Brush Up! 権利の変動篇 借地借家法
借地権の過去問アーカイブス 昭和63年・問13
借地権の定義・存続期間・対抗要件・法定更新
借地権に関する次の記述のうち,正しいものはどれか。(昭和63年・問13) |
1.「借地借家法にいう借地権とは,建物の所有を目的とする土地賃借権をいう。」 |
2.「期間を定めない借地権の存続期間は,20年である。」 |
3.「借地権は登記することができるが,借地上の建物を登記することによっても,第三者に対抗することができる。」 |
4.「借地権者は,借地権の存続期間が満了した後,建物のあるその土地の使用を継続するには,土地所有者の明示の承諾を得なければならない。」改題 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | × | ○ | × |
1.「借地借家法にいう借地権とは,建物の所有を目的とする土地賃借権をいう。」改題 |
【正解:×】 ◆借地権の定義 借地借家法での借地権とは,建物の所有を目的とする地上権または建物の所有を目的とする土地の賃借権〔≠使用貸借〕のことをいいます。(2条1号)→本肢は「建物の所有を目的にした土地の賃借権」のみを述べているので×になります。建物所有を目的にした地上権に言及していないからです。 したがって,建物所有以外を目的とした地上権や建物所有以外を目的とした土地の賃借権は,借地借家法の適用外になります。 例えば,駐車場として利用するための地上権や土地の賃借権は対象外です。また,鉄塔などの工作物を所有するためのものも対象外です。 間違いやすいものとして,たとえ建物や倉庫などがあったとしても,土地利用の主たる目的がゴルフ場・資材置き場などとして使うものである場合には,建物や倉庫は土地利用の従たる目的で建てられているので,やはり借地借家法の適用対象外になります。 |
●類題 |
「建物の所有を目的とする地上権のみを借地権と称している。」(昭和56年・問13・肢3) |
【正解:×】 |
●借地権になる地上権 |
地上権は,工作物・竹木を所有するために他人の土地を使用・収益する権利(民法265条)で,この中の『建物所有を目的とする地上権』〔有償・無償〕が「建物所有を目的とする土地の賃借権」と共に,借地借家法での「借地権」になります。 建物所有を目的とする地上権であれば,空中や地下の区分地上権であっても借地借家法が適用され,抵当権の実行によって成立する法定地上権にも適用されます。 ▼建物・・・居住用家屋・事務所・店舗・倉庫・工場など用途には制限がないことに注意。 |
●土地の利用権の復習 | |||||||||||||||||||||
他人の土地を利用する権利としては,物権・債権とも以下のようなものがありました。借地借家法が適用されるのはその一部に過ぎないことを確認してください。(条文番号は民法) ●物権
地上権のうちの『建物所有を目的とした地上権』が有償・無償にかかわらず,借地借家法の適用になる。 ●債権−賃借権の一部に借地借家法が適用される。
・土地・建物の使用貸借では借地借家法は適用されない。 ・一時使用の賃貸借では,建物所有を目的とした一時借地権に借地借家法が一部適用されるのみで,そのほかの土地の一時使用の賃貸借や借家の一時使用では借地借家法は適用されない。 ・賃借権で借地借家法が適用されるのは,建物所有を目的にした土地の賃貸借と借家。 |
2.「期間を定めない借地権の存続期間は,20年である。」 |
【正解:×】 ◆期間の定めのない借地権の存続期間は30年 借地契約で期間を定めなかった借地権の存続期間は30年です。借地契約で期間を定めた場合は,定期借地権や一時使用目的の借地権を除いて,最短期間が30年ということ以外には制限はなく30年以上なら何年でも自由に設定できます。(上限がない。)(3条) なお,20年というのは借地権の設定後の最初の更新での最短の借地期間です。〔2回目以降の更新での最短期間は10年。〕(4条) |
●借地権の存続期間 |
□普通の借地権 最短−30年 最長−上限なし
30年より短い期間 → 自動的に30年 |
□定期借地権
一般定期借地権 最短−50年 最長−上限なし 賃借人の建物買取請求権がない 建物譲渡特約付借地権 最短−30年 最長−上限なし 事業用定期借地権 10年以上50年未満 賃借人の建物買取請求権がない |
□一時使用目的の借地権 〔25条。臨時設備の設置その他一時使用のため〕
期間については規定がない 賃借人の建物買取請求権がない |
3.「借地権は登記することができるが,借地上の建物を登記することによっても,第三者に対抗することができる。」 |
【正解:○】 ◆第三者への対抗要件−借地上の建物の登記 地上権・土地の賃借権とも,本来は登記〔地上権・賃借権〕がないと第三者に対抗できませんが(民法177条・同605条),借地借家法では,建物所有を目的とした地上権・土地の賃借権に限り,特則として次の規定を設けました。 借地権の登記〔厳密には,地上権または賃借権の登記〕がなくても,借地上に所有している建物に登記〔所有権保存登記・表示の登記〕があれば,借地権者は第三者〔土地の所有者から土地を譲り受けた者〕に借地権を対抗することができます。(10条1項) |
4.「借地権者は,借地権の存続期間が満了した後,建物のあるその土地の使用を継続するには,土地所有者の明示の承諾を得なければならない。」借地借家法制定により改題 |
【正解:×】 ◆建物のある土地の使用継続による法定更新
(更新の合意がなかった場合に),借地権の存続期間が満了した後,建物のあるその土地の使用を借地権者が継続していることに対して,<土地所有者が正当事由のある異議を遅滞なく述べなかったときは,従前の契約と同一の条件で借地契約は更新された>とみなされます。(5条2項,6条) 本肢の「明示の承諾を得なければならない。」という表現ではニュアンスが異なっています。(民法619条はタイトルとして黙示の更新と呼ばれていますが,借地借家法5条2項はその特則です。) ▼同一の条件・・・存続期間以外の点で従前の契約と同一の条件という意味。 |
●原題 |
「借地権者は,借地権が消滅した後において,その土地の使用を継続するには,土地所有者の明示の承諾を得なければならない。」 |
【正解:×】
昭和63年出題当時は旧・借地法の時代であり,その後平成3年の借地借家法の制定で,借地権の法定更新には「借地の上に建物が存在すること」が要件になりました。旧・借地法での法定更新にはこの要件はなかったため,このままの問題では現行の借地借家法ではピンボケ問題になります。 借地権の存続期間満了後に土地の使用を継続していても,借地の上に建物がなければ法定更新にはならないからです。 |
●借地権者からの更新の請求 |
定期借地権や一時使用目的の借地権を除いて,借地契約は当事者の合意で更新することが原則です。(4条)借地借家法5条は更新の合意がなかった場合の規定です。 (更新の合意がなかった場合に),存続期間満了時に借地上に建物があり,借地権者からの更新の請求に対して,<土地所有者が正当事由のある異議を遅滞なく述べなかったときは,従前の契約と同一の条件で借地契約は更新された>とみなされます。(5条1項,6条) ▼借地権者の債務不履行による借地契約解除の場合は借地権者に更新請求権はないことに注意。(大審院・大正15.10.12) ▼借地権設定者の妨害によって建物の滅失後に再築ができなかった場合,存続期間満了時に建物が存在しないことを理由に借地権者の更新請求を拒絶することは許されない。(最高裁・昭和38.5.21) |