宅建業法 実戦篇

保証協会の過去問アーカイブス 平成10年・問38


宅地建物取引業者 (甲県知事免許) が宅地建物取引業保証協会 (以下この問において「保証協会」という。) に加入しようとし,又は加入した場合に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(平成10年・問38)

1.「は,弁済業務保証金分担金を金銭をもって保証協会に納付しなければならないが,保証協会は,弁済業務保証金を国債証券その他一定の有価証券をもって供託所に供託することができる」

2.「と取引した者が複数ある場合で,これらの者からそれぞれ保証協会に対し認証の申出があったとき,保証協会は,これらの者の有する債権の発生の時期の順序に従って認証に係る事務を処理しなければならない。」

3.「が保証協会に対して有する弁済業務保証金分担金の返還請求権を第三者が差し押さえ,転付命令を受けた場合で,その差押えの後に保証協会がに対して還付充当金の支払請求権を取得したとき,保証協会は,弁済を受けるべき還付充当金相当額についても,に対して支払いを拒否できない。」

4.「が,保証協会の社員の地位を失ったため,その地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託した場合,は,その旨を甲県知事に届け出なければ,指示処分を受けることなく,直ちに業務停止処分を受けることがある。」

【正解】

× × ×

1.「は,弁済業務保証金分担金を金銭をもって保証協会に納付しなければならないが,保証協会は,弁済業務保証金を国債証券その他一定の有価証券をもって供託所に供託することができる」

【正解:

◆弁済業務保証金と弁済業務保証金分担金

 保証協会の社員が保証協会に納付する「弁済業務保証金分担金」(主たる事務所60万円,その他の事務所一箇所につき30万円)は金銭でしか納付できません(宅建業法64条の9第1項,施行令7条)

 それに対して,保証協会が供託する「弁済業務保証金」は,金銭のみ金銭+有価証券有価証券のみと三種類の供託方法があります(宅建業法64条の7第3項,25条3項)

 弁済業務保証金  保証協会が供託所に供託  金銭・有価証券
 弁済業務保証金分担金  社員が保証協会に納付  金銭のみ

 保証協会は,分担金の納付を受けたときは,その日から1週間以内に,そ納付を受けた額に相当する額の弁済業務保証金を供託しなければなりません(宅建業法64条の7第1項)

 ただし,有価証券+金銭,有価証券のみで弁済業務保証金に充てる場合,有価証券の価額は,額面全額をそのまま評価するのではなく,以下の有価証券の区分に従い,定めるところによります(施行規則・15条・1項)

 国債証券  その額面金額
 地方債証券 又は
 政府がその債務について保証契約をした債券
 その額面金額の90%
 上記以外の債券  その額面金額の80%

 本肢では,金銭及び地方債証券を供託する場合です。地方債証券は額面の90%にしか

「その他の事務所」は,「従たる事務所」のことです。

2.「と取引した者が複数ある場合で,これらの者からそれぞれ保証協会に対し認証の申出があったとき,保証協会は,これらの者の有する債権の発生の時期の順序に従って認証に係る事務を処理しなければならない。」

【正解:×

◆認証事務の処理−認証の申出書の受理の順番

 保証協会に対し認証の申出があったとき,保証協会は,認証に係る事務の処理については,認証申出書の受理の順番に従って処理しなければなりません(施行規則26条の7第1項)

 ⇒ 保証協会は,受け取った認証申出書の奥書の式により,認証する旨,または認証を拒否する旨,及びその理由を記載して送付します(施行規則26条の7第2項)

 「債権の発生の時期の順序に従って」認証に係る事務を処理するのではないので,本肢は誤りです。

3.「が保証協会に対して有する弁済業務保証金分担金の返還請求権を第三者が差し押さえ,転付命令を受けた場合で,その差押えの後に保証協会がに対して還付充当金の支払請求権を取得したとき,保証協会は,弁済を受けるべき還付充当金相当額についても,に対して支払いを拒否できない。」

【正解:×

◆弁済業務保証金の還付があったとき

 わかりにくい問題文ですが,問われているのは基本知識です。

 弁済業務保証金の還付があったときに〔宅建業に関して当該宅建業者と取引をした者が認証の申出を行い,権利を実行した〕,保証協会が弁済業務保証金分担金を返還するのは,社員であった者または社員が還付充当金の弁済を完了した後です(宅建業法64条の11第3項)。弁済業務保証金分担金の返還請求権に差押えがあったとしてもこのことに変わりはありません。

