Brush Up! 権利の変動篇

抵当権の過去問アーカイブス 昭和58年・問3

一括競売の可否・期限の利益・抵当権設定契約・物上代位


抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか。
(昭和58年・問3)

1.「土地及びその上に存する建物を所有するが,その土地の上に債権者のために抵当権を設定した。は,抵当権を実行する場合には,土地及び建物を一括して競売することができる。」

2.「自己の所有する建物に債権者のために抵当権を設定したが,その建物を過失により焼失させた場合,は,被担保債権についての期限の利益を失う。」

3.「抵当権設定契約の成立には,目的物の引渡しを必要とせず,かつ,必ずしも契約書の作成を要さない。」

4.「抵当権の目的物が滅失した場合には,抵当権の効力は,その滅失により目的物の所有者が受領すべき金銭にも及ぶ。」

【正解】

×

1.「土地及びその上に存する建物を所有するが,その土地の上に債権者のために抵当権を設定した。は,抵当権を実行する場合には,土地及び建物を一括して競売することができる。」

【正解:×

◆一括競売と法定地上権の区別 

 本肢は意外にヒッカカル問題です。ウッカリ○にした人もいるでしょう。

 土地に抵当権が設定されていたケースで,法定地上権か一括競売のどちらが適用されるか迷うことがありますが,抵当権設定時に建物があるかどうかで判断できます。

    法定地上権  一括競売
 抵当権設定時  土地の上に建物がある
 〔所有者が同じ〕
 更地
 抵当権の目的  土地 or 建物  土地
 建物の築造時点  抵当権設定より前  抵当権設定より後

 ●法定地上権と一括競売の区別
 抵当権設定時に『建物がある  → 法定地上権
 抵当権設定時に『建物がない  → 一括競売

法定地上権

   土地の上に建物
   土地・建物とも同一所有者       抵当権の実行(競売) 

 ―――――――――――――――――――――――→
  土地or建物の一方or双方に          ⇒ 土地・建物の所有者が異なる
  抵当権が設定された                       

一括競売

 更地に抵当権設定      建物を築造    抵当権の実行(競売)

 ――――――――――――――――――――――――→

 抵当権設定時に建物がなく,その後抵当地に建物が建てられたときは,抵当権者は,建物の所有者が土地所有者自身でもまた第三者でも,原則として,土地と建物を一括して競売することができます一括競売をするかどうかは任意です。

〔旧389条は,抵当権設定者自身が建物を築造した場合に限定していましたが,法改正により,この制限がなくなり,建物所有者が抵当権者に対抗できる敷地利用権を有する場合を除いて,建物所有者が抵当権設定者自身でなくても,一括競売できるようになりました。〕  

 一括競売で優先弁済を受けられるのは,土地の売却代金からのみです。建物の売却代金は建物所有者に帰属します。

●抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできない

 条文上は,抵当権設定当時に,すでに建物が存在していたときは一括競売することはできないので,その建物が設定者ではなく,第三者が築造した場合であっても一括競売することはできない。したがって,抵当権設定当時にすでに存在していた建物の所有者(第三者)が抵当権者に対抗できない場合であっても一括競売することはできない。

 建物を築造       土地に抵当権設定        抵当権の実行(競売)

 ――――――――――――――――――――――――→

●一括競売できない建物の代表例
 建物の所有者  どんな建物か?
 土地の所有者
 〔抵当権設定者〕
 抵当権設定時に既にあった建物
〔抵当地が更地ではない場合〕
 第三者  抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を
 有している賃借人
が築造した建物
 〔改正法施行後〕
 抵当権設定後に,抵当権者の同意の登記により対抗力を
 付与された土地の賃借人が築造した建物
  抵当権設定後に,改正法施行前に短期賃貸借の要件を
 満たしていた土地の賃借人が築造した建物
 〔改正法施行時に短期賃貸借の要件を既に満たしていた

●一括競売できる建物の代表例
 建物の所有者  どんな建物か?
 土地の所有者
 〔抵当権設定者〕
 抵当権設定時は更地で,その後設定者によって築造された建物
 第三者  抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与
 されていない
土地の賃借人」が築造した建物
 抵当権設定後に,設定者によって築造された建物を譲り受けた
 が,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与されていない
 土地の賃借人」が所有している建物

