宅建1000本ノック
  改正法一問一答2004 

民法 短期賃貸借の保護の廃止・抵当権消滅請求 


次の記述は,○か×か。

1.「抵当権設定後の賃貸借は,原則として抵当権者には対抗できないが,抵当権者に不当な損害を及ぼすものでない限り,借地借家法の対抗要件を備え,かつ存続期間が,建物の賃貸借では3年以内,主に建物の敷地とすることを目的とした土地の賃貸借では5年以内の民法602条に定める短期賃貸借であれば,抵当権者に対抗することができる。」

2.「は,に対する債務を担保するため,の所有地にの抵当権を設定し,その旨の登記も完了した後,建物を新築して,に対し当該土地建物を譲渡した。この場合において,の債務不履行によりが抵当権を実行しようとするときは,に対して通知しなければならない。」

3.「抵当不動産について所有権を取得した第三者は,抵当権の実行としての競売による差押の効力発生前に,抵当権消滅請求をすることができるが,抵当不動産についての地上権や永小作権を取得した第三者は抵当権消滅請求をすることができない。」

4.「抵当権者は,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から1ヵ月以内に,抵当権を実行して競売の申立てをしない場合は,抵当権消滅請求を承諾したものとみなされる。」

【正解】

× × ×

●現代語化などの民法改正による抵当権での条文番号の変動
  (平成16年12月1日公布,平成16年法律第147号)
 担保物権の民法改正後,現代語化・保証規定の見直しなどの民法の改正があり,次のように条文番号に変動がありました。
 (抵当権の順位) 373条1項→373条,(抵当権の順位の変更) 373条2項→374条1項,373条3項→374条2項,(抵当権の被担保債権の範囲) 374条→375条,

 (抵当権の処分) 375条→376条,(抵当権の処分の対抗要件) 376条→377条,

 (代価弁済) 377条→378条,(抵当権消滅請求) 378条→379条,(抵当権消滅請求ができない場合)379条→380条,380条→381条,

 根抵当権にも条文番号の変動はありますが,省略します。

1.「抵当権設定後の賃貸借は,原則として抵当権者には対抗できないが,抵当権者に不当な損害を及ぼすものでない限り,借地借家法の対抗要件を備え,かつ存続期間が,建物の賃貸借では3年以内,主に建物の敷地とすることを目的とした土地の賃貸借では5年以内の民法602条に定める短期賃貸借であれば,抵当権者に対抗することができる。」

【正解:×

◆短期賃貸借は廃止された

 本肢は改正前の記述です。短期賃貸借の保護の制度(旧・395条)は,賃借権の保護として不十分であること,また抵当権実行の際の執行妨害の手段として濫用されることがあることから,廃止されました。

経過措置
 ただし,抵当権の設定登記後において,平成16年3月31日までに対抗要件を備えた短期賃貸借〔更新されたものも含む〕は保護されます(担保物権及び民事執行法制度の改善のための民法等の一部を改正する法律・附則第5条)

   抵当権設定    短期賃貸借の要件成立 改正法施行(平成16.4.1)
 ――――――――――――――――――――――――→
                  対抗要件 
             → 原則は賃借権の登記

            土地=○賃借権の登記,建物に表示の登記 or 所有権保存登記,
                 ×仮登記

            建物=賃借権の登記or引渡し

2.「は,に対する債務を担保するため,の所有地にの抵当権を設定し,その旨の登記も完了した後,建物を新築して,に対し当該土地建物を譲渡した。この場合において,の債務不履行によりが抵当権を実行しようとするときは,に対して通知しなければならない。」

【正解:×

◆抵当権実行の通知義務は廃止 (旧381条は削除された)

 (抵当権設定者)・・・・(抵当権者)
 |            └(債務者)
 (第三取得者)

 本肢は改正前の記述です。旧381条では,『抵当権者は,抵当権を実行しようとするときは,滌除〔現行では抵当権消滅請求と改称〕をするかどうか検討させるチャンスを与えるために,あらかじめ第三取得者にその旨を通知しなければいけない』という規定がありましたが,抵当権実行の執行妨害を誘発しやすいため平成15年の民法改正で廃止されました。したがって本肢は×です。

 第三取得者は抵当権のある物件を購入した以上リスクを負うのは仕方がないということかもしれません。

▼混同注意・改正点・抵当権消滅請求を拒絶するときの競売申立通知義務

 第三取得者が抵当権消滅請求をした場合に,抵当権者の請求を拒否して競売の申立てをするときは,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,債務者B及び抵当不動産の譲渡人Aに通知しなければいけません。(385条)

 ⇒ この場合,抵当権者は,被担保債権の弁済期が未到来であっても,競売を申し立てることができます。

3.「抵当不動産について所有権を取得した第三者は,抵当権の実行としての競売による差押の効力発生前に,抵当権消滅請求をすることができるが,抵当不動産についての地上権や永小作権を取得した第三者は抵当権消滅請求をすることができない。」

【正解:

