Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記法の過去問アーカイブス 所有権保存の登記 平成12年・問14 改正対応


●メッセージ
 この年の問題は,所有権保存登記の申請適格があるかどうかを問うています。不動産登記法74条を満遍なく出題していますが登記先例もシッカリ出題しています。

所有権保存の登記に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。(平成12年・問14)

1.「所有権の登記がされていない建物について,その所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,当該建物の所有権保存の登記を申請することができる。」

2.「被相続人が土地の登記記録の表題部所有者になっている場合において,その相続人が複数あるときは,共同相続人の1人は,自己の持分についてのみ所有権保存の登記を申請することができる。」

3.「土地収用法による収用によって土地の所有権を取得した者は,直接自己名義に当該土地の所有権保存の登記を申請することができる。」

4.「1棟の建物を区分した建物の登記記録の表題部所有者から所有権を取得した者は,直接自己名義に当該建物の所有権保存の登記を申請することができる。ただし,この場合において,当該建物が敷地権付き区分建物であるときは,当該敷地権の登記名義人の承諾を得なければならない。」

【正解】

×

【関連項目】 表題部の所有者 (関連問題) 所有権保存相続と所有権保存

所有権保存の登記の申請適格者
(所有権の保存の登記)
第74条
 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。

一  表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人

二  所有権を有することが確定判決によって確認された者

三  収用(土地収用法 (昭和26年法律第219号)その他の法律の規定による収用をいう。第118条第1項及び第3項から第5項までにおいて同じ。)によって所有権を取得した者

2  区分建物にあっては、表題部所有者から所有権を取得した者も、前項の登記を申請することができる。この場合において、当該建物が敷地権付き区分建物であるときは、当該敷地権の登記名義人の承諾を得なければならない。

基本:表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人(法74条1項1号)

 【例外】

判決(この場合は確認判決でもよい)により自己の所有権を証する者(法74条1項2号)

土地収用法により土地を収用した者(法74条1項3号)

・区分建物の場合、表題部所有者から所有権を取得した者(法74条2項)

これ以外のものとしては債権者の代位による保存登記の申請もできます(不動産登記法・74条1項1号,59条7項,登記令3条4項など)

 ・買主は売主に代位して保存登記の申請をすることができる。(大審院・大正5.2.2)

 ・未登記不動産を譲渡した者の債権者は自己の債権の保全をするために債務者に代位して保存登記の申請をすることができる。(大審院・昭和17.12.8)

不動産登記法74条1項による所有権保存登記の申請では,登記原因証明情報を提供することを要しない(登記令7条3項1号,別表28項)

1.「所有権の登記がされていない建物について,その所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,当該建物の所有権保存の登記を申請することができる。」(類・平成元年・問16,平成8年・問16)

【正解:

◆確定判決によって所有権を証することができる者

 条文どおりの問題文です。(法74条1項2号)

 所有権の登記がされていない建物について,その所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,当該建物の所有権保存の登記を申請することができます。

 なお,ここでいう確定判決とは,所有権を認めているものならば,給付判決・確認判決・形成判決のどれでもよいとされており(大審院・大正15.6.23),判決の主文でなく判決理由で所有権を認めているものでもよく,裁判上の和解・調停などの,「所有権を認めているもの」でもよいとされています。(法74条1項2号)(不動産登記法63条1項の確定判決による単独申請では給付判決に限られていますがこれとは違います。民法414条2項但書) 

●所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者
 所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,以下の場合,所有権保存の登記を申請することができる。

 ・所有権の登記がされていない不動産 (表題部だけがある。)

 ・表示の登記がされていない不動産   (表題部もない。)

●類題

1.「表題登記のみがされた建物の買主は,売主に対して所有権移転登記手続を命ずる確定判決を得たときは,直接自己名義の保存登記を申請できる。」(司法書士・平成3年)

【正解:
2.「不動産につき判決により自己の所有権を証明する者は,いまだその不動産の表題登記がされていない場合でも,その所有権保存の登記を申請できる。」(司法書士・昭和57年)
【正解:

 確定判決によって所有権を証することができる者(法74条1項2号)土地収用法による収用によって土地の所有権を取得した者(法74条1項3号)は,いまだその不動産の表題登記がなされていない場合でも,その所有権保存の登記を申請できるとされています。

この場合,表題登記がされていないので,所有権保存の登記の申請を受けると,登記官の職権によって表題登記がされます。

2.「被相続人が土地の登記記録の表題部所有者になっている場合において,その相続人が複数あるときは,共同相続人の1人は,自己の持分についてのみ所有権保存の登記を申請することができる。」

【正解:×

◆共同相続人の1人からの申請

 登記簿の表題部に被相続人が所有者として記載されているということは,まだ所有権保存登記がなされていないわけですが,相続人が複数あるときに,共同相続人はどのように所有権保存登記をするのでしょうか?

 まず,相続人は,被相続人が所有者として記載されているときに,被相続人名義,相続人名義のどちらででも,所有権保存登記ができます(昭和39.9.18民甲232号回答)

 本肢では,相続人名義で,所有権保存登記する場合です。

 このほか次の先例があります。

●登記先例
共同相続人(共有者)の1人は,

  全員のための所有権保存登記の申請は共有財産の保存行為として,
  できる(民法252条の保存行為)(明治33.12.18民刑1611号民刑局長回答)

  自己の持分のみについて所有権保存登記の申請をすることはできない
                       (明治32.8.8民刑1311号民刑局長回答)

●類題

1.「表題部に所有者として記載された者が死亡し,共同相続があった場合,各共同相続人が各別に自己の持分のみにつき保存登記を申請することはできない。」(司法書士・昭和60年)

【正解:

3.「土地収用法による収用によって土地の所有権を取得した者は,直接自己名義に当該土地の所有権保存の登記を申請することができる。」

【正解:

収用によって土地の所有権を取得した者

 条文どおりの問題文です。(法74条1項3号)

 土地収用法による収用によって土地の所有権を取得した者(起業者)は,直接自己名義に当該土地の所有権保存の登記を申請することができます。

4.「1棟の建物を区分した建物の登記記録の表題部所有者から所有権を取得した者は,直接自己名義に当該建物の所有権保存の登記を申請することができる。ただし,この場合において,当該建物が敷地権付き区分建物であるときは,当該敷地権の登記名義人の承諾を得なければならない。」

【正解:

◆区分建物の表題部に記載された所有者から取得した者

 条文どおりの問題文です。(法74条2項)

 1棟の建物を区分した建物の登記簿の表題部に記載された所有者から所有権を取得したことを証明できる者は,直接自己名義に当該建物の所有権保存の登記を申請することができます。ただし,この場合に,当該建物が敷地権付き区分建物であるときは,当該敷地権の登記名義人の承諾を得なければいけません。


権利の登記のトップに戻る

(不動産登記法の) 過去問インデックスに戻る (不動産登記法の) 年度別の過去問に戻る

不動産登記法のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る