Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 昭和55年・問7
抵当権の効力・一括競売・抵当権設定後の賃借権・火災保険金への物上代位
抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば誤っているものはどれか。 |
1.「抵当権は,抵当地の上にある建物には及ばない。」 |
2.「抵当権を更地の上に設定した後に,その設定者が抵当地の上に建物を建てたときは,抵当権者は,土地とともにその建物を競売することができる。」 |
3.「抵当権設定後に,抵当建物についてなされた賃貸借契約に基づく賃借権は,その期間の長短を問わず,賃借権の登記をしていれば,抵当権者に対抗できる。」改 |
4.「抵当建物が火災によって消滅した場合,その火災保険金に対して抵当権を行うことができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
1.「抵当権は,抵当地の上にある建物には及ばない。」 |
【正解:○】 ◆抵当権は抵当地の上の建物には及ばない 抵当権の効力は,別段の定めがなければ,抵当不動産だけでなく,「その目的たる不動産に附加してこれと一体を成したる物」にも及びますが,土地だけに抵当権が設定されているときには抵当地上の建物には抵当権は及びません。(民法370条) |
2.「抵当権を更地の上に設定した後に,その設定者が抵当地の上に建物を建てたときは,抵当権者は,土地とともにその建物を競売することができる。」 |
【正解:○】 ◆一括競売
更地に抵当権設定 建物を築造 抵当権の実行(競売)
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 抵当権設定時に建物がなく,その後抵当地に建物が建てられたときは,抵当権者は,建物の所有者が土地所有者自身でもまた第三者でも,原則として,土地と建物を一括して競売することができます。一括競売をするかどうかは任意です。 〔旧389条は,抵当権設定者自身が建物を築造した場合に限定していましたが,法改正により,この制限がなくなり,建物所有者が抵当権者に対抗できる敷地利用権を有する場合を除いて,建物所有者が抵当権設定者自身でなくても,一括競売できるようになりました。〕 一括競売で優先弁済を受けられるのは,土地の売却代金からのみです。建物の売却代金は建物所有者に帰属します。 |
●抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできない |
条文上は,抵当権設定当時に,すでに建物が存在していたときは一括競売することはできないので,その建物が設定者ではなく,第三者が築造した場合であっても一括競売することはできない。したがって,抵当権設定当時にすでに存在していた建物の所有者(第三者)が抵当権者に対抗できない場合であっても一括競売することはできない。 建物を築造 土地に抵当権設定 抵当権の実行(競売) ――●―――――――――――●――――――●―――――→ |
●一括競売できない建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時に既にあった建物 〔抵当地が更地ではない場合〕 |
第三者 | 抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を 有している賃借人が築造した建物 |
〔改正法施行後〕 抵当権設定後に,抵当権者の同意の登記により対抗力を 付与された土地の賃借人が築造した建物 |
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抵当権設定後に,改正法施行前に短期賃貸借の要件を 満たしていた土地の賃借人が築造した建物 〔改正法施行時に短期賃貸借の要件を既に満たしていた〕 |
●一括競売できる建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時は更地で,その後設定者によって築造された建物 |
第三者 | 抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与 されていない土地の賃借人」が築造した建物 |
抵当権設定後に,設定者によって築造された建物を譲り受けた が,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与されていない 土地の賃借人」が所有している建物 |
3.「抵当権設定後に,抵当建物についてなされた賃貸借契約に基づく賃借権は,その期間の長短を問わず,賃借権の登記をしていれば,抵当権者に対抗できる。」改 |
【正解:×】 ◆抵当権設定後の賃借権−抵当権者の同意による対抗力の付与
平成15年の民法改正により短期賃貸借は悪用されることが多いため廃止され,それに代わるものとして「抵当権者の同意による,賃借人への対抗力の付与」,「競売後の明渡し猶予」が創設されました。
抵当権設定後の賃借権で抵当権者に対抗できるのは『賃借権の登記があり,その賃貸借についての抵当権者の同意の登記により,賃借人への対抗力が付与された』場合です。本肢では,賃借権の登記はありますが,抵当権者の同意の登記がないため,抵当権者に対抗できません。したがって,本肢は×です。 ▼抵当権設定後の賃貸借契約でも,その賃借権の登記がされていて,(その賃借権の登記がされる前に抵当権が登記されている) 抵当権者全員がその賃借権の存続を承諾してその同意を登記したときは,賃借人は,同意した抵当権者に対して賃借権を対抗できる。(387条1項) 賃借権の登記 ――●――――――――――――●――――→ |
4.「抵当建物が火災によって消滅した場合,その火災保険金に対して抵当権を行うことができる。」 |
【正解:○】 ◆物上代位 抵当権では,同一性が認められる限り,抵当権の目的物が売却・滅失・毀損・賃貸によって抵当不動産の所有者が受けるべき,『目的物に代わるもの』に対しても,その効力が及びます。これを物上代位といいます。(372条による304条の準用) 目的物に代わるものとしては,火災保険金請求権・不法行為に基づく損害賠償請求権・土地収用の補償金・替地・賃料〔転貸賃料は判例で否定されている。(最高裁・平成12.4.14)〕・売買代金 などがあります。 ただし,抵当権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをすることが必要です。(372条による304条の準用)
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