Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成2年・問6
抵当権設定のみで解除はできない・代金支払拒絶権・物上代位(売却代金)・
第三者弁済による法定代位・出捐の償還請求権
Aは,BからBの所有地を2,000万円で買い受けたが,当該土地には,CのDに対する1,000万円の債権を担保するため,Cの抵当権が設定され,その登記もされていた。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成2年・問6) |
1.「Aは,契約の際Cの抵当権のあることを知らなくても,その理由だけでは,AB間の売買契約を解除することはできない。」 |
2.「Aは,抵当権消滅請求することができ,その手続きが終わるまで,Bに対し,代金の支払いを拒むことができる。」 |
3.「Cは,BのAに対する代金債権について,差押えをしなくても,他の債権者に優先して,1,000万円の弁済を受けることができる。」 |
4.「Aは,抵当権の実行を免れるため,DのCに対する1,000万円の債務を弁済した場合,B及びDに対し,当該1,000万円の支払いを請求することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
1.「Aは,契約の際Cの抵当権のあることを知らなくても,その理由だけでは,AB間の売買契約を解除することはできない。」 |
【正解:○】 ◆抵当権設定のみでは契約解除はできない B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者) 抵当権が設定されている不動産の買主は,抵当権が実行され所有権を失った時には契約の解除や損害賠償請求をすることができますが,抵当権が設定されているというだけでは売主の担保責任を問うことはできず,契約の解除はできません。(民法567条1項) 通常の不動産取引では,登記簿の甲区〔仮登記や差押えがないか?〕,乙区〔担保物権や用益物権の登記がないか?〕を調べてから売買契約になります。(もし見ていなかったとすれば不注意。) 抵当権付で売買されるということも実務上ではよくあることであり,第三取得者自身が抵当権を消滅させる方法も『抵当権消滅請求』,『代価弁済』,『第三者弁済』など複数あることから,「抵当権が設定されている」ことのみでは解除することはできません。 |
2.「Aは,抵当権消滅請求することができ,その手続きが終わるまで,Bに対し,代金の支払いを拒むことができる。」 |
【正解:○】 ◆代金支払拒絶権 B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者) 買い受けた不動産に,先取特権,質権,抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続きを終わるまで,その代金の支払いを拒絶することができます。(577条) 買主が抵当権消滅請求する場合には,抵当権消滅請求を終えるまで代金支払を拒絶することができ,その代金から抵当権消滅請求に要した費用を差し引いて売主に支払うこともできます。 ▼代金の支払拒絶権が認められない場合もあります。(577条) ・売主が買主に対して「遅滞なく抵当権消滅請求をするように」請求したにもかかわらずしなかったとき。 ・売主が買主に対して「供託をするように」請求したにもかかわらずしなかったとき。(578条) ・当事者で担保物権による負担を考慮して代金を決定したとき(567条) |
3.「Cは,BのAに対する代金債権について,差押えをしなくても,他の債権者に優先して,1,000万円の弁済を受けることができる。」 |
【正解:×】 ◆物上代位には払渡し前の差押えが必要 B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者) 抵当権では,同一性が認められる限り,抵当権の目的物が売却・滅失・毀損・賃貸によって抵当不動産の所有者が受けるべき,『目的物に代わるもの』に対しても,その効力が及びます。これを物上代位といいます。(372条による304条の準用) 目的物に代わるものとしては,火災保険金請求権・不法行為に基づく損害賠償請求権・土地収用の補償金・替地・賃料〔転貸賃料は判例で否定されている。(最高裁・平成12.4.14)〕・売買代金 などがあります。 ただし,抵当権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをすることが必要です。(372条による304条の準用)
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4.「Aは,抵当権の実行を免れるため,DのCに対する1,000万円の債務を弁済した場合,B及びDに対し,当該1,000万円の支払いを請求することができる。」 |
【正解:○】 ◆第三者弁済による法定代位・出捐の償還請求権 B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者) 第三取得者Aは,当事者CD間で第三者弁済を禁じる特約がなければ,債務者Dに代わってDの債務を弁済することができます。〔第三者弁済〕(474条) また,第三取得者Aは,第三者弁済することについて正当な利益を有しているので,債権者Cに代位して,Dに対して弁済金額1,000万円の支払いを請求することができます。〔法定代位〕(500条) さらに,第三取得者Aは,抵当権の存在する不動産を買い受け,自己の支出によってその所有権を保存しているので,支出額1,000万円の償還を売主Bに対し請求することができます。〔担保責任 : 出捐の償還請求権〕(567条2項) したがって,Aは,B及びDに対し,1,000万円の支払いをそれぞれ請求することができます。 |