◆抵当権消滅請求

 第三取得者が抵当権を消滅させようとするときは,不動産について登記のある抵当権者(その不動産に質権や先取特権が設定されていればそれらの有登記債権者にも)383条に規定されている書面を送達して抵当権消滅請求をすることができます。

 民法改正により,抵当権消滅請求ができるのは,抵当不動産について所有権を取得した第三者のみになりました。現行法では,抵当不動産についての地上権や永小作権を取得した第三者は抵当権消滅請求をすることができません。〔改正前は地上権や永小作権を取得した第三者も滌除(てきじょ)〔現行では抵当権消滅請求と改称〕することができました。〕(379条) ⇒ 現代語化などの民法改正前は378条でした。

      抵当権消滅請求  代価弁済  第三者弁済
 抵当不動産の所有権
 取得した第三者
     
 抵当不動産(土地)の地上権
 取得した第三者
 ×    
 抵当不動産(土地)の永小作権
 取得した第三者
 ×  ×  

 抵当権消滅請求でもう一つの大きな改正点としては,抵当権消滅請求できる時期が,『抵当権実行としての競売による差押の効力発生前』になりました。(382条)

●抵当権消滅請求することができない者
 ・主たる債務者・保証人・その承継人(相続合併によるその包括承継人)(380条)
 ・条件の成否未定の間の「停止条件付の第三取得者」(381条)
 ・共有持分を取得した第三取得者(判例)
 ・実行前の譲渡担保権者(判例)
●代金支払拒絶権 (577条)−過去問に出題例があるので注意。
1 買受けた不動産について抵当権の登記があるときは買主は抵当権消滅請求の手続を終わるまでその代金の支払を拒むことができる。但し,売主は買主に対して遅滞なく抵当権消滅請求を為すべき旨を請求することができる。(578条)この場合,売主は,さらに,買主に対して代金を供託するように請求することができる。〔売主の代金供託請求権〕

2 前項の規定は買受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合に準用する。

●関連問題
1.「先取特権または質権が設定されている不動産を取得した者は,質権者または先取特権者に対して,その消滅請求をすることはできない。」
【正解 : ×

 不動産上の質権や先取特権は,代価弁済消滅請求によっても消滅します。〔抵当権の規定の準用〕(不動産質権=民法361条,不動産先取特権=民法341条)

消滅請求

抵当不動産の所有権を取得した第三者の請求に,担保権者が応じた場合
代価弁済 担保権者の請求に,抵当不動産の所有権又は地上権を取得した第三者
応じた場合

消滅請求
 質権や先取特権は,目的不動産の所有権を取得した第三者からの消滅請求に,登記のある質権者及び先取特権者が応じることによっても消滅します。(379条の準用)

代価弁済
 質権や先取特権の目的となっている不動産の所有権又は地上権を取得した第三者は,不動産の代価を,売主ではなく,質権者や先取特権者に支払うことによって消滅させることができます。(378条の準用)

2.「抵当不動産の第三取得者は,抵当権実行としての競売による差押えの効力が発生した後でも,抵当権消滅請求をすることができる。」
【正解 : ×】 抵当権実行としての競売による差押えの効力が発生した後では,抵当権消滅請求をすることはできません。

4.「抵当権者は,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から1ヵ月以内に,抵当権を実行して競売の申立てをしない場合は,抵当権消滅請求を承諾したものとみなされる。」

【正解:×

◆競売申立て可能な期間の伸長

 抵当権者は,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,競売の申立てをしない場合は,抵当権消滅請求を承諾したものとみなされます。(384条1号)

 「1ヵ月以内」ではありません。〔改正前は,増価競売の申立ては第三取得者から滌除したい旨の書面の送達された後1ヵ月以内であったのが,民法の改正によって2ヵ月以内に延びた。〕

●抵当権消滅請求を拒否して競売を申し立てた抵当権者にかかわる改正
・増価競売の廃止に伴い,保証金の提供をしなくても競売の申立てができるようになった。(旧384条2項は削除。)
●関連問題
1.「抵当権者は,第三取得者からの抵当権消滅請求を拒むときに,被担保債権の弁済期が到来していなくても,抵当権を実行して競売の申立をすることができる。」
【正解 :

 抵当権者は,第三取得者からの抵当権消滅請求を拒むときに,被担保債権の弁済期が到来していなくても,抵当権を実行して競売の申立をすることができます。条文上これを制限する規定はありません。

●抵当権消滅請求に関する主要な改正点

・抵当権者は,改正前は,抵当不動産の第三取得者に対して「滌除をするかどうか」の判断期間を与えるために,抵当権実行前に通知しなければならなかったが,この規定が廃止された。

・抵当権消滅請求をすることができるのは,抵当不動産の第三取得者のみ。

・抵当権消滅請求をすることができるのは,抵当権実行の差押えの効力発生前に限る。

・抵当権者は,抵当権消滅請求の書面の送達を受けた日から2ヵ月以内に,競売の申立てをしない場合は,抵当権消滅請求を承諾したものとみなされる。

・増価競売は廃止された。(保証金の提供や買受義務もなくなった。)


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