Brush Up! 権利の変動篇

抵当権の過去問アーカイブス 平成2年・問10

競買人・抵当権実行の通知義務の廃止・被担保債権の範囲・順位昇進の原則


は,に対する金銭債権(利息付き)を担保するため,の所有地にの抵当権を設定し,その登記をしたが,その後その土地をに売却し,登記も移転した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(平成2年・問10)

1.「が抵当権を実行した場合,及びは,競買人になることができない。」

2.「は,抵当権を実行しようとする場合,にその旨を通知し,抵当権消滅請求の機会を与える必要はない。」

3.「は,抵当権の実行により,元本と最後の2年分の利息について,他の債権者に優先して弁済を受けることができる。」

4.「の抵当権が消滅した場合,後順位の抵当権者の順位が繰り上がる。」

【正解】

×

1.「が抵当権を実行した場合,及びは,競買人になることができない。」

【正解:×

◆民法では競買人の資格制限はない

 (抵当権設定者)・・・・(抵当権者)
 |            └(債務者)
 (第三取得者)

 抵当権が実行された場合,民法上は競買人〔買受人〕の資格制限がないため誰もが競買人になることができます。(390条・第三取得者は競買人になることを得。)〔ただし,民事執行法68条,188条では債務者は買受人になれないとしています。〕

 したがって,本肢は×です。

 買受の申出をすることができる者は次のようになります。 

債務者 物上保証人 第三取得者 抵当権者
×

補足・第三取得者の費用償還請求権

 競売によって第三取得者がその所有権を失った場合で,第三取得者が抵当不動産について必要費・有益費を支出していたときは,競売の代価から優先的にその償還を受けることができます。(391条)

●チェック
「抵当不動産の第三取得者は,不動産競売における抵当権の目的物である不動産を買い受けることができるが,物上保証人は買い受けることができない。」(司法書士・平成13年・問11)

【正解:×

2.「は,抵当権を実行しようとする場合,にその旨を通知し,抵当権消滅請求の機会を与える必要はない。」

【正解:

◆抵当権実行の通知は廃止された

 (抵当権設定者)・・・・(抵当権者)
 |            └(債務者)
 (第三取得者)

 旧381条では,『抵当権者は,抵当権を実行しようとするときは,滌除〔現行では抵当権消滅請求と改称〕をするかどうか検討させるチャンスを与えるために,あらかじめ第三取得者にその旨を通知しなければいけない』という規定がありましたが,平成15年の法改正で廃止されました。したがって本肢はです。

 抵当権のある物件を購入した以上リスクを負うのは仕方がないということかもしれません。

民事執行法では,競売開始決定により執行裁判所が債権者のため差し押さえる旨を宣言し,債務者または所有者に対して送達しますが(民事執行法45条1項・2項)この民事執行法の規定は「競売開始決定後」のことです本肢はこれとは関係なく,現行の民法では「抵当権者は,当権を実行しようとするとき (つまり「競売開始決定前」に) ,あらかじめ第三取得者にその旨を通知する」という規定はありません。て

▼混同注意・改正点・抵当権消滅請求を拒絶するときの競売申立通知義務

 第三取得者が抵当権消滅請求をした場合に,抵当権者が競売の申立てをするときは,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人に通知しなければいけません(385条)

3.「は,抵当権の実行により,元本と最後の2年分の利息について,他の債権者に優先して弁済を受けることができる。」

【正解:

◆被担保債権の範囲

 抵当権者は,元本のほかに,最後の二年分の『利息その他の定期金』・『遅延賠償金〔債務不履行によって生じた損害賠償金〕』の優先弁済を受けることができます。これは年数を無制限に認めると後順位抵当権者などが担保価値の評価をすることができなくなるための保護規定です。また抵当権設定者が残存価値のある不動産を担保にして融資を受けられなくなることを防止することにもなります。(375条1項・2項)

▼優先弁済は受けられなくても

1) 債務者・物上保証人に対しては,最後の2年に関係なく,元本債権・利息・遅延損害金の全額の弁済を請求できます。(大審院・大正4.9.15)

2) 抵当権の実行により後順位抵当権者や一般債権者に配当しても競落代金になお余剰があれば最後の2年を超える利息その他の定期金についても配当を受けることができます。

▼最後の2年分を超える利息その他の定期金が優先弁済を受けられる場合

1) 後順位抵当権者がいないときには,最後の2年に限定されることはなく,優先弁済を受けることができます。(大審院・昭和6.10.21)

2) 利息などの定期金について特別な登記をしておけば,後順位抵当権者その他の利害関係者に予想できない損害を与える心配はないので,最後の2年を超える利息などの定期金について優先弁済を受けることができます。(民法375条1項但書)

4.「の抵当権が消滅した場合,後順位の抵当権者の順位が繰り上がる。」

【正解:

◆順位昇進の原則

 抵当権の順位は登記の先後によって決まり,先順位の抵当権が消滅すると,後順位の抵当権者の順位が繰り上がります。


出題項目の宅建過去問・『年度別検索ページ』に戻る

抵当権のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る