Brush Up! 権利の変動篇

担保物権の過去問アーカイブス 昭和47年 

譲渡担保 譲渡担保の基礎知識


譲渡担保についての次の記述のうち,誤りはどれか。(昭和47年)

1.「譲渡担保の目的物は,譲渡性があるものでなければならない。」

2.「譲渡担保の被担保債権は,譲渡担保の設定後に成立したものでもよい。」

3.「譲渡担保の対抗要件は,不動産の場合にあっては譲渡担保権設定の登記である。」

4.「譲渡担保の設定者は,債務者以外の者でもよい。」

【正解】

×


 譲渡担保は法律に規定がなく,判例では,民法制定直後は通謀虚偽表示にあたるとして否定したものも当初はありましたが,その後,判例の膨大な集積によって手続が整備され,今日では判例法による担保として認められています。

 しかし,宅建試験では,近年では昭和47年のほかには出題例がなく,またこれまで集積された判例を整理するだけでも相当な時間がかかることから,譲渡担保について学習すること自体過大な要求であると思われます。一応見ておきたい方もいらっしゃると思いますが,その場合でもこのページに収めたアウトラインで十分ではないでしょうか。

譲渡担保とは何か−日本では,近世の江戸時代より商慣習としてあった。

 譲渡担保を簡単に説明すると次のようなものになります。

 債務者が債権者から借金をするにあたり,その担保として動産や不動産の所有権を移転しますが,譲渡担保の設定者〔債務者または物上保証人〕は目的物をそのまま使用収益することができます。〔債務者が使用収益するのに利息代わりに賃料を払う場合もあります。〕

 債務者が弁済できれば債務者に目的物の所有権は戻ってくる

 債務者が弁済できなければ目的物の所有権は確定的に債権者に帰属し,債権者は目的物を自由に処分できる。

 担保物権として抵当権や質権がありますが,実際の取引では,抵当権や質権は担保としては以下のように使いにくい場面があります。譲渡担保は取引での要請から生まれた担保です。

一般の動産〔登記や登録制度がない〕の場合

・抵当権では担保の目的物を担保権者に引き渡さずに債務者が使用収益できるが,登記登録制度のない動産では抵当権を設定できない。

・質権では担保の目的物を担保権者に引き渡すことになるが,これでは債務者は工場の機械や倉庫の商品を質権の目的物にすると業務そのものができなくなってしまう。

 → 譲渡担保では,債務者は,担保の目的物を使用収益しながら債務を弁済していくことができる。

 不動産の場合

・抵当権の設定や実行には費用とテマがかかり,競売でも時価より安くなることが多い。

・仮登記担保もあるが,仮登記担保の実行で本登記にするときに,利害関係人がいればその承諾を得なければならず,これもまた面倒なことになる。

 → 譲渡担保では,債権者は,債務者の弁済がなければ競売手続を経ることなく自由に処分でき,テマをかけずに債権の回収を図ることができる。

 譲渡担保の実行での清算方法

帰属清算型・・・実行通知後,一種の代物弁済として,目的物の所有権を債権者に確定的に帰属させる。

処分清算型・・・実行通知後,第三者へ売却することによって,その売買代金で被担保債権の弁済にあて,目的物の所有権が第三者に帰属することになる。

 ⇒ 評価額や売却代金が債権額を越えるときは,差額(清算金)を債務者に払わなければなりません。(最高裁・昭和46.3.25)〔これは仮登記担保と同じです。〕

 受戻し権

 弁済期の経過後であっても債権者が担保権の実行を完了するまで〔清算金の支払まで〕の間は,債務者は債務を弁済して譲渡担保権を消滅させて所有権を回復することができる。(最高裁・昭和62.2.12)

●そのほかの所有権移転型の担保−譲渡担保との比較

 譲渡担保のほかに,所有権移転を用いた担保としては,仮登記担保売渡担保があります。〔総称して所有権移転型担保物権と呼ばれる。〕

 仮登記担保=弁済がないときに,仮登記を本登記にすることによって所有権移転。 
          債務者は設定後も目的物を使用収益することができる。

 売渡担保=債権者(買主)へ所有権移転し,債務者(売主)への所有権復帰の確保の
        ために,買戻特約再売買予約の登記がされる。
        譲渡担保と違って,債務者は使用収益することはできず,消費貸借などの
        債務が存続しないところに特色がある。

