宅建業法 実戦篇
自ら売主の8種制限の過去問アーカイブス 平成19年・問34
解約手付,手付金等保全措置,重要事項説明
宅地建物取引業者Aが、自ら売主となって宅地建物取引業者でない買主Bに建築工事完了前のマンションを1億円で販売する場合において、AがBから受領する手付金等に関する次の記述のうち、宅地建物取引業法の規定によれば、誤っているものはどれか。なお、この問において「保全措置」とは、同法第41条第1項の規定による手付金等の保全措置をいう。 (平成19年・問34) |
1 Aが当該マンションの売買契約締結時に、手付金として500万円をBから受領している場合において、Bが契約の履行に着手していないときは、Aは、Bに500万円を償還すれば、当該売買契約を解除することができる。 |
2 AがBから手付金として1,500万円を受領するに当たって保全措置を講ずる場合、Aは、当該マンションの売買契約を締結するまでの間に、Bに対して、当該保全措置の概要を説明しなければならない。 |
3 AがBから手付金として1,500万円を受領しようとする場合において、当該マンションについてBへの所有権移転の登記がされたときは、Aは、保全措置を講じなくてもよい。 |
4 Aが1,000万円の手付金について銀行との間に保全措置を講じている場合において、Aが資金調達に困り工事請負代金を支払うことができず、当該マンションの引渡しが不可能となったときは、Bは、手付金の全額の返還を当該銀行に請求することができる。 |
<コメント> |
●出題論点● |
肢1 解約手付−自ら売主の宅建業者が手付けによる解除をするには,手付の倍額を償還しなければならない
肢2 手付金等保全措置の概要は,35条の重要事項 肢3 所有権移転登記がされたときは,手付金等保全措置を講じなくてもよい 肢4 宅建業者ではない買主は,手付金の全額の返還を請求できる |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
正答率 | 79.9% |
1 Aが当該マンションの売買契約締結時に、手付金として500万円をBから受領している場合において、Bが契約の履行に着手していないときは、Aは、Bに500万円を償還すれば、当該売買契約を解除することができる。 |
【正解:×】 ◆解約手付 (手附の額の制限等)
宅建業者が,宅建業者ではない者と,自ら売主となる宅地建物の売買契約を締結するに際し,手附を受領したときは,その手附がいかなる性質のものであっても,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手附を放棄し,当該宅建業者はその倍額を償還して,契約の解除をすることができます(宅建業法39条2項)。 この規定に反する特約で,買主に不利なものは無効です(宅建業法39条3項)。 本肢の特約は,<売主である宅建業者Aが売買契約の解除をするには,手付の500万円をBに償還すれば,解除できる>というもので,買主Bにとって不利な特約です。 したがって,この特約は無効であり,本肢は誤りです。 |
2 AがBから手付金として1,500万円を受領するに当たって保全措置を講ずる場合、Aは、当該マンションの売買契約を締結するまでの間に、Bに対して、当該保全措置の概要を説明しなければならない。 |
【正解:○】 ◆35条の重要事項説明−手付金等保全措置の概要 宅建業者が自ら売主の場合※,どのような手付金等保全措置を講じる予定であるのか,その概要について,完成物件・未完成物件とも,35条の重要事項として,売買契約が成立するまでに,取引主任者をして,買主になろうとする者に対して説明をさせなければなりません(宅建業法35条1項10号)。 ※媒介業者の場合は,手付金等保全措置の概要については,35条の重要事項として説明するのは義務付けられていないと解されている。媒介業者が作成する重要事項説明書〔35条書面〕では,非該当として,記載されない。 |
3 AがBから手付金として1,500万円を受領しようとする場合において、当該マンションについてBへの所有権移転の登記がされたときは、Aは、保全措置を講じなくてもよい。 |
【正解:○】 ◆所有権移転登記がされたときは,手付金等保全措置を講じなくてもよい 宅建業者が,宅建業者ではない者と,自ら売主となる宅地建物の売買契約を締結するに際し,手付金等を受領する場合に,<買主に所有権移転登記がされたとき>や<買主が所有権の保存登記をしたとき>には,手付金等の保全措置を講じなくてもよいので,本肢は正しい記述です(宅建業法41条1項,41条の2第1項)。 |
4 Aが1,000万円の手付金について銀行との間に保全措置を講じている場合において、Aが資金調達に困り工事請負代金を支払うことができず、当該マンションの引渡しが不可能となったときは、Bは、手付金の全額の返還を当該銀行に請求することができる。 |
【正解:○】 ◆宅建業者ではない買主は,手付金の全額の返還を請求できる 本肢は,宅建業者が,手付金の保全措置として,銀行等※との間で,受領した手付金等の返還債務を負うことになった場合に,銀行等がその債務を連帯して保証する契約〔保証委託契約〕を締結している場合のケースです(宅建業法41条1項1号)。 この場合,Bは,手付金の全額の返還を,宅建業者と保証委託契約をした銀行に請求することができます。 ※銀行等…「銀行その他政令で定める機関」または「国土交通大臣が定めるもの」 ▼本肢では,「Aの帰責事由により,マンションの引渡しが不可能」となっているので,Bは,Aの債務不履行〔履行不能〕により契約の解除をすることになります(民法543条)。契約解除により,Aには,原状回復義務があるので,Bは,手付金の返還請求をすることができます(民法545条)。 |