民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
意思の欠缺 / 通謀虚偽表示・第1回・主要な論点と過去問ケース・スタディ |
意思表示の問題では、 0 契約のプロセスに、何か問題はないか 1 契約当事者間の効力はどうなっているか 2 第3者に対抗できるか をつかむことがポイントです。(意思表示の問題解決のカギ) |
意思の欠缺の3回目は、通謀虚偽表示です。今回は宅建試験に出たケース・ス
タディの1回目です。通謀虚偽表示はほかの資格試験でも頻出しており、出題のバ
リエーションが多く、要注意のところです。
●定義
内心の真意≠意思の表示行為
となっているのが、「意思の欠缺」で、
錯誤は、「内心の意思≠意思の表示行為」に本人が気づいていないこと、
心裡留保は、真意と違うことを本人が知りながら行う意思表示、
(心裡留保は、「単独虚偽表示」とも言われています。)
通謀虚偽表示は、真意と違うことを本人が知りながら相手方と通謀して行う
意思表示です。
●条文
94条1項 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。 94条2項 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。 |
●要件と原則無効
94条1項から、通謀虚偽表示の要件としては、
1 第三者から見て意思表示たる価値ある外形が作られること 2 内心の真意と表示との不一致があり、それを本人が知っていること 3 真意と異なる表示をすることについて相手方と通謀すること |
が挙げられています。
また、原則として、通謀虚偽表示は、当事者間では無効になっています。
(通謀虚偽表示は、舞台がほぼ不動産・債権に限られる。仮装譲渡ともいう。)
(動産が仮装譲渡の対象にならないのは、即時取得の規定があるためです。)
●善意の第3者には対抗できない(94条2項)
A―虚偽表示―B | C(善意有過失 or 善意無過失) Bがこの土地を善意の第3者Cに売却。この場合は、AはCに無効を主張できない。 Cが保護されるには善意であればよく、無過失・登記は必要ではない。 |
【考え方の基本】AB間の無効は、善意の第3者Cには主張できない
虚偽表示も当事者以外の者から見れば、有効な意思表示であるように見える
ため、この外観を信頼して取引に入った者を保護する必要があり、当事者間では
本来無効であっても、虚偽の意思表示をすることで実体の伴わない外形を作り出
した権利者(本人A)はその権利を失ってもやむを得ない。
ポイントその1 第3者が保護されるには善意であればよいので、有過失でもよい。 (平成7年出題) |
ポイントその2 善意の第3者は、登記は、不要。(平成5年出題) |
ポイントその3 第3者からの転得者も善意であれば、保護される。(判例) A―虚偽表示―B | C(悪意) | D(善意有過失 or 善意無過失) ←(平成5,7年出題) |
※第3者Cが善意なら、Cからの悪意の転得者にもAは対抗できない。(判例) A―虚偽表示―B | C(善意有過失 or 善意無過失) | D(悪意) |
ポイントその4 保護される善意の第3者の意義 (民法の他の項目との融合に注意) 1 虚偽表示による譲受人からさらに目的物を譲り受けた者(頻出) 1' 虚偽表示による譲受人からさらに目的物を譲り受ける契約をした債権者 2 虚偽表示による譲受人から抵当権の設定を受けた抵当権者(平成7年出題) 2' 虚偽表示の目的物に対して差押えをした金銭債権者 2''虚偽表示による譲受人が破産したときの破産管財人 ほかにもありますが、宅建試験の範囲を超えると思われるため、カットしました。 |
●●無効の主張は、誰ができるか
●本人A vs. 悪意の第3者
(ケース1) A―虚偽表示―B | C(悪意)移転登記 Cが善意なら、AはCに契約の無効を主張できないが、Cが悪意なら主張できます。 |
(ケース2) (平成7年出題) A―虚偽表示―B(所有権移転登記、抵当権設定の登記) ↑ C(抵当権者)(悪意) Bがこの土地にCに対する抵当権を設定し、その登記をした場合で、Cが AB間の契約の事情を知っていたときは、AはCに対して抵当権設定行為の 無効を主張できる。悪意の第三者には対抗できる。(94条2項) |
●Aの債権者の代位行使など
(ケース1)(平成7年出題) Aの債権者S | 債務者A―仮装譲渡―B(登記) 通常、通謀虚偽表示は、債権者の差押えを逃れるために行われることが多く、 債権者Sは自己の債権を保全する為、Bに対して、AB間の契約の無効を主張 して、Aの所有権移転登記抹消請求権を代位行使できます。(民法423条1項) |
(ケース2)(平成5年出題) Aの債権者S(善意) | 債務者A―仮装譲渡―B(登記) | C(善意) 虚偽表示の無効は、善意の第3者に対しては、A・S(他の第3者)とも 主張できない。Cが悪意なら、A・Sは無効をCに主張できます。 |
●過去問でのポジション
「意思の欠缺」の中では、宅建の過去問で頻出の項目です。
2年 | 3年 | 4年 | 5年 | 6年 | 7年 | 8年 | 9年 | 10年 | 11年 | 12年 | 13年 | |
心裡留保 | ○ | |||||||||||
通謀虚偽表示 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||||
錯誤 | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||||
詐欺 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ||||||
強迫 | ○ | ○ | ○ | |||||||||
物権変動 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
※このうち、平成5年、7年、12年は、通謀虚偽表示の総合問題。
やや難と言われていました。抵当権、債権者代位行使、物権変動など、
ただ単に通謀虚偽表示の問題ではなくなっています。
◆まとめ◆
【ベーシックな過去問】平成2年問題4 A所有の土地が、AからB、Bから善意無過失のCへと売り渡され、移転登記も なされている。 肢4 Aが差押えを免れるため、Bと通謀して登記名義をBに移した場合、Aは 、AB間の契約の無効を主張することはできるが、Cに対して所有権を主張する ことはできない。 |
【正解】○
『AB間の契約の無効を主張することはできる』という部分がヒッカケです。
紛らわしい出題でした。『善意の第3者に対して無効を主張することはできる』
となっていればマチガイです。
出題者としては、「…できるが、」で一旦切って読んでもらいたかったようです。
今回は過去問だけの範囲でまとめてみましたが、いかがだったでしょうか。
思っていたより、宅建の過去問は奥が深かったのではないでしょうか。
残念ながら、今回の事項をすべて記載した基本書はありません。おそらく、過去問
を解く中で身につけるだろうという期待をこめて記載していないものと思われます。
次回は、平成12年の問題での事例を中心に、まとめていきます。平成12年の
問題はヒッカケとしては最高峰に位置する問題の一つです。