Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
借家権の過去問アーカイブス 昭和58年・問14
AがBの所有する建物を賃借している場合,借地借家法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(昭和58年・問14) |
1.「AとBの借家契約上,賃貸借の期間を10ヵ月と定めている場合には,期間の定めがないものとみなされる。なお,この借家契約は,定期建物賃貸借,取壊し予定の建物賃貸借,及び一時使用目的の賃貸借のいずれでもない普通の建物賃貸借とする。」 |
2.「Bが当該建物を第三者Cに譲渡し,所有権の登記がされた場合でも,Aは,建物の引渡しを既に受けていれば,Cに対して賃借権を対抗することができる。」 |
3.「借賃の増額に関してAB間で調整がつかないときは,Aは,増額を正当とする裁判が確定するまでは,Bに対して相当と認める借賃を支払えばよいが,その裁判が確定し,不足額が生じた場合には,不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付けて支払わなければならない。」 |
4.「Aが建物を第三者Dに転貸することについてBが承諾を与えないときには,Aは,Bの承諾に代わる許可の裁判を裁判所に対して申し立てることができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
1.「AとBの借家契約上,賃貸借の期間を10ヵ月と定めている場合には,期間の定めがないものとみなされる。なお,この借家契約は,定期建物賃貸借,取壊し予定の建物賃貸借,及び一時使用目的の賃貸借のいずれでもない普通の建物賃貸借とする。」 |
【正解:○】 ◆1年未満の普通の借家契約は,期間の定めのない賃貸借になる 当事者の合意で一年未満の期間を定めた普通借家契約は期間の定めのない賃貸借とみなされます。(29条1項)借地権のように一定の期間が保証されるのではありません。 |
2.「Bが当該建物を第三者Cに譲渡し,所有権の登記がされた場合でも,Aは,建物の引渡しを既に受けていれば,Cに対して賃借権を対抗することができる。」 |
【正解:○】 ◆賃借権の対抗力−賃借権の登記・引渡し B (元・賃貸人)――C (建物の新・所有者) 建物の賃貸借は,賃借権の登記がなくても,建物の引渡しがあったときは,その後その建物について物権(所有権・抵当権など)を取得した者に対してその効力を生じます。(31条1項) したがって,Aは,建物の引渡しを既に受けていれば,Cに対して賃借権を対抗することができます。〔Cから明渡し請求があっても拒絶できる。〕 ▼建物の引渡しは,「現実の引渡し」だけではなく,「簡易の引渡し」,「指図による占有移転」,「占有改定」も一般に『建物の引渡し』になると解されています。 |
3.「借賃の増額に関してAB間で調整がつかないときは,Aは,増額を正当とする裁判が確定するまでは,Bに対して相当と認める借賃を支払えばよいが,その裁判が確定し,不足額が生じた場合には,不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付けて支払わなければならない。」 |
【正解:○】 ◆借賃増減請求権 建物の借賃が,租税その他の負担の増減・経済事情の変動・近隣同種の建物の借賃との比較などにより不相当になったときは,契約の条件にかかわらず,当事者〔賃貸人・賃借人〕は,将来に向かって借賃の額の増減を相手方に請求することができます。(32条1項)
建物の借賃の増額について当事者間で協議が調わなければ,増額の請求を受けた賃借人は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の建物の借賃を支払うことになっています。 ただし,増額を正当とする裁判が確定し,既に支払った額に不足があるときは,その不足額に年1割の利息を付して支払わなければいけません。(32条2項) ▼増額を正当とする裁判が確定すると,増額請求をしたときからの借賃に遡って適用されることに注意。 家賃増額請求権は,形成権の性質を有し,増額請求の場合賃貸人が増額の意思表示をすれば(その際に具体的に改定金額を提示するのが通例である),賃借人がそれを承諾するか否かにかかわらず,その意思表示がなされた時(厳密にいうとその意思表示が賃借人に到達した時)から将来に向かって客観的に「相当」な額に増額されたことになる。・・・ 「相当額」をめぐって当事者間に争いがある場合には,調停または裁判において決定されることになる。・・・ 裁判所の判決は,増減請求権という形成権の行使によりすでにその時点で生じている改定金額を確認するにすぎないと説明されている。(コンメンタール借地借家法/日本評論社) |
4.「Aが建物を第三者Dに転貸することについてBが承諾を与えないときには,Aは,Bの承諾に代わる許可の裁判を裁判所に対して申し立てることができる。」重要 |
【正解:×】 ◆転貸についての賃貸人の承諾に代わる裁判所の許可は建物の賃貸借にはない 賃借権の譲渡や転貸について,賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を申立てることができるのは,建物所有を目的とした土地の賃貸借の場合(19条)であり,借家契約では認められていません。 |