宅建業法 実戦篇
自ら売主の制限の過去問アーカイブス 平成5年・問43
手付放棄による契約の解除・損害賠償額の予定等の制限・
手付金等の保全措置・保証委託契約
宅地建物取引業者Aは,自ら売主となって,建築工事完了前の建物を,宅地建物取引業者でない買主Bに代金6,000万円で譲渡する契約を締結し,手付金として500万円を受け取った。この場合,次の記述のうち,宅地建物取引業法の規定に違反するものはどれか。(平成5年・問43) |
1.「契約締結の際,ABの合意で,『当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,Bは手付を放棄して,また,Aは手付の3倍の額を償還して,契約を解除することができる』との特約を結んだ。」 |
2.「契約締結の際,ABの合意で,『当事者の一方が契約の履行に着手した後契約を解除するには,1,200万円の違約金を支払わなければならない』との特約を結んだ。」 |
3.「契約締結の1週間後に中間金1,000万円を支払うこととされていたので,Aは,手付金 500万円について,中間金受領の際に,まとめて手付金等の保全措置を講じた。」 |
4.「Aは,手付金等の保全措置について,C信用金庫と保証委託契約を締結し,その連帯保証書をBに交付した。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
違反しない | 違反しない | 違反する | 違反しない |
1.「契約締結の際,ABの合意で,『当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,Bは手付を放棄して,また,Aは手付の3倍の額を償還して,契約を解除することができる』との特約を結んだ。」 |
【正解:違反しない】 ◆手付放棄による契約の解除 宅建業者が,自ら売主となる宅地建物の売買契約を宅建業者ではない者と締結するに際して手附を受領したときは,その手附がいかなる性質のものであつても,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手附を放棄して,当該宅建業者はその倍額を償還して,契約の解除をすることができます(宅建業法39条2項)。 この規定に反する特約で,買主に不利なものは無効(宅建業法39条3項)ですが,本肢では<宅建業者は手付の3倍の額を償還して解除>となっていて,買主に有利な特約なので有効で,宅建業法に違反しません。 |
2.「契約締結の際,ABの合意で,『当事者の一方が契約の履行に着手した後契約を解除するには,1,200万円の違約金を支払わなければならない』との特約を結んだ。」 |
【正解:違反しない】 ◆損害賠償額の予定等の制限 宅建業者が自ら売主となる宅地建物の売買契約を宅建業者ではない者と締結する際に,当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し,又は違約金を定めるときは,それらを合算した額が代金の額の20%を超える定めをすることはできません。この規定に反する特約は,代金の額の20%を超える部分について無効となります(宅建業法38条1項,2項)。 本肢での違約金は1,200万円は,代金6,000万円のちょうど20%なので,宅建業法には違反しません。 |
3.「契約締結の1週間後に中間金1,000万円を支払うこととされていたので,Aは,手付金 500万円について,中間金受領の際に,まとめて手付金等の保全措置を講じた。」 |
【正解:違反する】 ◆手付金等の保全措置 宅建業者が自ら売主となる未完成物件の宅地建物の売買契約を宅建業者ではない者と締結するに際し,代金の5%または1,000万円を超える手付金等を受領しようとするときは,あらかじめ手付金等保全措置を講じなければ,受領することができません(宅建業法41条1項,施行令3条の2)。 手付金 500万円は代金6,000万円の約8.3%なので,手付金等保全措置を講じなければ受領することはできません。本肢では,中間金受領の際に,まとめて手付金等の保全措置を講じたとしているので,宅建業法に違反します。 |
4.「Aは,手付金等の保全措置について,C信用金庫と保証委託契約を締結し,その連帯保証書をBに交付した。」 |
【正解:違反しない】 ◆手付金等の保全措置・保証委託契約 未完成物件での手付金等保全措置は,銀行等との保証委託契約によるものと,保険事業者との保証保険契約によるものと2通りあります(宅建業法・41条1項)。 本肢での信用金庫も「銀行等」 (銀行その他政令で定める金融機関又は国土交通大臣が指定する者) として指定されています。 したがって,Aが,手付金等の保全措置について,C信用金庫と保証委託契約を締結し,その連帯保証書をBに交付したことは宅建業法に違反しません。 ●銀行等(銀行その他政令で定める金融機関又は国土交通大臣が指定する者)との保証委託契約(宅建業法・41条1項1号) 銀行等との間で,宅建業者が受領した手付金等の返還債務を負うこととなった場合に,当該銀行等がその債務を連帯して保証することを委託する契約を締結し,かつ,当該保証委託契約に基づいて当該銀行等が手付金等の返還債務を連帯して保証することを約する書面を買主に交付する。 ●保険事業者との保証保険契約(宅建業法・41条1項2号) 保険事業者との間で,宅建業者が受領した手付金等の返還債務の不履行により買主に生じた損害のうち少なくとも当該返還債務の不履行に係る手付金等の額に相当する部分を当該保険事業者がうめることを約する保証保険契約を締結し,かつ,保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付する。 ▼宅建業者は,書面の交付に代えて,買主の承諾を得て,電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて,書面の交付に準ずるものとして国土交通省令で定めるものを講じることができます(宅建業法・41条5項,41条の2・6項)。 |
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