Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 平成5年・問9
廃止された短期賃貸借の経過措置
附則・第5条 (短期賃貸借に関する経過措置) この法律の施行の際現に存する抵当不動産の賃貸借〔この法律の施行後に更新されたものを含む。〕のうち民法第602条に定める期間を超えないものであって当該抵当不動産の抵当権の登記後に対抗要件を備えたものに対する抵当権の効力については,なお従前の例による。 ⇒ 改正法施行前に要件を満たした短期賃貸借は,抵当権者や競落人に対抗できる。 |
Aがその所有する建物を担保としてBから金銭を借り入れ,Bの抵当権設定の登記をした後,Cにその建物を期間3年で賃貸する契約をCと締結し,平成16年1月22日にCに引渡した。Cは,平成16年10月17日現在でもその建物を賃借している。この場合,民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成5年・問9) |
1.「Aは,Cへの賃貸について,あらかじめBの同意を得なければならない。」 |
2.「Cは,賃借権の登記をしているときは,Bに対抗することができるが,その登記をしていないときは,建物の引渡しを受けていても,Bに対抗することができない。」 |
3.「Bは,その賃貸借により損害を受けるときは,裁判所に対し,その賃貸借契約の期間満了前でも,その賃貸借契約の解除を求める訴えを提起することができる。」 |
4.「Cは,その賃貸借を更新することができ,Bが抵当権を実行して差押えの効力が生じた後に賃貸借の期間が満了しても,法定更新をもって,Bに対抗することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
旧395条の『短期賃貸借』は法改正により廃止されましたが,経過措置がとられているため,実務上では完全になくなるのはまだまだ先の話になりそうです。宅建試験でこの経過措置が出る可能性は少ないのですが,万一を考え収録しています。〔以前,平成4年に廃止された借地法が借地借家法の経過措置で出題されたことがあります。〕
抵当権設定 短期賃貸借の要件成立 改正法施行(平成16.4.1)
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 対抗要件 → 原則は賃借権の登記 土地=○賃借権の登記,建物に表示の登記 or 所有権保存登記, ×仮登記 建物=賃借権の登記or引渡し |
1.「Aは,Cへの賃貸について,あらかじめBの同意を得なければならない。」 |
【正解:×】 ◆抵当権設定者の使用収益権 A(抵当権設定者)・・・・B(抵当権者) 旧法・現行法とも,抵当権を設定した後も,抵当権設定者は抵当不動産を毀損したり,抵当価値を減少させるものでない限り,自由に使用・収益することができるので,Aは,この賃貸借についての抵当権者の同意を得る必要はありません。 しかし,現行法が適用される場合は,Cは,賃貸借の登記をすることに加えて,賃貸借についてのBの同意の登記も得ておかないと,抵当権者Bに対抗できません。 |
2.「Cは,賃借権の登記をしているときは,Bに対抗することができるが,その登記をしていないときは,建物の引渡しを受けていても,Bに対抗することができない。」 |
【正解:×】 ◆短期賃貸借の対抗要件−原則は賃借権の登記が必要。 A(抵当権設定者)・・・・B(抵当権者)
抵当権設定 短期賃貸借の要件 改正法施行
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 2004/1/22 2004/4/1 短期賃貸借では,賃借権の登記をしているケースは少なく,判例では,賃貸借の登記に代わるものとして,借地借家法の規定,「借家であれば引渡し,借地であれば建物の登記」を対抗要件としています。(大審院・昭和12.7.10) 改正法施行後も,改正前にこの要件を満たした短期賃貸借は,抵当権者や競落人に対抗できます。本肢では,対抗要件の引渡しが平成16年1月22日なので,Cは,Bに対抗することができます。(経過措置) |
3.「Bは,その賃貸借により損害を受けるときは,裁判所に対し,その賃貸借契約の期間満了前でも,その賃貸借契約の解除を求める訴えを提起することができる。」 |
【正解:○】 ◆短期賃貸借の濫用に対する解除請求 A(抵当権設定者)・・・・B(抵当権者)
抵当権設定 短期賃貸借の要件 損害 期間満了
―――●―――――――――●――――――――☆――――○―――→ 短期賃貸借には濫用が多いため,抵当権者が短期賃貸借によって損害を受けるときには,その賃貸借契約の期間満了前でも,抵当権者の訴えによって裁判所は短期賃貸借の解除を命じることができます。(旧395条但書)(経過措置) |
4.「Cは,その賃貸借を更新することができ,Bが抵当権を実行して差押えの効力が生じた後に賃貸借の期間が満了しても,法定更新をもって,Bに対抗することができる。」 |
【正解:×】 ◆抵当権実行により差押の効力が生じた後に契約期間が満了したら,法定更新はできない A(抵当権設定者)・・・・B(抵当権者)
抵当権実行
抵当権設定 短期賃貸借の要件 改正法施行 差押えの効力 期間満了
―――●―――――●―――――――●――――――☆――――○――→ 旧395条の短期賃貸借は,法改正施行後も更新する事ができます。(経過措置)(民法603条) しかし,抵当権が実行され,差押えの効力が生じた後で賃貸借の期限が満了した場合にはもはや法定更新は認められず,抵当権者に対抗することはできないため,明渡しを拒むことはできません。(最高裁・昭和38.8.21) |
●短期賃貸借について |
民法では,抵当権設定後の賃貸借は,抵当権者には対抗できず,抵当権が実行されれば賃借人はその目的物を明渡さなければならないのが原則です。 しかし,この原則だけでは,抵当権設定後の賃借人の抵当権設定者の使用・収益する権利を脅かすものになるので,例外的に,抵当権設定後の賃貸借でも一定のものには抵当権者に対抗できる制度を作っておく必要があります。 このために旧法では,『短期賃貸借』という制度がありました。 (しかしこの制度は余りに濫用される場合が多かったため,現行法ではそれに代わるものとして,『抵当権者の同意の登記による賃借人への対抗力の付与』,『建物の賃貸借における明渡し猶予』を創設しました。) 詳しいことは省きますが,宅建試験で出題される可能性があるのは,主に経過措置の面のみであることから,このページで扱われているもの程度で十分と考えます。 ▼旧395条の短期賃貸借の期間は,以下の通りです。(民法602条) 山林の賃貸借(樹木の栽植・伐採を目的)…10年 |