Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 昭和48年
抵当権の目的物・根抵当権・一括競売・物上代位
抵当権に関する記述で,正しいのはどれか。(昭和48年) |
1.「不動産の賃借権は,登記されていれば,抵当権の目的物となり得る。」 |
2.「債権がなければ抵当権は成立せず,債権が消滅すれば,抵当権も消滅するから,一定の取引関係にある場合でも,一定範囲の不特定債権を一定限度内で担保する抵当権は設定できない。」 |
3.「抵当権設定後,設定者が抵当地に建物を建てた場合は,抵当権者は土地とともに建物も競売することができ,土地と建物の代価から優先的に弁済を受けることができる。」 |
4.「抵当権は,目的物の売買代金に対しても効力が及ぶが,この場合はその払い渡し前に差し押さえをしなければならない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | × | ○ |
1.「不動産の賃借権は,登記されていれば,抵当権の目的物となり得る。」 |
【正解:×】 ◆抵当権の目的−賃借権 抵当権は,不動産〔土地・建物〕・地上権・永小作権に設定できます。(369条)賃借権は登記されていても,抵当権の目的物にはなりません。
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2.「債権がなければ抵当権は成立せず,債権が消滅すれば,抵当権も消滅するから,一定の取引関係にある場合でも,一定範囲の不特定債権を一定限度内で担保する抵当権は設定できない。」(類・昭和56年) |
【正解:×】 ◆根抵当権 抵当権は,債権を担保するために存するもので,被担保債権が存在しない限り抵当権は存在しません。(被担保債権が無効なときは抵当権も効力を生じない。大審院・昭和8.3.2)〔附従性〕 しかし,この抵当権の附従性は緩和されており,普通抵当権でも「将来発生する特定の債権のための抵当権は有効である」とされています。(大審院・昭和7.6.1) 根抵当権は,民法では明文化されてはいなくても制定直後から判例では認められていましたが(大審院・明治34.10.25等),昭和46年(1971)の民法改正により立法化されたものです。(施行は昭和47年4月1日から。) 『抵当権は,設定行為で定めるところにより,一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。』(民法398条の2第1項) これが民法の条文で「根抵当権」を導入定義するところです。本肢は民法改正直後に出題されたものです。 |
3.「抵当権設定後,設定者が抵当地に建物を建てた場合は,抵当権者は土地とともに建物も競売することができ,土地と建物の代価から優先的に弁済を受けることができる。」 |
【正解:×】 ◆一括競売
更地に抵当権設定 建物を築造 抵当権の実行(競売)
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 抵当権設定時に建物がなく,その後抵当地に建物が建てられたときは,抵当権者は,建物の所有者が土地所有者自身でもまた第三者でも,原則として,土地と建物を一括して競売することができます。一括競売をするかどうかは任意です。 〔旧389条は,抵当権設定者自身が建物を築造した場合に限定していましたが,法改正により,この制限がなくなり,建物所有者が抵当権者に対抗できる敷地利用権を有する場合を除いて,建物所有者が抵当権設定者自身でなくても,一括競売できるようになりました。〕 一括競売で優先弁済を受けられるのは,土地の売却代金からのみです。建物の売却代金は建物所有者に帰属します。 |
●抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできない |
条文上は,抵当権設定当時に,すでに建物が存在していたときは一括競売することはできないので,その建物が設定者ではなく,第三者が築造した場合であっても一括競売することはできない。したがって,抵当権設定当時にすでに存在していた建物の所有者(第三者)が抵当権者に対抗できない場合であっても一括競売することはできない。 建物を築造 土地に抵当権設定 抵当権の実行(競売) ――●―――――――――――●――――――●―――――→ |
●一括競売できない建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時に既にあった建物 〔抵当地が更地ではない場合〕 |
第三者 | 抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を 有している賃借人が築造した建物 |
〔改正法施行後〕 抵当権設定後に,抵当権者の同意の登記により対抗力を 付与された土地の賃借人が築造した建物 |
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抵当権設定後に,改正法施行前に短期賃貸借の要件を 満たしていた土地の賃借人が築造した建物 〔改正法施行時に短期賃貸借の要件を既に満たしていた〕 |
●一括競売できる建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時は更地で,その後設定者によって築造された建物 |
第三者 | 抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与 されていない土地の賃借人」が築造した建物 |
抵当権設定後に,設定者によって築造された建物を譲り受けた が,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与されていない 土地の賃借人」が所有している建物 |
4.「抵当権は,目的物の売買代金に対しても効力が及ぶが,この場合はその払い渡し前に差し押さえをしなければならない。」 |
【正解:○】 ◆物上代位 抵当権では,同一性が認められる限り,抵当権の目的物が売却・滅失・毀損・賃貸によって抵当不動産の所有者が受けるべき,『目的物に代わるもの』に対しても,その効力が及びます。これを物上代位といいます。(372条による304条の準用) 目的物に代わるものとしては,火災保険金請求権・不法行為に基づく損害賠償請求権・土地収用の補償金・替地・賃料〔転貸賃料は判例で否定されている。(最高裁・平成12.4.14)〕・売買代金 などがあります。 ただし,抵当権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをすることが必要です。(372条による304条の準用)
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