Brush Up! 権利の変動篇

抵当権の過去問アーカイブス 昭和42年 

共同抵当・異時配当・次順位者による一番抵当権の代位行使


は,300万円の貸金債権につき,3個の不動産・〔価額300万円〕,〔価額200万円〕及び〔価額100万円〕のそれぞれに一番抵当権を有し,さらには150万円の貸金債権につき不動産・に,は100万円の貸金債権につき不動産・に,は50万円の貸金債権につき不動産・に,それぞれ二番抵当権を有していたが,が,まず不動産・につき,これを競売に付しその競売代金300万円よりの債権全部の返済を受けた。この場合におけるの抵当権に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。
(昭和42年・改題)

1.「不動産・が競売されたため,の抵当権は消滅する。」

2.「は,不動産・及びにつきそれぞれ75万円まで,の一番抵当権を代位行使できる。」

3.「は,不動産・につき,100万円まで,不動産・につき50万円まで,それぞれの一番抵当権を代位行使できる。」

4.「は,不動産・又はのいずれについても自己の債権額150万円まで,の一番抵当権を代位行使できる」

【正解】

× × ×

【正解:関連問題・昭和57年,平成13年

◆次順位者による一番抵当権の代位行使

共同抵当とは       

 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産について抵当権を有する場合を共同抵当といいます。(392条)この場合,抵当不動産は,「全体で一つの被担保債権全額を担保し,被担保債権を各抵当不動産それぞれに分割する」のではありません。各不動産がそれぞれ被担保債権全額を担保します。(抵当権の不可分性)

 抵当権の目的物が複数あれば,抵当不動産それぞれで一つの被担保債権全額を担保するので,担保価値が大きくなると同時に,リスクを分散することができます。一部の抵当不動産が値下がりしたり滅失したとしても残りの抵当不動産でカバーできる機能があるわけです。また,複数の抵当不動産のうちの一つから,被担保債権全額について優先弁済を受けることも可能です。

   
   ―――→
 共同抵当
 
 

共同抵当の公示

 共同抵当の目的物全ての登記で『共同抵当関係にある他の不動産が存する旨』が記載され,共同抵当の目的物のそれぞれを管轄する登記所〔法務局〕に共同担保目録が備え付けられ,共同抵当になっている全ての不動産を記載することになっています。

共同抵当の配当

 共同抵当権者が,配当を受ける方法は2つあります。それが同時配当異時配当です。

1.同時配当 抵当権を有する全ての抵当不動産の代価から配当を受ける

 同時にその代価を配当すべきときは,それぞれの抵当不動産の価額に準じて債権の負担を分かちます。(392条1項)

 の債権総額は300万円なので,抵当不動産の価額に応じて比例配分してみましょう。

 抵当不動産の価額  : 300万円, : 200万, : 100万円

 抵当不動産の負担配分  : : = 3 : 2 : 1 であることから,下記になります。

  : 債権総額300万円×3/6 = 150万円,

  : 債権総額300万円×2/6 = 100万円 ,

  : 債権総額300万円×1/6 =  50万円,

不動産・甲 第 1順位・150万円 第2順位・150万円
不動産・乙 第 1順位・100万円 第2順位・100万円
不動産・丙 第 1順位・ 50万円 第2順位・ 50万円

2.異時配当 抵当権を有する一つの抵当不動産の代価から配当を受ける

 共同抵当権者は,一つの不動産の代価を配当するときに,被担保債権全額について優先弁済を受けることができます。その抵当不動産について後順位者がいても,その不動産の代価全部から配当を受けられるわけです。

 しかし,これでは,本問題の甲での第2順位者・のように,先順位者が被担保債権の満額を配当してもらったために,同時配当ならばもらえるはずの配当がもらえなくなる人が出てくることがあります。

 民法では,このようなケースでは,『次順位者による代位行使』というものを用意しています。次順位にある抵当権者は,他の不動産について,同時配当が行われたとすればその不動産が共同抵当権者に対して負担すべきであった額に満ちるまで,に代位して優先弁済を受けることができます。〔ただし,その後現れた乙丙の後順位抵当権者に対抗するには,乙丙に対しての有した共同抵当権について抵当権が移転した旨の附記登記をしておく必要があります。〕 

 本問題では,代位により以下のように配当することができます。

不動産・甲 第 1順位・  300万円 第2順位・ 0 円
不動産・乙 第 1順位A(B)100万円 第2順位・100万円
不動産・丙 第 1順位A(B)・ 50万円 第2順位・ 50万円

●関連判例●附記登記をしていないときの代位による抵当権移転の効力

 代位による抵当権移転の効力発生前の権利者〔債務者・設定者・乙丙での後順位抵当権者は,異時配当でのの代位行使を共同担保目録等から前もって予期しているはずなので,代位者はそれらの権利者〔など〕に対しては,抵当権移転の附記登記がなくても,代位の効果を主張することができます(大審院・大正8.8.28)

しかし,上で見たように先順位者が被担保債権の満額を甲の競売の価額から配当してもらった後に現れた乙丙の後順位抵当権者に対しては,『乙丙に対しての有した共同抵当権について抵当権が移転した旨の附記登記』をしておかないと対抗できません。

 


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