Brush Up! 権利の変動篇
不動産登記の過去問アーカイブス 平成9年・問15 改正対応
買戻しの特約・地役権設定・建物の合体・遺産分割による相続の登記
不動産登記の申請に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成9年・問15) |
1.「買戻しの特約の登記の申請は,売買による所有権移転の登記がされた後でなければ,することができない。」 |
2.「地役権設定の登記の申請は,要役地及び承役地の双方に所有権の登記がされている場合でなければ,することができない。」 |
3.「合体による登記の申請は,既に登記された建物とまだ登記されていない建物とが合体する場合には,することができない。」 |
4.「遺産分割協議書に基づく相続を原因とする所有権移転の登記の申請は,共同相続の登記がされていない場合には,することができない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
1.「買戻しの特約の登記の申請は,売買による所有権移転の登記がされた後でなければ,することができない。」 |
【正解:×】 ◆買戻しの登記 民法第581条1項の規定によれば,売買契約と“同時に”買戻の特約を登記したときその買戻をもって第三者に対抗することができます。 また,不動産登記法の規定によれば,買戻の特約の登記は「買主の権利の取得の登記に附記してなされ」ます。したがって,移転登記“後”にされるものではありません。 |
●不動産登記法での買戻しの条文一覧 |
□買戻しの特約の登記 ●不動産登記法96条 (買戻しの登記の登記事項), ●登記令・別表64項 (申請情報・添付情報), ●登記規則174条 (買戻しの登記の抹消), □付記登記 ●不動産登記法4条 (権利の順位) ●登記規則3条9号 (付記登記) ●登記規則148条 (付記登記の順位番号) |
【書式例】
【権利部 (甲区)】 (所有権に関する事項) | ||||
【順位番号】 | 【登記の目的】 | 【受付年月日・受付番号】 | 【原因】 | 【権利者その他の事項】 |
1 | 所有権保存 | ・・ | 余白 | 所有者 豊臣秀頼 |
2
付記1号 |
所有権移転 | ・・ | 年月日 売買 |
所有者 徳川家康 |
買戻特約 | ・・ | 年月日 特約 |
買戻権者 豊臣秀頼 |
2.「地役権設定の登記の申請は,要役地及び承役地の双方に所有権の登記がされている場合でなければ,することができない。」 |
【正解:○】 ◆地役権の登記 地役権(民法第280条)とは,他人の土地(承役地)を自己の土地(要役地)の便益に供する権利のことで,具体的には公道へ出る近道のため他人の土地を通行する通行地役権などがあります。 また,地役権とは所有権以外の権利であるため,承役地および要役地の乙区に記載されるものです(不動産登記規則4条4項)。 しかし,乙区欄への記載は,甲区に所有権の登記があってはじめてできるものであり,したがって,地役権の登記は,承役地および要役地の双方に所有権の登記がなければできません(不動産登記法第80条3項,1項,4項)。 |
3.「合体による登記の申請は,既に登記された建物とまだ登記されていない建物とが合体する場合には,することができない。」 |
【正解:×】 ◆建物の合体 「建物の合体」とは,『数個の建物が,増築等の工事により構造上1個の建物となる』ことをいいます。(平成5.7.30.民三5320号通達)(不動産登記法・49条) この合体前の建物には,いろんなケースが考えられます。 ・未登記の建物と表示の登記のみの建物 数個の区分建物の隔壁を除去する工事などにより区分性を失って一つの建物とした場合なども「建物の合体」に含まれており,正にナンデモアリの世界。 したがって,『既に登記された建物とまだ登記されていない建物とが合体することはできない』とする本肢は×です。 □既に登記された建物・・・表示の登記のみ or 所有権の登記のある建物 □所有権の登記のある建物・・・所有権保存登記のある建物
※合併は数個の建物をまとめて登記記録上1個の建物として扱い,主たる建物と附属建物の関係として一登記記録に記録する。 ▼原則として,建物の合体後1ヵ月以内に,合体後の建物の表題登記及び合体前の建物の表題部の登記の抹消を申請しなければなりません(不動産登記法49条1項)。 ▼平成5年の不動産登記法の改正により,建物の合体の登記手続の規定が新設。 ▼合併では,所有権の登記がない建物と所有権の登記がある建物を合併することはできない(不動産登記法56条4号)。 |
4.「遺産分割協議書に基づく相続を原因とする所有権移転の登記の申請は,共同相続の登記がされていない場合には,することができない。」 |
【正解:×】 ◆遺産分割に基づく所有権移転登記 相続人が数人あるとき,その相続財産はその相続人の共有に属し(民法第898条),遺産分割されると相続開始の時にさかのぼって効力を生じます(民法第909条)。 共同相続の登記がなければ,遺産分割による所有権移転登記をすることができないという規定は不動産登記法にはないので,本肢は誤りです。 |
【遺産分割について】 1、相続人が数人ある時は,相続財産は,その共有に属する。(民法896条) 2、共同相続人は,分割を禁止する特約がない限り,いつでも,分割協議をすることができる。(民法907条1項)分割協議は,共同相続人全員が参加しなければならない。 3、遺産の分割は,相続の時に遡ってその効力を生ずるので,共同相続登記前に遺産分割協議が成立した場合は,その遺産を直接相続人から取得したことになり,「相続」を原因として,単独申請により,直接相続人名義で登記できます。 |