2.「自己の所有する建物に債権者のために抵当権を設定したが,その建物を過失により焼失させた場合,は,被担保債権についての期限の利益を失う。」

【正解:

◆担保の毀滅・減少により期限の利益を失う

 『期限の利益』とは,期限が到来するまでの間に,法律行為の発生・消滅又は債務の履行が猶予されることにより当事者が受ける利益のことを言います。

 たとえば,借金の返済の期限の日を決めるとその日までは返済を待ってもらえるため,利益があると言えます。

 そして,この期限の利益は,債務者〔設定者も含む〕が担保を毀滅または減少させたときは,期限の利益を主張することができないとされています。その結果,抵当権者は,直ちに弁済の請求をすることができるとともに,抵当権を実行することができます。(民法137条2号)

 本問では,抵当権設定者が抵当権を設定した建物 (担保) を過失により焼失させた(毀滅) ので,抵当権設定者は被担保債権について期限の利益を失うことになり,抵当権者は,弁済の請求をすることができます。

抵当権設定契約で,『抵当権の目的物が滅失ないし毀損をした場合,債権者は債務者に増担保または代担保を提供するように請求できる特約』をすることもできます。

期限の利益
 当事者間で別段の定めがなければ,この期限の利益は,原則として債務者のためにあると推定されます。(民法136条1項)

 期限の利益がある者,つまり債務者は期限の利益を放棄することもできますが,放棄する場合には,債権者の利益を害することはできません。(民法136条2項)

抵当権設定者の権利と義務
 抵当権設定者には,抵当権が実行されない限り,抵当権の目的物を使用収益する権利がありますが,抵当不動産を毀損する行為や価値を低下させるような使用収益は抵当権を侵害することになります。

 したがって,抵当権設定者には,抵当不動産を使用収益する権利と同時に,維持保存する義務があると考えられています。

●参考問題
1.「債務者が抵当権の目的物である不動産を毀損したときは,抵当権者は,被担保債権の弁済期の到来前であっても,抵当権を実行できる。」(司法書士・平成9-12-3)

【正解:

3.「抵当権設定契約の成立には,目的物の引渡しを必要とせず,かつ,必ずしも契約書の作成を要さない。」

【正解:

◆抵当権設定契約

  抵当権の設定のためには,債務者または物上保証人が目的物の引渡しを必要とせずに,債務者または物上保証人は引き続き目的物を占用・使用し収益をあげることができ,抵当権者は債務が弁済されないときには競売代金から優先弁済を受けられる権利(民法369条1項)です。

 この抵当権は,設定するという当事者間の契約によって成立し,設定の合意だけでよいとされています。(諾成契約) ← 登記は第三者への対抗要件。登記しなくても当事者間では効力があります。

 つまり,物権である抵当権の設定,移転は当事者の意思表示のみによってその効力を生じます(民法176条)

 したがって,抵当権設定の契約書の作成は必ずしも必要とはされません

目的物の引渡しを必要とせず・・・条文では「占有を移さず」となっています。

4.「抵当権の目的物が滅失した場合には,抵当権の効力は,その滅失により目的物の所有者が受領すべき金銭にも及ぶ。」

【正解:

◆物上代位

 抵当権では,同一性が認められる限り,抵当権の目的物が売却・滅失・毀損・賃貸によって抵当不動産の所有者が受けるべき,『目的物に代わるもの』に対しても,その効力が及びます。これを物上代位といいます。(372条による304条の準用)

 目的物に代わるものとしては,火災保険金請求権不法行為に基づく損害賠償請求権土地収用の補償金替地賃料〔転貸賃料は判例で否定されている。(最高裁・平成12.4.14)〕・売買代金 などがあります。 ⇒ 本肢では,『その滅失により目的物の所有者が受領すべき金銭』となっているので,<火災保険金請求権不法行為に基づく損害賠償請求権>が想定されています。

 ただし,抵当権者は,その払渡し又は引渡しの前に差押えをすることが必要です。(372条による304条の準用) 

▼物上代位の出題例

 売却代金(H2-6-3),損害賠償金(H7-6-3),火災保険金債権(昭和55-7-4),建物の賃貸借の賃料(H11-4-1,H15-5)


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