  還付充当金の債権に関し弁済が完了
         ↓
  弁済業務保証金分担金の返還

 また,が保証協会に対して有する「弁済業務保証金分担金の返還請求権」と保証協会がAに対して有する「還付充当金の支払請求権」は別個の債権ですから,

 第三者が弁済業務保証金分担金の返還請求権を差し押さえ,裁判所からの転付命令を得たとしても,保証協会がから弁済を受けるべき還付充当金相当額について,保証協会は,に対して支払いを拒否できます。

保証協会が当該社員であつた者又は社員に対して債権を有するときは,その債権に関し弁済が完了した後に,弁済業務保証金分担金を返還します(宅建業法64条の11第3項)

保証協会が弁済業務保証金分担金を返還するのは,社員が一部の事務所を廃止したとき,または社員が社員の地位を失ったときです(宅建業法64条の11第1項,2項)

●弁済業務保証金の取り戻し
(弁済業務保証金の取戻し等)
第64条の11
 宅地建物取引業保証協会は、社員が社員の地位を失つたときは当該社員であつた者が第64条の9第1項及び第2項の規定により納付した弁済業務保証金分担金の額に相当する額の弁済業務保証金を、社員がその一部の事務所を廃止したため当該社員につき同条第1項及び第2項の規定により納付した弁済業務保証金分担金の額が同条第1項の政令で定める額を超えることになつたときはその超過額に相当する額の弁済業務保証金を取り戻すことができる。

2  宅地建物取引業保証協会は、前項の規定により弁済業務保証金を取りもどしたときは、当該社員であつた者又は社員に対し、その取りもどした額に相当する額の弁済業務保証金分担金を返還する。

3  前項の場合においては、当該社員が社員の地位を失つたときは次項に規定する期間が経過した後に、宅地建物取引業保証協会が当該社員であつた者又は社員に対して債権を有するときはその債権に関し弁済が完了した後に、宅地建物取引業保証協会が当該社員であつた者又は社員に関し第64条の8第2項の規定による認証をしたときは当該認証した額に係る前条第一項の還付充当金の債権に関し弁済が完了した後に、前項の弁済業務保証金分担金を返還する。

4  宅地建物取引業保証協会は、社員が社員の地位を失つたときは、当該社員であつた者に係る宅地建物取引業に関する取引により生じた債権に関し第64条の8第1項の権利を有する者に対し、六月を下らない一定期間内に同条第2項の規定による認証を受けるため申し出るべき旨を公告しなければならない。

5  宅地建物取引業保証協会は、前項に規定する期間内に申出のなかつた同項の債権に関しては、第64条の8第2項の規定による認証をすることができない。

6  第30条第3項の規定は、第1項の規定により弁済業務保証金を取りもどす場合に準用する。

4.「が,保証協会の社員の地位を失ったため,その地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託した場合,は,その旨を甲県知事に届け出なければ,指示処分を受けることなく,直ちに業務停止処分を受けることがある。」

【正解:×

◆供託した旨の届出−保証協会の地位を失ったとき

 宅建業者は,保証協会の社員の地位を失ったときは,その地位を失った日から1週間以内に営業保証金を供託しなければなりません(宅建業法64条の15)。これに違反すると,業務停止処分を受けることがあります(宅建業法65条2項2号)

 宅建業者は,営業保証金を供託したときは,供託した旨の届出をしなければいけませんが(宅建業法25条4項,26条4項,28条2項,64条の15後段)供託した旨の届出をしなかっただけで業務停止処分になるとは規定されていないため,<届け出なければ,指示処分を受けることなく,直ちに業務停止処分を受けることがある。>とする本肢は誤りです。

 ⇒ 供託した旨の届出をしないで,事業を開始すると,監督処分として業務停止〔情状が特に重いときは免許取消〕,罰則として「6月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金,もしくは併科」になります。

免許をしてから3ヵ月以内に供託した旨の届出がないときは,届出をすべき旨の催告がありますが(宅建業法25条6項),このほかで,営業保証金を供託した旨の届出に期間制限がついているのは,営業保証金の還付があって不足額を供託したときの2週間以内のみです(宅建業法28条2項)

●供託した旨の届出
・(宅建業者になったとき)免許直後に営業保証金を供託したとき(25条4項)
 
⇒ 免許後3ヵ月以内に供託した旨の届出がないと免許権者から届出をすべき旨の催告。

・事業の開始後に新たな事務所を設置したときの営業保証金の供託(26条4項)

・営業保証金の還付があって不足額を2週間以内に供託したとき(28条2項)
 
⇒ 2週間以内に供託した旨の届出義務

・保証協会の社員の地位を失ったときに1週間以内に供託(64条の15後段)

☆については,供託しない場合は業務停止処分〔情状が特に重いときは免許取消〕


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