宅建業法 実戦篇
自ら売主の制限の過去問アーカイブス 平成13年・問41
手付金等の定義・手付金等保全措置・手付解除・
宅地建物取引業者Aは,自ら売主となって,宅地建物取引業者でない買主Bに,建築工事完了前のマンションを価格4,000万円で譲渡する契約を締結し,手附金300万円を受け取った。この場合,宅地建物取引業法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。なお,この問において「保全措置」とは,同法第41条第1項の規定による手附金等の保全措置をいう。(平成13年・問41) |
1.「Bが契約前に申込証拠金10万円を支払っている場合で,契約締結後,当該申込証拠金を代金に充当するときは,Aは,その申込証拠金についても保全措置を講ずる必要がある。」 |
2.「Aが手付金について銀行との間に保全措置を講じている場合で,Aが資金繰りに困り工事の請負代金を支払うことができず,マンションの譲渡が不可能となったときには,Bは,手付金の全額の返還を当該銀行に請求できる。」 |
3.「AB間の契約においては,「Aがマンションの引渡しができない場合には,当該手付金の全額を返還するので,Bの履行着手前にAが契約を解除してもBは損害賠償その他の金銭を請求しない」旨の特約をすることができる。」 |
4.「Aは,手付金300万円を受け取ったのち,工事中にさらに中間金として100万円をBから受け取る場合は,当該中間金についても保全措置を講ずる必要がある。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
●問題文の吟味 |
・宅建業者Aは,自ら売主となって,宅建業者でない買主Bに,建築工事完了前のマンションを価格4,000万円で譲渡する契約を締結。 ⇒ 自ら売主の8種制限が適用される。
・手附金300万円を受け取った。⇒ 300万円は,代金4,000万円の7.5%。未完成物件なので,受領するには手付金等保全措置が必要になる。[未完成物件では,手付金等が代金の5%超または1,000万円超のときは保全措置を講じなければ受領できない。] |
1.「Bが契約前に申込証拠金10万円を支払っている場合で,契約締結後,当該申込証拠金を代金に充当するときは,Aは,その申込証拠金についても保全措置を講ずる必要がある。」 |
【正解:○】 ◆代金に充当する申込み証拠金−手付金等の意味 申込証拠金は,手附とはその性質が異なるものであり,通例は,契約しないときは申込者等に全額返却するものです。〔但し,法的な制限はなく,当事者同士の取り決めで,その内容は自由に決定できる。〕 この申込証拠金を代金に充当するときは,その申込証拠金についても保全措置を講ずる必要があります(宅建業法41条1項,41条の2第1項)。 手付金等とは,代金の全部又は一部として授受される金銭及び手付金その他の名義をもって授受される金銭で代金に充当されるもので,契約の締結の日以後当該宅地又は建物の引渡し前に支払われるものだからです。⇒ 手付金のほか,中間金,代金に充当する申込証拠金など。 |
2.「Aが手付金について銀行との間に保全措置を講じている場合で,Aが資金繰りに困り工事の請負代金を支払うことができず,マンションの譲渡が不可能となったときには,Bは,手付金の全額の返還を当該銀行に請求できる。」 |
【正解:○】 ◆手付金の返還請求−保証委託契約 銀行等との間の保全措置とは,宅建業者と銀行等との間で保証委託契約を締結し,宅建業者が手付金等の返還債務を負うこととなった場合に,銀行等がその債務を連帯して保証するものをいいます(宅建業法41条1項1号)。 ⇒ 保証委託契約を締結したときは,宅建業者は,銀行等が連帯して保証することを約する書面を買主に交付しなければなりません。 AがBにマンションを譲渡することが不可能となったときは,Bは,手付金の全額の返還を銀行に請求できます。 |
3.「AB間の契約においては,「Aがマンションの引渡しができない場合には,当該手付金の全額を返還するので,Bの履行着手前にAが契約を解除してもBは損害賠償その他の金銭を請求しない」旨の特約をすることができる。」 |
【正解:×】 ◆解約手付の性質 宅建業者が,自ら売主として,宅建業者ではない者と,宅地又は建物の売買契約を締結するに際して手附を受領したときは,その手附がいかなる性質のものであつても,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手附を放棄して,当該宅建業者はその倍額を償還して,契約の解除をすることができます(宅建業法39条2項)。 本肢では,宅建業者Aが手付金全額を返還して解除できるとなっているので,少なくともこの部分に関しては,宅建業法で定められている<倍額の償還をしなければ宅建業者は手附による解除をすることはできない>という規定からすると,買主に不利な特約であるといえます。 39条2項の規定に反する特約で,買主に不利なものは無効ですから,本肢の特約は無効になるので,本肢は誤りです。 |
4.「Aは,手付金300万円を受け取ったのち,工事中にさらに中間金として100万円をBから受け取る場合は,当該中間金についても保全措置を講ずる必要がある。」 |
【正解:○】 ◆中間金も手付金等に該当するので,保全措置の対象になる 未完成物件では,手付金等が代金の5%超または1,000万円超のときは保全措置を講じなければ受領できません(宅建業法41条1項1号,施行令3条の2)。 (本問題では,手付金の300万円は,代金4,000万円の7.5%であるため,手付金を受領する時点で,すでに保全措置は講じられているはずです。) 手付金等とは,契約締結日後,引渡しまでに支払われる金銭のことを言うので,中間金も手付金等に含まれます。したがって,中間金についても保全措置を講ずる必要があります。 ⇒ 中間金を受領する時点で,手付金300万円+中間金100万円の合計400万円全額について,保全措置を講じていなければなりません。 |
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