Brush Up! 権利の変動篇
賃貸借の過去問アーカイブス 平成2年・問9
一時使用目的の賃貸借 −期間満了後の使用継続,黙示の更新,解約の申入れ−
Aは,その所有する建物を明らかな一時使用(期間2年)のためBに賃貸したが,Bは期間満了後も居住を続け,Aも,その事実を知りながら異議を述べなかった。この場合,民法及び借地借家法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(平成2年・問9) |
1.「Aは,期間満了を理由に,Bに対し,直ちに明渡し請求をすることができる。」 |
2.「Aは,正当事由のある場合に限り解約し,Bに対し,直ちに明渡し請求をすることができる。」 |
3.「Aは,正当事由のない場合でも解約の申入れをし,Bに対し,その3ヵ月後に明渡し請求をすることができる。」 |
4.「Aは,正当事由のある場合に限り解約の申入れをし,Bに対し,その6ヵ月後に明渡し請求をすることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
→ 本問では,「民法及び借地借家法の規定によれば」となっていても実際は民法のみの知識でも
解ける問題(黙示の更新)でした。おそらくは親切で入れたと思いますが,却って勘違いを誘発した
かもしれません。
●この問題のポイント |
一時使用のための賃貸借では借地借家法は適用されず,民法の賃貸借の規定で考えることになります。(借地借家法・40条) 民法の賃貸借では,契約期間満了後も賃借人が使用収益を継続していて,賃貸人が異議を述べない場合は黙示の更新があったものと推定され,黙示の更新後は期間の定めのない賃貸借になります。(民法619条) 民法での期間の定めのない賃貸借では,当事者はいつでも解約の申し入れができ,正当事由は必要とされていません。契約は建物の場合では,解約の申入れから3ヵ月経過することで終了し,そのときに賃貸人は明渡し請求をすることになります。(民法617条) |
1.「Aは,期間満了を理由に,Bに対し,直ちに明渡し請求をすることができる。」 |
【正解:×】 ◆民法の賃貸借での黙示の更新後は期間の定めのない賃貸借になる この問題の設定のように、賃借人が期間満了後もまだ居住を続けていて賃貸人がその事実を知りながら異議を述べなかった場合には、従前と同じ条件(=この場合は、一時使用目的の賃貸借)で更新されたものと推定されます。〔黙示の更新〕(619条1項本文) 黙示の更新後は期間の定めのない賃貸借になっているので、賃貸人は、いつでも解約の申入れをすることができ(民法619条1項但書)、解約の申入れより3ヵ月後に賃貸借は終了して明渡し請求をすることができます。本設問では、「期間満了を理由に、Bに対し、直ちに明渡し請求することができる」となっているため、×になります。(民法617条) |
2.「Aは,正当事由のある場合に限り解約し,Bに対し,直ちに明渡し請求をすることができる。」 |
【正解:×】 ◆民法の期間の定めのない賃貸借では正当事由がなくても解約の申入れができる 正当事由のある場合に限り解約となっているため、不適。 一時使用の賃貸借での期間満了後の使用継続〔黙示の更新〕では、期間の定めのない賃貸借になっているため各当事者は、正当な事由がなくても、解約の申入れをすることができます。
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3.「Aは,正当事由のない場合でも解約の申入れをし,Bに対し,その3ヵ月後に明渡し請求をすることができる。」 |
【正解:○】 ◆民法での期間の定めのない賃貸借では解約の申入れから3ヵ月後に終了 一時使用の賃貸借での期間満了後の使用継続〔黙示の更新〕では、期間の定めのない賃貸借になっているため各当事者は、正当な事由がなくても、解約の申入れをすることができ、賃貸人は、解約の申入れ後の3ヵ月後〔建物の場合。土地では1年後〕に明渡し請求をすることができます。〔期間の定めのない建物の賃貸借の解約の申入れから3ヵ月で終了するため〕 |
4.「Aは,正当事由のある場合に限り解約の申入れをし,Bに対し,その6ヵ月後に明渡し請求をすることができる。」 |
【正解:×】 ◆民法での期間の定めのない賃貸借では解約の申入れから3ヵ月後に終了 正当事由のある場合に限り解約となっているため、不適。また、一時使用の賃貸借での期間満了後の使用継続〔黙示の更新〕では、期間の定めのない賃貸借になっているため契約終了は解約の申入れから3ヵ月後。つまり明渡し請求は解約申入れから3ヵ月後。(土地では1年。)6ヵ月後ではない。 ▼借地借家法での「期間の定めのない賃貸借」の解約の申入れ(賃貸人から)の場合は6ヵ月後に終了します。本肢は民法での「期間の定めのない賃貸借」の解約の申入れとの混同を狙った問題です。
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一時使用目的の賃貸借−使用継続による黙示の更新の規定− 民法では,賃貸借の期間満了後も賃借人が使用収益を継続している場合,賃貸人が知っているにもかかわらず異議を申し立てないときは,従前と同じ条件で賃貸借をしたものとみなされます。(ただし,期間の定めのある賃貸借は期間の定めのない賃貸借になる。)〔黙示の更新〕(619条1項) 借地借家法の対象になる場合では,この規定が借地権・借家権とも修正されていますが,借地借家法が適用されない一時使用の賃貸借での期間満了後の使用継続は民法で考えることになります。 一時使用であることが明らかな賃貸借の場合、借地借家法での使用継続による法定更新は適用されず(借地借家法25条・40条に明記)、民法の賃貸借の規定〔黙示の更新〕が適用されます。 1)一時使用の賃貸借での期間満了後の使用継続〔黙示の更新〕では、期間の定めのない賃貸借になっているため各当事者は、正当な事由がなくても、解約の申入れをすることができます。(619条1項但書) 2)一時使用の賃貸借での期間満了後の使用継続〔黙示の更新〕では、期間の定めのない賃貸借になっているため解約の申入れにより、土地は1年間、建物は3ヶ月の期間が経過すると終了します。(民法617条1項) (民法での期間の定めのない賃貸借では,常に期限が到来していると考えられるためいつでも解約の申し入れができる。) 解約の申入れ→建物の賃貸借では3ヶ月後に、契約は終了。明渡し請求。
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●一時使用の建物の賃貸借 |
一時使用の賃貸借では,借地借家法の適用がない。上であげた更新・解約などの規定のほかに,以下の借地借家法の規定は適用されないことになる。 ・賃借権の登記がないときに建物の引渡しをもって第三者への対抗要件とする規定。 ・賃貸借終了時の転借人の保護規定 ・造作買取請求権 ・借賃増減請求権 ・居住用建物での事実上の内縁の妻等の賃借権の承継 |
→ 旧・借家法時代では,一時使用の賃貸借に該当するかどうかをめぐって係争になることが多かったが,現行の借地借家法では,定期建物賃貸借(38条)や取壊し予定の建物の賃貸借(39条)があり,一時使用の建物賃貸借が使われることは少なくなっている。 ex.選挙事務所,別荘,簡易宿泊所,駅構内の建物など。 |