Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記の過去問アーカイブス 登記識別情報 平成10年・問14 改正対応


不動産登記の登記識別情報の提供に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。ただし,申請人が登記識別情報を提供することができないことについて正当な理由がある場合については考慮しないものとする。(平成10年・問14)

1.「相続による所有権移転登記を申請する場合には,申請情報と併せて被相続人の所有権の登記の登記識別情報を提供しなければならない。」

2.「所有権保存登記の抹消をその所有権の登記名義人が申請する場合には,申請情報と併せて当該所有権保存登記を受けた際の登記識別情報を提供しなければならない。」

3.「所有権の登記がある二筆の土地の合筆登記を申請する場合には,申請情報と併せて合筆前のいずれか一筆の土地の所有権の登記の登記識別情報を提供しなければならない。」

4.「抵当権の順位変更の登記を申請する場合には,申請情報と併せて,順位を変更する各抵当権の登記名義人が抵当権の設定登記を受けた際の登記識別情報を提供しなければならない。」

【正解】

×

1.「相続による所有権移転登記を申請する場合には,申請情報と併せて被相続人の所有権の登記の登記識別情報を提供しなければならない。」

【正解:×

◆相続による所有権移転登記

 共同申請により登記申請する場合政令で定める登記を申請する場合登記義務者(権利を失う者)の権利に関する登記識別情報(登記済証)を提供するのが原則です(不動産登記法第22条,登記令8条)

 しかし,登記原因が“相続”の場合は,登記義務者は既に死亡しているため,登記権利者が単独で申請することになり(第63条2項),「相続を証する市町村長,登記官その他の公務員が職務上作成した情報及びその他の登記原因を証する情報」を添付情報として提供することになります(登記令別表22項)が,登記識別情報は不要です。

 また,登記識別情報の所在を死者に尋ねようもない,という至極常識的な事情もあります。

 添付情報  登記原因証明情報 (相続を証する情報)
 住所証明情報 (相続人の住民票の写し)

2.「所有権保存登記の抹消をその所有権の登記名義人が申請する場合には,申請情報と併せて当該所有権保存登記を受けた際の登記識別情報を提供しなければならない。」

【正解:

◆所有権保存登記の抹消−所有権の移転がない場合の所有権の登記の抹消

 本設問の記述は特殊な事例ですが、所有権の移転の登記がない限り、所有権保存登記の抹消をその登記名義人は申請でき、その登記識別情報を提供する必要があります(不動産登記法77条,登記令8条1項5号)

 所有権保存登記の抹消登記は,所有権の登記名義人が単独でしますが,そのときには添付情報として,登記識別情報(不動産登記法22条)を提供します(登記令8条1項5号)

 添付情報  ・登記原因証明情報 
 ・登記識別情報
 ・登記上の利害関係のある第三者がいるときはその承諾を証する情報
  又は
  その第三者に対抗することができる裁判があったことを証する情報

3.「所有権の登記がある二筆の土地の合筆登記を申請する場合には,申請情報と併せて合筆前のいずれか一筆の土地の所有権の登記の登記識別情報を提供しなければならない。」
(類・平成2年・問15,)

【正解:

合筆登記に必要なもの

 数筆の土地を一筆の土地に合筆登記すること(同一名義で登記されている隣接する複数の土地を一つの土地にすること)は,権利の移転登記の場合とは異なり,いわば形式的な登記であり,合筆前の土地の所有権の登記名義人であることを形式的に確認するため,合併前のいずれか一筆の土地の所有権の登記名義人の登記識別情報を提供すればOKです(不動産登記法22条,登記令8条1項1号,2項)

●表示に関する登記申請で,登記識別情報が必要な場合
 表示に関する登記で,登記識別情報が必要なのは,以下の三つです(登記令・8条1項1号〜3号,同2項)

・所有権の登記がある土地の合筆の登記⇒合筆に係る土地のうちいずれか一筆の土地の所有権の登記名義人の登記識別情報

・所有権の登記がある建物の合体の登記⇒合体に係る建物のうちいずれか一個の建物の所有権の登記名義人の登記識別情報

・所有権の登記がある建物の合併の登記⇒合併に係る建物のうちいずれか一個の建物の所有権の登記名義人の登記識別情報

4.「抵当権の順位変更の登記を申請する場合には,申請情報と併せて,順位を変更する各抵当権の登記名義人が抵当権の設定登記を受けた際の登記識別情報を提供しなければならない。」

【正解:

◆抵当権の順位変更

 抵当権の順位変更の登記の申請には,順位を変更する各抵当権の登記名義人の登記識別情報を提供する必要があります。(不動産登記法22条,登記令8条1項6号)

抵当権の順位の変更とは,複数の抵当権者の間で,その順位を入れ替えて,抵当権設定登記での順位によらずに変更後の順位によって優先弁済を受けることができるようにするものです。(民法374条1項)

抵当権の順位変更の登記は常に主登記でなされます。(昭和46.10.4民甲3230号通達)

   【権利部 (乙区)】  (所有権以外の権利に関する事項)
【順位番号】 【登記の目的】 【受付年月日・受付番号】 【原因】 【権利者その他の事項】

(3)

抵当権設定  ・・  ・・ ・・抵当権者 A

(3)

抵当権設定  ・・  ・・ ・・抵当権者 B
1番、2番順位変更  ・・ 合意  第1 2番抵当権
 第2 1番抵当権

実際の全部事項証明書では順位番号欄の抵当権の順位変更後の番号は左右に括弧が
つく〔上の例では(3)〕のではなく上下に括弧がつきます。
●権利に関する登記申請で,登記識別情報が必要な場合
  権利に関する登記で,共同申請により登記申請する場合のほかに,政令で定める登記申請として,登記識別情報が必要なのは,以下の五つです(登記令・8条1項4号〜8号)

・仮登記の登記名義人が単独で申請する仮登記の抹消

・所有権の移転の登記がない場合における所有権の登記の抹消

質権または抵当権順位の変更の登記

 −以下は覚える必要なし。−

・共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記

・根抵当権の共有者が民法394条1項の但書の定めを登記するとき

<以上の五つに該当するものでも,確定判決による登記では,登記識別情報は不要です。>


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