Brush Up! 権利の変動篇
賃貸借・借地借家法の過去問アーカイブス 平成16年・問14
賃料増減額請求とサブリース契約
貸主A及び借主Bの建物賃貸借契約に関する次の記述のうち,賃料増減請求権に関する借地借家法第32条の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成16年・問14) |
1.「建物が完成した時を始期とする賃貸借契約において,建物建築中に経済事情の変動によってAB間で定めた賃料が不相当になっても,建物の使用収益開始前にBから賃料減額請求を行うことはできない。」 |
2.「AB間の建物賃貸借契約が,Bが当該建物をさらに第三者に転貸する事業を行ういわゆるサブリース契約である場合,使用収益開始後,経済事情の変動によってAB間で定めた賃料が不相当となっても,Bから賃料減額請求を行うことはできない。」 |
3.「Bが賃料減額請求権を行使してAB間に協議が調わない場合,賃料減額の裁判の確定時点から将来に向かって賃料が減額されることになる。」 |
4.「Aが賃料増額請求権を行使してAB間に協議が調わない場合,BはAの請求額を支払わなければならないが,賃料増額の裁判で正当とされた賃料額を既払額が超えるときは,Aは超過額に年1割の利息を付してBに返還しなければならない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
●賃料減額請求権 |
サブリース契約では,賃料減額請求権が認められるかどうかについての最高裁の判断がバブル崩壊以降注目され,最近では,平成17年3月10日に「自動増額特約を付したサブリース契約での賃料減額請求権の当否を判断すべき事情」について最高裁の判断が下されています。 ( 最高裁の判例になったサブリース契約の係争は,主に<賃貸ビル等のサブリース業者(借主)と土地建物の提供者(貸主)>との間のもの〔賃料や敷金が巨額〕です。 ) |
1.「建物が完成した時を始期とする賃貸借契約において,建物建築中に経済事情の変動によってAB間で定めた賃料が不相当になっても,建物の使用収益開始前にBから賃料減額請求を行うことはできない。」 |
【正解:○】 ◆賃料減額請求権をする前提−建物の使用収益開始後でなければならない− A (貸主) ――― B (借主) 建物の賃料が経済事情の変動等で不相当になったときは,一定期間は増額しない旨の特約がある場合を除いて,契約の条件に係らず,当事者は,将来に向かって賃料の額の増減を請求することができます。(借地借家法・32条1項) 大規模の建築物の賃貸借契約は,建物の着工前に締結されることが多く,本肢のように建物が完成した時を始期とする賃貸借契約では,建築が長期にわたることから,その間の経済事情の変動により賃料の額についてのトラブルが発生することは起こりえることです。 このような場合について,近年,最高裁は,サブリース契約の事例で,<建物の使用収益の開始前には,賃料減額請求はできない>と判示しました。(最高裁・平成15年10月21日) |
2.「AB間の建物賃貸借契約が,Bが当該建物をさらに第三者に転貸する事業を行ういわゆるサブリース契約である場合,使用収益開始後,経済事情の変動によってAB間で定めた賃料が不相当となっても,Bから賃料減額請求を行うことはできない。」 |
【正解:×】 ◆サブリース契約でも「賃料減額請求」はできる サブリース契約とは,賃貸ビル等を運営管理する事業者(以下,「サブリース業者」)が,第三者に転貸する目的で,土地や建物の所有者から土地・建物を一括して借り上げる方式のものです。〔このほかにもありますが,これが代表的なものです。〕 バブル崩壊以降,サブリース業者と土地や建物の所有者の間で契約されたこのサブリース契約をめぐって,それが「賃貸借契約」なのか,それとも「業務委託契約又は共同事業」なのかということでバトルが繰り広げられてきました。 サブリース業者が,「これは賃貸借契約なので,借地借家法32条1項の当事者からの増減額請求権の規定により,賃借人からの減額請求権が認められるはずだ。」と主張すれば,建物等の所有者は,「サブリース契約が業務委託契約や共同事業契約であれば,賃貸借契約ではないので,借地借家法はサブリース契約には適用されず,減額請求権も認められないはずだ。」と主張し,互いに相容れないものでした。 これに対して,最高裁は,平成15年10月21日,同日になされた2つの判決で,『(建物での)サブリース契約には,借地借家法32条1項の当事者からの増減額請求の規定が適用され得る。』と判示しました(最高裁・平成15年10月21日)。〔肢1もこの判決のうちの1つで述べられていたものです。〕 この判例から見ると,<サブリース業者Bから賃料減額請求を行うことはできない。>とする本肢は誤りということになります。 |
●サブリース業者に減額請求権を認めた判例 | |
平成15年10月21日(2件),平成15年10月23日,※平成16年11月8日,平成17年3月10日
註 以下は,このページの編集者が要約したものです。
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3.「Bが賃料減額請求権を行使してAB間に協議が調わない場合,賃料減額の裁判の確定時点から将来に向かって賃料が減額されることになる。」 |
【正解:×】 ◆減額の効果は,減額請求の意思表示到達時点から生じる 賃料減額の裁判が確定したときは,その効力は,減額請求の意思表示が相手方に到達した時に遡って生じます(借地借家法・32条1項)。 裁判所の判決は,形成権の行使 (減額請求) によって生じた賃料の改定を確認するに過ぎないからです。 したがって,<賃料減額の裁判の確定時点から将来に向かって賃料が減額される>とした本肢は誤りです。 |
4.「Aが賃料増額請求権を行使してAB間に協議が調わない場合,BはAの請求額を支払わなければならないが,賃料増額の裁判で正当とされた賃料額を既払額が超えるときは,Aは超過額に年1割の利息を付してBに返還しなければならない。」 |
【正解:×】 ◆増額請求権の行使で協議が調わないとき 貸主が賃料増額請求権を行使して協議が調わない場合,借主は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の賃料を支払えば足り,貸主の請求してきた賃料を支払う必要はありません(借地借家法・32条2項)。このため,この前半部分だけで本肢は誤りだとわかります。 また,借主が支払ってきた額が賃料増額の裁判で正当とされた賃料額よりも低いときは,借主Bは不足額に年1割の利息を付して貸主Aに支払わなければいけません。(借地借家法・32条2項但書) しかし,本肢の場合は,借主が支払ってきた額が賃料増額の裁判で正当とされた賃料額を超えているケースであり,このような場合では借地借家法に規定がないため,民法に立ち戻って,貸主Aは,超過額を不当利得として年5分の法定利息を付して借主Bに返還することになると解されます。 つまり,本肢は,前半・後半とも,誤った記述です。 |