Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法

借地権の過去問アーカイブス 昭和59年・問12

建物の滅失・借地権の譲渡・更新の請求・増改築制限


は,建物所有を目的として,が所有する土地を期間30年の約定で賃借している。この場合,借地借家法の規定によれば,次の記述のうち正しいものはどれか。(昭和59年・問12)

1.「建物が滅失又は朽廃した場合でも,借地権は残存期間中消滅しない。」

2.「が借地権を第三者に譲渡する場合,の承諾を得る必要はない。」重要問題★

3.「借地権の期間満了の際,が契約の更新を請求したときは,建物がない場合でも,に正当な理由があれば,前契約と同一の条件をもって更に借地権を設定したものとみなされる。」

4.「が建物の増改築を行うことについてAB間に協議が調わない場合には,裁判所はの申立てによりの承諾に代わる許可を与えることはできない。」

【正解】

× × ×

1.「建物が滅失又は朽廃した場合でも,借地権は残存期間中消滅しない。」

【正解:

◆期間満了前の滅失では借地権は満了しない

 借地契約〔建物所有のための賃貸借・地上権の設定〕の存続期間中に,建物が滅失しても借地権は消滅しないので,正しい肢です。

2.「が借地権を第三者に譲渡する場合,の承諾を得る必要はない。」重要問題★

【正解:×

◆借地権の譲渡・転貸

 借地権が地上権の場合には,地上権はその土地についての物権なので,譲渡・転貸についての土地所有者の承諾は要りません。

 しかし,借地権が土地の賃借権の場合は,賃借人は賃貸人の承諾なしに,賃借権を譲渡したり,転貸することはできません(612条1項)

 民法では,賃借人がこれに違反して第三者に賃借物を使用収益させたときは契約の解除をすることができます。(612条2条)

 民法612条2条のままだと建物所有を目的とした土地の賃借人が不利益を受けるので〔借地上の建物の譲渡ができなくなる。〕,借地借家法では,民法612条2条の特則として,以下の規定を設けました。

 借地権者は,借地権設定者が不利となる恐れがないにもかかわらず,賃借権の譲渡や転貸を承諾しないときに,借地権設定者の承諾に代わる賃借権の譲渡・転貸の許可を裁判所に申し立てることができる。(19条1項)

 裁判所は,特に必要のない場合を除き,この裁判をする前に鑑定委員会〔鑑定委員は裁判ごとに裁判所が指名する。44条〕の意見を聴かなければならないものとされています。(19条6項)

19条1項の規定は定期借地権や一時使用目的の賃借権にも適用されるので注意しましょう。 

3.「借地権の期間満了の際,が契約の更新を請求したときは,建物がない場合でも,に正当な理由があれば,前契約と同一の条件をもって更に借地権を設定したものとみなされる。」(類・昭和57年問12肢3)

【正解:×

◆更新の請求による更新

 (更新の合意がなかった場合に),存続期間満了時に借地上に建物があり,借地権者からの更新の請求に対して,<土地所有者が正当事由のある異議を遅滞なく述べなかったときは,従前の契約と同一の条件で借地契約は更新された>とみなされます。(5条1項,6条)

 したがって,本肢の<建物がない場合でも,に正当な理由があれば,前契約と同一の条件をもって更に借地権を設定したものとみなされる。>とするのは誤りです。

5条1項,6条の規定は定期借地権や一時使用目的の賃借権には適用されません。 

4.「が建物の増改築を行うことについてAB間に協議が調わない場合には,裁判所はの申立てによりの承諾に代わる許可を与えることはできない。」

【正解:×

◆増改築制限の特約がある場合の裁判所の許可

 借地上の建物は借地権者の所有なので,どのような建物を築造するのかは本来は借地権者の自由のはずですが,当事者の合意で借地条件がある場合には,借地権者はそれに従って建物を築造しなければなりません。

 借地条件としてなぜ建物に制限があるかというと,どのような建物かによって地代や建物買取金額が異なってきますし,街並の美観などの問題もあります。〔その借地の隣地が借地権設定者の所有する土地である場合,建物によっては影響を受けることがあります。〕このように,借地条件は,借地権設定者の利害に直接重大な影響を与えます。

 このため,借地契約では,特約で借地条件をつけて,建物の種類,構造,規模,用途を制限したり,土地所有者の承諾を得ないと増改築ができないなどの制限を設けることが多く,またこの借地条件の制限の特約は一般に有効と解されています。

 したがって,借地条件の特約があるのにそれに違反して借地権者が建物の変更を強行した場合は,借地契約の解除をされるおそれがあり,借地借家法では,借地条件の変更について当事者の協議が整わないときは,申立てによって,裁判所が判断を下すことになっています。

 特約で増改築制限がある場合に,土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは,裁判所は,借地権者の申立てにより,その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます。(17条2項)

 本肢は,<建物の増改築を行うことについて協議が調わない場合には,裁判所は承諾に代わる許可を与えることはできない>としているので×です。

 借地条件の変更

 (建物の種類,構造,規模,用途を制限)

 当事者の申立て  裁判所は,
 借地条件の変更
 をすることができる。
 増改築制限の借地条件  借地権者の申立て  裁判所は,
 増改築についての
 承諾に代わる許可

 与えることができる。

17条の規定は定期借地権には適用されますが,一時使用目的の賃借権には適用されないので注意しましょう。

●借地借家法 第17条
1  建物の種類,構造,規模又は用途を制限する旨の借地条件がある場合において,法令による土地利用の規制の変更,付近の土地の利用状況の変化その他の事情の変更により現に借地権を設定するにおいてはその借地条件と異なる建物の所有を目的とすることが相当であるにもかかわらず借地条件の変更につき当事者間に協議が調わないときは,裁判所は,当事者の申立てにより,その借地条件を変更することができる。

2  増改築を制限する旨の借地条件がある場合において,土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは,裁判所は,借地権者の申立てにより,その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。

3  裁判所は,前二項の裁判をする場合において,当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは,他の借地条件を変更し,財産上の給付を命じ,その他相当の処分をすることができる。

4  裁判所は,前三項の裁判をするには,借地権の残存期間,土地の状況,借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮しなければならない。

5  転借地権が設定されている場合において,必要があるときは,裁判所は,転借地権者の申立てにより,転借地権とともに借地権につき第一項から第三項までの裁判をすることができる。

6  裁判所は,特に必要がないと認める場合を除き,第一項から第三項まで又は前項の裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない。


借地権のトップに戻る

Brush Up! 権利の変動に戻る