1.「譲渡担保の目的物は,譲渡性があるものでなければならない。」

【正解:

◆譲渡担保の目的物

 譲渡担保の目的物は,譲渡可能な財産価値のある権利・ものならば何でもよいので,動産不動産だけではなく,債権〔請負代金債権など。債務者が受注した工事代金などがよく使われる〕を目的物にして譲渡担保権設定契約をすることもできます。〔この場合は,債権譲渡の対抗要件として債務者への確定日付のある通知・債務者の承諾が必要。〕

 今日では,譲渡担保の目的物になるものは,手形・小切手・株券などの有価証券保険請求権特許権コンピュータのソフトウェアなどの無体財産権集合物・集合債権〔債務者の一定範囲の動産・債権の集合。集合物譲渡担保・集合債権譲渡担保と言われる。(最高裁・昭和54.2.15)〕など拡大・多様化しています。→近年では,特定債権法,民法の特例法である債権譲渡特例法なども整備されてきています。

 ex.ゴルフ会員権の例 http://www.nakashimalaw.com/com/golf/q5.html

●代金支払方式の特約を用いて一般債権を貸金債権の担保にとる方法
 債権譲渡禁止の特約がある債権では,譲渡担保とすることができないため,代理受領〔第三債務者の承諾を得て目的債権の受領権の委任を受ける形をとる〕と呼ばれる担保手法を用いることがあります。このほかには振込指定〔第三債務者に指定口座に振込むことを依頼して,振込まれて預金になったものと貸金債権とを相殺することによって債権を回収する〕があります。しかし,どちらも第三者への対抗力がないことに注意してください。

代理受領

 委任者 (債務者)
  |目的債権の受領権を委任
 受任者 (債権者)――――――――第三債務者 
             承諾を依頼

振込指定

 債務者
  |――――――――――――――――第三債務者
 銀行 (債権者)    連署して依頼

2.「譲渡担保の被担保債権は,譲渡担保の設定後に成立したものでもよい。」

【正解:

◆被担保債権は将来のものでもよい 

 譲渡担保も通常の担保物権なので被担保債権がなければ存在しないものですが,この附従性の原則は抵当権と同じく緩和されており,被担保債権は譲渡担保権設定後に成立したものでもよいとされています。

3.「譲渡担保の対抗要件は,不動産の場合にあっては譲渡担保権設定の登記である。」

【正解:×

◆譲渡担保の対抗要件

 譲渡担保権設定登記という登記手続があるわけではありません。譲渡担保の目的物が不動産の場合は,所有権移転登記(登記原因 売買または譲渡担保)によって対抗力が付与されます。

 ●譲渡担保の目的物  ●対抗要件
 一般の動産〔登記・登録制度がない場合〕  引渡し 
 ※判例は占有改定(183条)よいとする。
 〔当事者間の意思表示によってなされる〕
 不動産  所有権移転登記
 〔登記原因=売買または譲渡担保〕
 債権  確定日付のある通知・承諾

4.「譲渡担保の設定者は,債務者以外の者でもよい。」

【正解:

◆物上保証人

 一般に,担保物権の目的となるのは債務者の所有しているものとは限らず,第三者〔物上保証人〕が所有しているものでもよいので,このことは非典型担保である譲渡担保でも同じです。

●譲渡担保の関連知識
・譲渡担保権者は,抵当権消滅請求をすることはできない 〔原文要旨=譲渡担保権者は,担保権を実行して確定的に抵当不動産の所有権を取得しない限り,民法378条所定の滌除権者たる第三取得者に該当しない〕。(最高裁・平成7.11.10)

・譲渡担保の設定は国土法の届出をしなければならない。(出題 : 平成6年・問18・肢4)

譲渡担保と税金

 譲渡担保の詳細については以下をご覧ください。 
 http://www.mars.dti.ne.jp/~sakura48/zyoutotanpo.htm
 http://www.tabisland.ne.jp/explain/saiken/sakn_142.htm
 http://www.takahara.gr.jp/office/faq_fodotan02-14.shtml
 http://www.takahara.gr.jp/office/faq_fodotan02-15.shtml


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