Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
借家権の過去問アーカイブス 昭和62年・問13
賃貸人の修繕義務・増額請求・更新拒絶の通知・更新拒絶の要件
建物の賃貸借に関する次の記述のうち,民法及び借地借家法の規定によれば,誤っているものはどれか。(昭和62年・問13) |
1.「特約のない限り,賃借物の使用・収益に必要な修繕は,賃貸人が行う義務がある。」 |
2.「一定の期間賃貸人が家賃の増額を行わない旨の特約がある場合,地価の上昇等の理由により家賃が不相当となったときには,賃貸人は当該期間中であっても家賃の増額請求ができる。」 |
3.「期間の定めのある建物の賃貸借においては,当事者が期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に,相手方に対し更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で更新されたものとみなす。ただし,更新後の契約期間は定めのないものとする。」改 |
4.「『賃貸人は,自ら使用することを必要とする場合に限り,賃貸借契約の更新の拒絶をすることができる』旨の特約は,有効である。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | ○ | ○ |
1.「特約のない限り,賃借物の使用・収益に必要な修繕は,賃貸人が行う義務がある。」 |
【正解:○】 ◆民法・賃貸人の修繕義務 賃貸人には,賃借人が賃借物を使用・収益するために必要な修繕をする義務があります(606条1項)。この規定は任意規定となっており,特約で「賃料を安くするから軽微な修繕は賃借人が負担する」などと定めることができます。 ▼賃借物が修繕を要する場合には賃借人は遅滞なく賃貸人にそのことを通知する義務があります。(615条)修繕の内容にもよりますが,賃借人からの修繕が必要との報告が遅れたために修繕する規模が拡大されるなどを防ぐためと考えられます。 |
2.「一定の期間賃貸人が家賃の増額を行わない旨の特約がある場合,地価の上昇等の理由により家賃が不相当となったときには,賃貸人は当該期間中であっても家賃の増額請求ができる。」 |
【正解:×】 ◆借地借家法 借賃増額請求 建物の借賃が,租税その他の負担の増減・経済事情の変動・近隣同種の建物の借賃との比較などにより不相当になったときは,契約の条件にかかわらず,当事者〔賃貸人・賃借人〕は,将来に向かって借賃の額の増減を相手方に請求することができます。(32条1項) しかし,これには例外が定められており,「一定期間賃貸人は借賃の増額を行わない」旨の特約がある場合には借賃が不相当になっても,当該期間中は増額請求をすることができません。(32条1項但書) ▼「賃借人は借賃の減額を請求することはできない」旨の特約は無効です。 |
3.「期間の定めのある建物の賃貸借においては,当事者が期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に,相手方に対し更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で更新されたものとみなす。ただし,更新後の契約期間は定めのないものとする。」改 |
【正解:○】 ◆借地借家法 法定更新−更新拒絶 期間の定めのある建物の賃貸借では,期間満了の1年前から6ヵ月前までの間に,賃貸人・賃借人とも,「更新拒絶の通知」・「条件を変更しなければ更新をしない旨の通知」をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で更新されたものとみなします。この場合は更新後の契約期間は定めのないものになります。 本肢は借地借家法26条1項ほぼソノママの問題文です。当事者となっているので,少し驚いたかもしれませんが,借地借家法ではこのようになっています。 賃貸人はこの規定を守らなければいけませんが,賃借人(借主)からの更新拒絶の通知または条件を変更しなければ更新しない旨の通知は,特約により「期間満了前の1年前から6ヵ月前までの間」を短縮することができます。賃借人にとって不利な特約とはいえないからです。(借地借家法30条) |
4.「『賃貸人は,自ら使用することを必要とする場合に限り,賃貸借契約の更新の拒絶をすることができる』旨の特約は,有効である。」類・昭和59年・問13 |
【正解:○】 ◆正当事由 期間の定めのある建物の賃貸借で賃貸人が更新拒絶するとき〔期間の定めのない賃貸借では解約の申入れをするとき〕には正当事由が必要になります。(28条) この正当事由は,「賃貸人・賃借人が建物使用を必要とする事情」をメインに,「従前の経過」・「建物の利用状況」・「建物の現況」・「賃貸人の財産給付をする旨の申出」などを総合的に考慮して認められるものでなくてはいけません。 原題は旧・借家法当時に出題されたものであり,当時は<自ら使用することを必要とする場合に限り,賃貸借契約の更新の拒絶をすることができる>旨の特約は賃借人に特別に不利なものとは考えられていませんでした。 |