Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法

借地権の過去問アーカイブス 昭和60年・問12

存続期間・増改築制限・借地権の対抗要件・借地料の増減請求


借地権に関する次の記述のうち,借地借家法の規定によれば,誤っているものはどれか。(昭和60年・問12)

1.「借地契約において借地権の存続期間を定めなかったときは,その存続期間は20年となる。」改題

2.「借地契約に増改築を禁止する特約がある場合であっても,土地の通常の利用上相当とすべき増改築は,土地所有者の承諾が得られないときはこれに代わる裁判所の許可により,行うことができる。」

3.「借地権者が土地の上に登記した建物を所有しているときは,地上権又は土地の賃借権の登記がなされていない場合でも,土地所有者から当該土地の所有権を取得した第三者に対して当該借地権を対抗することができる。」

4.「地代または借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める地代又は借賃を支払えばよい。」

【正解】

×

1.「借地契約において借地権の存続期間を定めなかったときは,その存続期間は20年となる。」改題

【正解:×

◆存続期間

  借地契約において借地権の存続期間を定めなかったときは,法定存続期間が適用され,存続期間は30年になります。(3条)

 法定存続期間  契約に定めがないとき
 約定存続期間が30年未満のとき
  30年
 約定存続期間  当事者の合意で定めるとき  最短30年
 上限なし
●民法での賃貸借−借地借家法が適用されないとき

建物所有以外を目的とした土地の賃貸借〔駐車場・ゴルフ場など。〕

期間の定めがあるとき

 賃貸借の約定存続期間は20年を超えることはできない。(民法604条)

期間の定めがないとき

 いつでも解約の申入れをすることができ,建物所有以外を目的にした土地の賃貸借の場合は,1年経過すると終了する。(民法619条)

2.「借地契約に増改築を禁止する特約がある場合であっても,土地の通常の利用上相当とすべき増改築は,土地所有者の承諾が得られないときはこれに代わる裁判所の許可により,行うことができる。」

【正解:

◆増改築制限の特約がある場合の裁判所の許可

 特約で増改築制限がある場合に,土地の通常の利用上相当とすべき増改築につき当事者間に協議が調わないときは,裁判所は,借地権者の申立てにより,その増改築についての借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができます。(17条2項)

17条の規定は定期借地権には適用されますが,一時使用目的の賃借権には適用されないので注意しましょう。

3.「借地権者が土地の上に登記した建物を所有しているときは,地上権又は土地の賃借権の登記がなされていない場合でも,土地所有者から当該土地の所有権を取得した第三者に対して当該借地権を対抗することができる。」

【正解:

◆借地権の対抗要件−借地上の建物の登記

 借地権者(土地の賃貸人または地上権者)は,土地の賃借権や地上権の設定登記がなくても,借地上の建物に登記(保存登記 or 表示登記)があれば,借地権設定者(土地の所有者)から土地を譲り受けた第三者に対して,借地権を対抗することができます。(10条1項)

10条の規定は定期借地権や一時使用目的の賃借権にも適用されます。

4.「地代または借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める地代又は借賃を支払えばよい。」

【正解:

◆増減額請求権

 地代〔地上権の対価〕や土地の借賃〔賃借権の対価〕(地代等)は当事者が自由に設定できるのが原則ですが,借地権の存続期間は長いため,地代等の改定についての権利義務とその決着までの道筋を定めておく必要があり,借地借家法では第11条にその規定があります。→ 条文参照

 地代等が不相当となったときは,契約の条件にかかわらず当事者は,将来に向かって地代等の額の増減を請求することができます。(ただし,一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従う。 )請求を受けた相手方に異存がなければ,その金額が改定した地代等になります。

 しかし,請求ができるといっても,当事者の間で協議が調わないときは,調停または裁判で決定されることになります〔地代等の改定について訴訟を提起する前には,必ず調停を申し立てなければなりません。(民事調停法24条の2第1項)

 増額請求の場合は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,その請求を受けた借地権者は,相当と認める額の地代等を支払うことになっています

 なお,借地権設定者が増額した地代等でなければ受け取らないと言って受領を拒否した場合は供託をしておく必要があります。(民法494条,495条)受領を拒否されたからといっても,供託もしないでそのまま放置しておくと,地代等の不払いによる債務不履行によって借地契約を解除される場合があるからです。 

11条の規定は定期借地権や一時使用目的の賃借権にも適用されるので注意しましょう。 

●借地借家法 第11条 (地代等増減請求権)
1  地代又は土地の借賃(以下この条及び次条において「地代等」という。)が,土地に対する租税その他の公課の増減により,土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは,契約の条件にかかわらず当事者は,将来に向かって地代等の額の増減を請求することができる。ただし,一定の期間地代等を増額しない旨の特約がある場合には,その定めに従う。

2  地代等の増額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者〔借地権者〕は,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の地代等を支払うことをもって足りる。ただし,その裁判が確定した場合において,既に支払った額に不足があるときは,その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。

3  地代等の減額について当事者間に協議が調わないときは,その請求を受けた者〔借地権設定者〕は,減額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の地代等の支払を請求することができる。ただし,その裁判が確定した場合において,既に支払を受けた額が正当とされた地代等の額を超えるときは,その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。


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