Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
民法の賃貸借・借家権の過去問アーカイブス 平成17年・問15 動産の賃貸借との比較
動産の賃貸借契約と建物の賃貸借契約 (借地借家法第38条に規定する定期建物賃貸借、同法第39条に規定する取壊し予定の建物の賃貸借及び同法40条に規定する一時使用目的の建物の賃貸借を除く。) に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定によれば、正しいものはどれか。(平成17年・問15) |
1.「動産の賃貸借契約は、当事者の合意があれば書面により契約を締結しなくても効力を生じるが、建物の賃貸借契約は、書面により契約を締結しなければ無効である。」 |
2.「賃貸人は賃借人との間で別段の合意をしない限り、動産の賃貸借契約の賃貸人は、賃貸借の使用収益に必要な修繕を行う義務を負うが、建物の賃貸借契約の賃貸人は、そのような修繕を行う義務を負わない。」 |
3.「動産の賃貸借契約は、賃貸人と賃借人が合意して契約期間を6月と定めればそのとおりの効力を有するが、建物の賃貸借契約は、賃貸人と賃借人が合意して契約期間を6月と定めても期間を定めていない契約とみなされる。」 |
4.「契約期間を定めた場合、賃借人は、動産の賃貸借契約である場合は期間内に解約を行う権利を留保することができるが、建物の賃貸借契約である場合は当該権利を留保することはできない。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
●動産の賃貸借 |
「動産の賃貸借」という文言に惑わされてはいけない。本問題は,「民法上の賃貸借」を言い換えているだけと概ね考えてよい。
民法上,動産の賃貸借と不動産の賃貸借の違いは,被保佐人・被補助人等の短期賃貸借での期間制限(602条),対抗力の規定(605条),賃料の支払時期(614条),期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ時期(617条)で異なるのみである。本問題ではそれらについて問う肢はないので,各肢とも,民法の賃貸借と借地借家法での借家権の違いについて考えればよいことになる。 肢3の正解肢は基本事項。肢1,肢2は容易に誤りだということがわかるが,肢4は少々正誤判定に迷ったかもしれない。 |
1.「動産の賃貸借契約は、当事者の合意があれば書面により契約を締結しなくても効力を生じるが、建物の賃貸借契約は、書面により契約を締結しなければ無効である。」 |
【正解:×】 ◆要式契約ではない−書面で契約しなくても効力を生じる 民法上の賃貸借は,合意のみによって成立し,書面によらなくても契約の効力を生ずる(民法601条)。借地借家法の適用のある建物の賃貸借(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借を除く。)でも,特に規定はないので,このことに変わりはない。したがって,誤りである。借地借家法第38条に規定する ▼問題文で除外されているものについてまとめると以下のようになる。 ◇定期建物賃貸借=公正証書による等書面によって契約することが成立要件。 ◇取壊し予定の建物の賃貸借=建物を取り壊すべき事由を記載した書面によってこの特約をしなければならない。 ◇一時使用目的の建物の賃貸借=借地借家法は適用されず,民法の賃貸借が適用される。書面によって契約しなければならないという規定はない。 |
2.「賃貸人は賃借人との間で別段の合意をしない限り、動産の賃貸借契約の賃貸人は、賃貸借の使用収益に必要な修繕を行う義務を負うが、建物の賃貸借契約の賃貸人は、そのような修繕を行う義務を負わない。」 |
【正解:×】 ◆修繕義務 民法では,賃貸人は,賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務を負う(民法606条1項)。また,この規定は強行規定ではないので,賃借人が一定の範囲で修繕義務を負担する特約をすることは禁止されていない(判例,昭和29.6.25)。 借地借家法の適用のある建物の賃貸借(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借を除く。)でも,特に規定はないので,このことに変わりはない。したがって,誤りである。 |
3.「動産の賃貸借契約は、賃貸人と賃借人が合意して契約期間を6月と定めればそのとおりの効力を有するが、建物の賃貸借契約は、賃貸人と賃借人が合意して契約期間を6月と定めても期間を定めていない契約とみなされる。」 |
【正解:○】 ◆1年未満の契約期間 民法の賃貸借では,存続期間は20年を超えることはできず,これより長い期間を定めてもその期間は20年になるが,最短期間の定めはない(民法604条1項)。したがって,契約期間を6月と定めれば,そのとおりの効力を有する。 借地借家法の適用のある建物の賃貸借(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借,一時使用目的の建物の賃貸借を除く。)では,期間を1年未満とする建物の賃貸借は,期間の定めのない建物の賃貸借とみなす(借地借家法29条1項)。 民法の賃貸借,借地借家法の適用のある建物の賃貸借(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借,一時使用目的の建物の賃貸借を除く。)とも,正しい記述である。 ▼借地借家法の適用のある建物の賃貸借(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借,一時使用目的の建物の賃貸借を除く。)では,1年未満とする建物の賃貸借であっても,事実上,6ヵ月は存続することになる。(借地借家法27条1項では,期間の定めのない建物の賃貸借で,建物の賃貸人が解約の申し入れをした場合,解約の申入れの日から6月を経過しないと終了しないと定めているため。) |
4.「契約期間を定めた場合、賃借人は、動産の賃貸借契約である場合は期間内に解約を行う権利を留保することができるが、建物の賃貸借契約である場合は当該権利を留保することはできない。」 |
【正解:×】 ◆解約を行う権利の留保 民法の賃貸借では,当事者が契約期間を定めた場合であっても,特約で,その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保することができる(民法618条)。 、また,借地借家法の適用のある建物の賃貸借契約(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借,一時使用目的の建物の賃貸借を除く。)で契約期間を定めた場合でも,特約で,当事者の一方が期間内に解約する権利を留保することができると解されている(通説)。 したがって,後半部の<契約期間を定めた場合、賃借人は、建物の賃貸借契約である場合は当該権利を留保することはできない。>とする本肢は誤りである。 ▼借地借家法の適用のある建物の賃貸借契約(定期建物賃貸借,取壊し予定の建物の賃貸借,一時使用目的の建物の賃貸借を除く。)で契約期間を定めても,特約で,当事者の一方が期間内に解約する権利を留保することができる場合は,期間の定めのない賃貸借の解約の申入れの規定 (借地借家法27条1項) が適用されることになる。 |