Brush Up! 権利の変動篇
抵当権の過去問アーカイブス 昭和62年・問5
一括競売・法定地上権の成否・地上権に抵当権設定・抵当権設定者の使用収益権
抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。 |
1.「AがBのためにA所有の更地に抵当権を設定した後,Aが当該更地の上に建物を新築した。この場合,抵当権者Bは土地については競売することができるが,建物については競売できない。」 |
2.「AがBのためにA所有の更地に抵当権を設定した後,Aが当該更地の上に建物を新築した。この場合,土地について競売が実施されると,建物について法定地上権が成立する。」 |
3.「地上権に基づき建物を所有しているときは,建物のほか,地上権に対しても抵当権を設定できる。」 |
4.「抵当権者の同意がなければ,抵当権の目的物を譲渡できない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
1.「AがBのためにA所有の更地に抵当権を設定した後,Aが当該更地の上に建物を新築した。この場合,抵当権者Bは土地については競売することができるが,建物については競売できない。」 |
【正解:×】 ◆一括競売
更地に抵当権設定 建物を築造 抵当権の実行(競売)
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ 抵当権設定時に建物がなく,その後抵当地に建物が建てられたときは,抵当権者は,建物の所有者が土地所有者自身でもまた第三者でも,原則として,土地と建物を一括して競売することができます。一括競売をするかどうかは任意です。本肢では「土地については競売することができるが,建物については競売できない」とあるので×です。 〔旧389条は,抵当権設定者自身が建物を築造した場合に限定していましたが,法改正により,この制限がなくなり,建物所有者が抵当権者に対抗できる敷地利用権を有する場合を除いて,建物所有者が抵当権設定者自身でなくても,一括競売できるようになりました。〕 一括競売で優先弁済を受けられるのは,土地の売却代金からのみです。建物の売却代金は建物所有者に帰属します。 |
●抵当権設定前に築造された建物は,誰が築造したとしても一括競売することはできない |
条文上は,抵当権設定当時に,すでに建物が存在していたときは一括競売することはできないので,その建物が設定者ではなく,第三者が築造した場合であっても一括競売することはできない。したがって,抵当権設定当時にすでに存在していた建物の所有者(第三者)が抵当権者に対抗できない場合であっても一括競売することはできない。 建物を築造 土地に抵当権設定 抵当権の実行(競売) ――●―――――――――――●――――――●―――――→ |
●一括競売できない建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時に既にあった建物 〔抵当地が更地ではない場合〕 |
第三者 | 抵当権設定前から抵当権者に対抗できる土地の賃借権を 有している賃借人が築造した建物 |
〔改正法施行後〕 抵当権設定後に,抵当権者の同意の登記により対抗力を 付与された土地の賃借人が築造した建物 |
|
抵当権設定後に,改正法施行前に短期賃貸借の要件を 満たしていた土地の賃借人が築造した建物 〔改正法施行時に短期賃貸借の要件を既に満たしていた〕 |
●一括競売できる建物の代表例 | |
建物の所有者↓ | どんな建物か?↓ |
土地の所有者 〔抵当権設定者〕 |
抵当権設定時は更地で,その後設定者によって築造された建物 |
第三者 | 抵当権設定後に,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与 されていない土地の賃借人」が築造した建物 |
抵当権設定後に,設定者によって築造された建物を譲り受けた が,「抵当権者の同意の登記により対抗力を付与されていない 土地の賃借人」が所有している建物 |
2.「AがBのためにA所有の更地に抵当権を設定した後,Aが当該更地の上に建物を新築した。この場合,土地について競売が実施されると,建物について法定地上権が成立する。」 |
【正解:×】 ◆法定地上権の成否 土地に抵当権が設定されていたケースで,法定地上権か一括競売のどちらが適用されるか迷うことがありますが,抵当権設定時に建物があるかどうかで判断できます。 本肢では,抵当権設定時に建物がない〔更地に抵当権を設定〕ので,法定地上権は成立しません。
●法定地上権の要件 土地の上に建物 ―――●―――――――――――――――●―――――→ ●一括競売の要件
更地に抵当権設定 建物を築造 抵当権の実行(競売)
―――●―――――――――●―――――――●―――――→ |
3.「地上権に基づき建物を所有しているときは,建物のほか,地上権に対しても抵当権を設定できる。」 |
【正解:○】 ◆抵当権の目的−地上権 民法では,抵当権は,不動産〔土地・建物〕・地上権・永小作権に設定できます。(369条)
したがって,地上権に基づき建物を所有しているときは,建物のほか,地上権に対しても抵当権を設定できます。 |
4.「抵当権者の同意がなければ,抵当権の目的物を譲渡できない。」 |
【正解:×】 ◆抵当権設定者の使用収益権 抵当権は,債務者又は第三者〔物上保証人〕が債権者に占有を移さずに債務の担保に供した不動産から,債務不履行になったときに債権者が優先弁済を受けられる権利です。(369条1項) 抵当権の設定者は担保に供したまま,目的物の使用収益を継続することができます。抵当不動産を売却したり,賃貸したりするのも,自由です。したがって,本肢は×です。 |