宅建業法 実戦篇
自ら売主の制限の過去問アーカイブス 平成2年・問42 手付金等保全措置
宅地建物取引業者Aは,自ら売主となって,宅地建物取引業者でないBと1億円の宅地の売買契約(手付金900万円,中間金4,100万円,残代金5,000万円)を締結した。この場合,宅地建物取引業法第41条及び第41条の2に規定する手付金等の保全措置(以下この問において「保全措置」という。)に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。 |
1.「当該契約が宅地造成工事完了前に宅地建物取引業者Cの媒介により締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を残代金の支払いと同時とした場合,Aは,保全措置を講じることなく,手付金及び中間金を受領することができる。」 |
2.「当該契約が宅地造成工事完了前に締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を中間金の支払いと同時とした場合,Aは,指定保管機関Dと宅地建物取引業法第41条の2第1項第1号に規定する手付金等寄託契約を締結し,その契約を証する書面をBに交付すれば,手付金を受領することができる。」 |
3.「当該契約が宅地造成工事完了後に締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を残代金の支払いと同時とした場合,Aは,信用金庫Eとの間で,Aが受領した手付金及び中間金の返還債務を負うこととなった場合にはEがその債務を連帯して保証することを委託する契約を締結し,その契約に基づくEの連帯保証書をBに交付すれば,手付金及び中間金を受領することができる。」 |
4.「当該契約が宅地造成工事完了後に締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を中間金の支払いと同時とした場合,Aは,保全措置を講じなければ,手付金を受領することができない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
●Comments |
問42は,各肢ごとに,未完成物件・完成物件の別,移転登記の時期が異なるため,気を使います。問題文の内容を正確に読み取れるようにしておきましょう。 |
1.「当該契約が宅地造成工事完了前に宅地建物取引業者Cの媒介により締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を残代金の支払いと同時とした場合,Aは,保全措置を講じることなく,手付金及び中間金を受領することができる。」 |
【正解:×】 ◆代金の5%超の手付金等を受領するには保全措置を講じなければならない 媒介業者が間に入っていても,自ら売主の制限が適用されることに注意してください。 宅建業者が,自ら売主として,宅建業者ではない買主と未完成物件の売買契約を締結するに際し,代金の5%超または1,000万円超の手付金等を受領しようとするには,手付金等保全措置を講じなければなりません(宅建業法41条1項)。 手付金900万円は代金の5%〔500万円〕を超えているので,まず手付金を受領する前に手付金等保全措置を講じておかなければなりません。また,手付金等には中間金も含まれるので,中間金4,100万円を受領する前にも保全措置を講じておかなければなりません。 したがって,<保全措置を講じることなく,手付金及び中間金を受領することができる>とする本肢は誤りです。
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2.「当該契約が宅地造成工事完了前に締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を中間金の支払いと同時とした場合,Aは,指定保管機関Dと宅地建物取引業法第41条の2第1項第1号に規定する手付金等寄託契約を締結し,その契約を証する書面をBに交付すれば,手付金を受領することができる。」 |
【正解:×】 ◆未完成物件での保全措置には,<指定保管機関等による保管>はない 本肢では,手付金を受領する前に保全措置を講じる必要があります。 (宅地の引渡し及び登記の移転がされたときには保全措置を講じる必要がないので,中間金については保全措置を講じる必要はありません。) 自ら売主としての完成物件売買の手付金等保全措置では,(i) 銀行等との保証委託契約,(ii) 保険事業者との保証保険契約の保全措置のほかに,(iii)指定保管機関との手付金等寄託契約による保管がありますが,未完成物件の売買では指定保管機関との手付金等寄託契約による保管はないので,本肢は誤りです。
▼完成物件で手付金等保全措置として<指定保管機関との手付金等寄託契約による保管>をする場合は,宅建業者ではない買主に,当該手付金等寄託契約を証する書面を買主に交付することになっています(宅建業法41条の2第1項第1号)。 |
3.「当該契約が宅地造成工事完了後に締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を残代金の支払いと同時とした場合,Aは,信用金庫Eとの間で,Aが受領した手付金及び中間金の返還債務を負うこととなった場合にはEがその債務を連帯して保証することを委託する契約を締結し,その契約に基づくEの連帯保証書をBに交付すれば,手付金及び中間金を受領することができる。」 |
【正解:○】 ◆銀行等が連帯して保証することを約する書面の交付 完成物件で,手付金等を受領する前に,手付金等保全措置を講じなければならないのは,代金の10%超または1,000万円超のときです。 本肢の場合,手付金900万円は代金の10%〔1,000万円〕を超えていないので,手付金を受領する前には保全措置を講じる必要はありませんが,手付金900万円と中間金4,100万円の合計では1,000万円を超えてしまうので,中間金を受領する前に保全措置を講じておく必要があります。 完成物件でも,保全措置として,銀行等と保証委託契約を締結することができます。 宅建業者が,手付金等保全措置として,銀行等と保証委託契約を締結した場合は,銀行等が手付金等の返還債務を連帯して保証することを約する書面を買主に交付しなければなりません(宅建業法41条1項1号,41条の2第1項本文)。 本肢は正しい記述です。
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●手付金等保全措置を講じたときに宅建業者がしなければならないこと | |
銀行等との
保証委託契約 |
銀行等が手付金等の返還債務を連帯して保証することを 約する書面を買主に交付する。 |
保険業者との
保証保険契約 |
保険証券またはこれに代わる書面を買主に交付する。 |
指定保管機関等による保管 | 手付金等寄託契約を証する書面を買主に交付する。 |
指定保管機関等による保管
(買主と質権設定契約を締結) |
質権設定契約を証する書面を買主に交付し, 質権の設定を確定日付のある証書で指定保管機関に 通知する。 |
4.「当該契約が宅地造成工事完了後に締結され,宅地の引渡し及び登記の移転を中間金の支払いと同時とした場合,Aは,保全措置を講じなければ,手付金を受領することができない。」 |
【正解:×】 ◆完成物件で保全措置を講じなければならない手付金等の額 完成物件で,手付金等を受領する前に,手付金等保全措置を講じなければならないのは,代金の10%超または1,000万円超のときです。 本肢の場合,手付金900万円は代金の10%〔1,000万円〕を超えていないので,手付金を受領する前に保全措置を講じる必要はありません。 (宅地の引渡し及び登記の移転がされたときには保全措置を講じる必要がないので,本肢では,中間金を受領する前に,手付金+中間金の合計について,保全措置を講じる必要はありません。)
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