Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 昭和57年・問6
共同抵当・抵当権設定者の使用収益権・一括競売
抵当権に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和57年・問6) |
1.「更地に抵当権を設定すると,当該更地の上に建物を建築することはできない。」 |
2.「同一の債権の担保のため,数個の不動産の上に抵当権を設定することができる。」 |
3.「抵当権者の同意がなければ,抵当権の目的物を譲渡することはできない。」 |
4.「更地に抵当権を設定した後で,抵当権設定者が当該更地の上に建物を建てた場合には,抵当権者は土地についてのみ競売をすることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
1.「更地に抵当権を設定すると,当該更地の上に建物を建築することはできない。」 |
【正解:×】 ◆抵当権設定者の使用収益権 抵当権は,債務者又は第三者〔物上保証人〕が債権者に占有を移さずに債務の担保に供した不動産から,債務不履行になったときに債権者が優先弁済を受けられる権利です。(369条1項) 抵当権の設定者は担保に供したまま,目的物の使用収益を継続することができます。抵当不動産を売却したり,賃貸したりするのも,自由であり,当然抵当地上に建物を築造することもできます。したがって,本肢は×です。 |
●参考問題 |
1.「Aは,Bに対し,自己所有の土地に抵当権を設定した後その土地上に建物を建築した。Bは,Aに対し,抵当権に基づきその建物の収去を請求することはできない。」(司法書士・昭和62-8-1) |
【正解:○】 |
2.「同一の債権の担保のため,数個の不動産の上に抵当権を設定することができる。」 |
【正解:○】関連問題・昭和42年,平成13年 ◆共同抵当 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産について抵当権を有する場合を共同抵当といいます。(392条)この場合,抵当不動産は,「全体で一つの被担保債権全額を担保し,被担保債権を各抵当不動産それぞれに分割する」のではありません。各不動産がそれぞれ被担保債権全額を担保します。(抵当権の不可分性) 抵当権の目的物が複数あれば,抵当不動産それぞれで一つの被担保債権全額を担保するので,担保価値が大きくなると同時に,リスクを分散することができます。一部の抵当不動産が値下がりしたり滅失したとしても残りの抵当不動産でカバーできる機能があるわけです。また,複数の抵当不動産のうちの一つから,被担保債権全額について優先弁済を受けることも可能です。 |
●チェック |
1.「同一の債権を担保するため,建物とその敷地以外の土地について抵当権を設定することはできない。」(司法試験択一・昭和47年) |
【正解 : ×】 |
3.「抵当権者の同意がなければ,抵当権の目的物を譲渡することはできない。」 |
【正解:×】 ◆抵当権設定者の使用収益権 肢1の解説参照。 |
4.「更地に抵当権を設定した後で,抵当権設定者が当該更地の上に建物を建てた場合には,抵当権者は土地についてのみ競売をすることができる。」 |
【正解:×】 ◆一括競売
更地に抵当権設定 建物を築造 抵当権の実行(競売)
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 抵当権設定時に建物がなく,その後抵当地に建物が建てられたときは,抵当権者は,建物の所有者が土地所有者自身でもまた第三者でも,原則として,土地と建物を一括して競売することができます。一括競売をするかどうかは任意です。したがって,本肢は×です。 〔旧389条は,抵当権設定者自身が建物を築造した場合に限定していましたが,法改正により,この制限がなくなり,建物所有者が抵当権者に対抗できる敷地利用権を有する場合を除いて,建物所有者が抵当権設定者自身でなくても,一括競売できるようになりました。〕 一括競売で優先弁済を受けられるのは,土地の売却代金からのみです。建物の売却代金は建物所有者に帰属します。 |
●抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできない |
条文上は,抵当権設定当時に,すでに建物が存在していたときは一括競売することはできないので,その建物が設定者ではなく,第三者が築造した場合であっても一括競売することはできない。したがって,抵当権設定当時にすでに存在していた建物の所有者(第三者)が抵当権者に対抗できない場合であっても一括競売することはできない。 建物を築造 土地に抵当権設定 抵当権の実行(競売) ――●―――――――――――●――――――●―――――→ |
●一括競売できない建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時に既にあった建物 〔抵当地が更地ではない場合〕 |
第三者 | 抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を 有している賃借人が築造した建物 |
〔改正法施行後〕 抵当権設定後に,抵当権者の同意の登記により対抗力を 付与された土地の賃借人が築造した建物 |
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抵当権設定後に,改正法施行前に短期賃貸借の要件を 満たしていた土地の賃借人が築造した建物 〔改正法施行時に短期賃貸借の要件を既に満たしていた〕 |
●一括競売できる建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時は更地で,その後設定者によって築造された建物 |
第三者 | 抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与 されていない土地の賃借人」が築造した建物 |
抵当権設定後に,設定者によって築造された建物を譲り受けた が,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与されていない 土地の賃借人」が所有している建物 |