Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
借地権の過去問アーカイブス 昭和61年・問13
建物の滅失・更新しない旨の特約・更新後の存続期間・再築による存続期間延長
借地借家法に関する次の記述のうち,誤っているものはどれか。ただし,ここでの借地権は定期借地権や一時使用目的の借地権ではないものとする。(昭和61年・問13)改題 |
1.「期間についての約定のない借地権を設定した後,20年目に建物が朽廃した場合,その時点で借地権が消滅することはない。」 |
2.「いかなる理由があっても契約を更新しない旨の約定がある場合には,地主が特別に更新を認める場合を除き,契約は更新されない。」 |
3.「地主と借地人の合意により,借地権設定後の最初の更新に際して期間10年の存続期間を定めた場合でも,建物が滅失していなければ10年後に地主は土地の返還を請求することはできない。」改題 |
4.「借地権の存続期間が満了する前に建物が滅失したため借地人が新たな建物の築造する旨を地主に通知し,地主がその通知を受けてから2ヵ月以内に異議を述べなかった場合には,借地権は当初の残存期間を超えて存続する場合がある。」改題 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
1.「期間についての約定のない借地権を設定した後,20年目に建物が朽廃した場合,その時点で借地権が消滅することはない。」改題 |
【正解:○】 ◆建物が滅失しても借地権は消滅しない 借地上の建物が滅失したとしても借地権は消滅せず,朽廃の場合も借地権は消滅しません。〔借地借家法では,朽廃は滅失の中に含まれます。〕これは,期間についての約定のない借地権を設定した場合であっても同じです。 ▼期間についての約定のない借地権を設定した場合の法定存続期間は30年になります。 |
●原題 |
1.「期間についての約定のない借地権を設定した後,20年目に建物が朽廃した場合には,その時点で借地権は消滅する。」 |
【正解:×】
出題当時は旧・借地法施行時であったため本肢は正しい肢でしたが,平成3年の借地借家法制定により『期間の定めのない借地契約での建物朽廃による借地権消滅制度』は廃止されているため,現在では×になります。 |
2.「いかなる理由があっても契約を更新しない旨の約定がある場合には,地主が特別に更新を認める場合を除き,契約は更新されない。」 |
【正解:×】 ◆更新しない旨の特約は無効 更新について借地権に不利なものは無効です。(9条) 定期借地権や一時使用目的の借地権を除いて,契約を更新しない旨の約定があってもその特約は無効になります。 判例でも,『期間満了とともに異議なく土地を明渡す旨の特約』や,『存続期間を超える建物の築造を禁止する特約』は無効とされています。(最高裁・昭和33.1.23) したがって本肢は×です。 |
3.「地主と借地人の合意により,借地権設定後の最初の更新に際して期間10年の存続期間を定めた場合でも,建物が滅失していなければ10年後に地主は土地の返還を請求することはできない。」改題 |
【正解:○】 ◆更新後の存続期間 借地権の設定後の最初の更新での存続期間は,20年が最短期間です。当事者の合意で20年より短いものを定めても,不利な特約として無効になり,期間の定めのない更新と同じ20年になります。〔2回目以降の更新での最短期間は10年。〕 (4条) 本肢では更新後の存続期間の約定が10年なので存続期間については無効であり,更新後の法定存続期間の20年になります。このため,10年経過しても地主は土地の返還を請求することはできません。〔本肢の場合,10年後に建物が滅失していたとしても土地の返還を請求することはできません〕 ●借地権設定後の最初の更新
●2回目以降の更新
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4.「借地権の存続期間が満了する前に建物が滅失したため借地人が新たな建物の築造する旨を地主に通知し,地主がその通知を受けてから2ヵ月以内に異議を述べなかった場合には,借地権は当初の残存期間を超えて存続する場合がある。」改題 |
【正解:○】 ◆再築による存続期間延長 みなし承諾 借地権の当初の存続期間〔借地権設定後の最初の借地期間〕が満了する前に建物が滅失〔借地権者による取壊しも含む〕し,借地権の残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは, (i) 借地権設定者の承諾がある場合 (ii) 再築についての借地権者からの通知を受けた後2ヵ月以内に借地権設定者が異議を述べなかった場合〔みなし承諾〕 ⇒ 当初の期間中の再築にのみ適用。 この二つの場合には,借地権は,承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続します。ただし,残存期間が20年間より長いときは,当初の存続期間は延長されません。(当事者が20年より長い期間を定めたときは,その期間延長されます。)(7条1項,2項) → 以下の図表でイメージしてください。
本肢では,7条2項のみなし承諾の場合に,借地権が当初の残存期間を超えて存続する場合があるかどうかをたずねていますが,上の図表でわかるように,承諾を得た再築の場合の全てで存続期間が延長されるわけではありませんでした。延長されるのは以下の場合です。
このことより○になります。 |
●借地借家法・7条 (建物の再築による借地権の期間の延長など) |
1 借地権の存続期間が満了する前に建物の滅失(借地権者又は転借地権者による取壊しを含む。以下同じ。)があった場合において,借地権者が残存期間を超えて存続すべき建物を築造したときは,その建物を築造するにつき借地権設定者の承諾がある場合に限り,借地権は,承諾があった日又は建物が築造された日のいずれか早い日から20年間存続する。ただし,残存期間がこれより長いとき,又は当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間による。 ⇒ この規定は,更新後に滅失して再築する場合にも適用される。 2 借地権者が借地権設定者に対し残存期間を超えて存続すべき建物を新たに築造する旨を通知した場合において,借地権設定者がその通知を受けた後二月以内に異議を述べなかったときは,その建物を築造するにつき前項の借地権設定者の承諾があったものとみなす。ただし,契約の更新の後(同項の規定により借地権の存続期間が延長された場合にあっては,借地権の当初の存続期間が満了すべき日の後。次条及び第十八条において同じ。)に通知があった場合においては,この限りでない。 3 転借地権が設定されている場合においては,転借地権者がする建物の築造を借地権者がする建物の築造とみなして,借地権者と借地権設定者との間について第一項の規定を適用する。 |
●借地権設定後の当初の期間の再築でのフローチャート |
┌ 承諾あり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・存続期間の延長があり得る | | ┌ 異議なし〔みなし承諾〕・・存続期間の延長があり得る | ┌ 通知した| └ 承諾なし | └ 異議あり・・・・・・・・・・・・・・再築してもしなくても延長はない | └ 通知しない〔無断再築〕・・・・・・・・・・・・存続期間の延長はない |