理人であると同時に買主Dの代理人としてAD間で売買契約を締結しても、あらかじめ、A及びDの承諾を受けていれば、この売買契約は有効である。 |
【正解:○】平成21年・問2・肢4, 同一の法律行為について,当事者双方の代理人となることは無権代理行為であり,原則としてすることはできません※。本人や相手方の利益が害されるおそれがあるからです。 しかし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,有効な代理行為になります(民法108条)。 ※判例では,あらかじめ本人の承諾がなくても,本人が追認すれば,効力を生じるとしている。 |