Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 昭和58年・問10 総合問題
抵当権実行の通知・担保責任・抵当権設定後の賃貸借・第三者弁済
AはBから土地を購入したが,その土地にはBの債権者Cのために抵当権が設定され,登記もされていた。この場合,次の記述のうち,民法の規定によれば,正しいものはどれか。(昭和58年・問10) |
1.「Cは,抵当権を実行しようとするときは,あらかじめAにその旨を通知しなければいけない。」法改正 |
2.「Cが抵当権を実行したためAが土地の所有権を失ったときは,AはBとの売買契約を解除することができる。」 |
3.「Aが第三者Dにこの土地を5年間賃貸する契約をし,その登記がなされたときは,Dは,Cの同意の登記がなくても,この賃借権をCに対抗することができる。」改 |
4.「BがCに対して負う債務をAがBに代わって弁済するためには,Bの承諾を得なければならない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
註 原題では「誤っているものはどれか」という設定でしたが,肢1・肢3が法改正により
×の肢になったため,改題しました。
1.「Cは,抵当権を実行しようとするときは,あらかじめAにその旨を通知しなければいけない。」 |
【正解:×】 ◆抵当権実行の通知は廃止された 旧381条では,『抵当権者は,抵当権を実行しようとするときは,滌除〔現行では抵当権消滅請求と改称〕をするかどうか検討させるチャンスを与えるために,あらかじめ第三取得者にその旨を通知しなければいけない』という規定がありましたが,平成15年の法改正で廃止されました。抵当権のある物件を購入した以上リスクを負うのは仕方がないということかもしれません。 ▼民事執行法では,競売開始決定により執行裁判所が債権者のため差し押さえる旨を宣言し,債務者または所有者に対して送達しますが(民事執行法45条1項・2項),この民事執行法の規定は「競売開始決定後」のことです。本肢はこれとは関係なく,現行の民法では「抵当権者は,抵当権を実行しようとするとき (つまり「競売開始決定前」に) ,あらかじめ第三取得者にその旨を通知する」という規定はありません。 |
▼混同注意・改正点・抵当権消滅請求を拒絶するときの競売申立通知義務 第三取得者が抵当権消滅請求をした場合に,抵当権者が競売の申立てをするときは,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,債務者及び抵当不動産の譲渡人に通知しなければいけません。(385条) |
2.「Cが抵当権を実行したためAが土地の所有権を失ったときは,AはBとの売買契約を解除することができる。」 |
【正解:○】 ◆瑕疵担保責任(抵当権設定)による契約解除 B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者) 抵当権が設定されている不動産の買主は,抵当権が実行され所有権を失った時には契約の解除や損害賠償請求をすることができます。(567条1項) |
3.「Aが第三者Dにこの土地を5年間賃貸する契約をし,その登記がなされたときは,Dは,Cの同意の登記がなくても,この賃借権をCに対抗することができる。」改 |
【正解:×】 ◆抵当権設定後の賃借権−抵当権者の同意による対抗力の付与 B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者)
平成15年の民法改正により短期賃貸借は悪用されることが多いため廃止され,それに代わるものとして「抵当権者の同意による,賃借人への対抗力の付与」,「競売後の明渡し猶予」が創設されました。
抵当権設定後の賃借権で抵当権者に対抗できるのは『賃借権の登記があり,その賃貸借についての抵当権者の同意の登記により,賃借人への対抗力が付与された』場合です。本肢では,賃借権の登記はありますが,抵当権者の同意の登記がないため,抵当権者に対抗できません。したがって,本肢は×です。 ▼抵当権設定後の賃貸借契約でも,その賃借権の登記がされていて,(その賃借権の登記がされる前に抵当権が登記されている) 抵当権者全員がその賃借権の存続を承諾してその同意を登記したときは,賃借人は,同意した抵当権者に対して賃借権を対抗できる。(387条1項) 賃借権の登記 ――●――――――――――――●――――→ |
4.「BがCに対して負う債務をAがBに代わって弁済するためには,Bの承諾を得なければならない。」 |
【正解:×】 ◆第三者弁済 B(抵当権設定者)・・・・C(抵当権者) BC間で前もって第三者の弁済を禁じる合意がなされていないならば,Aは,利害関係のある第三者なので,債務者Bの意思に反しても第三者弁済をすることができます。(474条2項) |