民法クローズ・アップ
  判例による意思表示の研究
 意思の欠缺 / 通謀虚偽表示・第2回・過去問ケース・スタディ

 意思表示の問題では、

0 契約のプロセスに、何か問題はないか

1 契約当事者間の効力はどうなっているか

2 第3者に対抗できるか

をつかむことがポイントです。(意思表示の問題解決のカギ)

 今回は、平成12年の通謀虚偽表示の問題だけを扱います。

【平成12年・問4】

Aが、債権者の差押えを免れるため、Bと通謀して、A所有地をBに仮装譲渡

する契約をした場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、

誤っているものはどれか

(1)BがAから所有権移転登記を受けていた場合でも、AはBに対して、AB間

の契約の無効を主張することができる。

(2)Cが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を

受けた場合は、所有権移転登記を受けていないときでも、Cは、Aに対して、

その所有権を主張することができる。

(3)DがAからこの土地の譲渡を受けた場合には、所有権移転登記を受けて

いないときでも、Dは、Bに対して、その所有権を主張することができる。

(4)Eが、AB間の契約の事情につき善意無過失で、Bからこの土地の譲渡を受け

所有権移転登記を受けていない場合で、Aがこの土地をFに譲渡したとき、Eは、

Fに対して、その所有権を主張することができる。

【正解 : 4】

【解】

(1) 当事者間では無効

虚偽表示

原則として、通謀虚偽表示は、当事者間では無効になっています。従って、

AはBに無効を主張できます。よって、○。

(2)Aは善意の第3者には対抗できません(94条2項)

 虚偽表示

           |

           (善意無過失)

Bが善意無過失の第3者Cに売却。この場合は、AはCに無効を主張できない。

(Cが保護されるには善意であればよく、無過失・登記は必要ではない。)

 よって、○。

(3) 登記ナシでも、Aから譲渡を受けた者は無効を主張できる

 虚偽表示

 |

 (無登記)

 この契約は(1)により無効である以上、Bは所有権を取得することはなく、Bは

無権利者です。そのため、Aから譲渡を受けたDは無権利者Bに対して、登記ナシ

でも無効を主張でき、所有権を主張できます。 よって、○。

[疑問点その1] Dは、94条第2項に規定する保護される第3者か?
                  

No! 94条第2項に規定する保護される第3者には、以下の定義があります。

定義」  「当事者(相続人などの一般承継人も含む)以外で虚偽表示の結果

       権利者らしい外観を呈している者と新たに法律関係を持つに

       至った者(判例、大審院・大正9.7.23 / 最高裁・昭和45.7.24)

この定義から見ると、Dは「94条第2項に規定する第3者」とは言えません。

しかし、Bは虚偽表示により無権利者なので、Bに憚ることはないわけです。

[疑問点その2] これは二重譲渡ではないのか?

                 

No! 物権変動での二重譲渡とは、有効な意思表示と契約に基づいて、

   対抗関係になる2者が現れることであり、不動産であれば、

   登記を先に備えたほうが勝つとされています。

 

  この場合、Bは虚偽表示が無効であり、無権利者である為

        BとDは対抗関係にはなりません

(4) 物権変動の二重譲渡

虚偽表示

|          |

F        (善意無過失/登記ナシ)          

 このケースは、司法書士・司法試験などで過去に出題されています。

 (司法書士では、昭和58年など)

 判例・通説では、Xを起点としてYとZとに二重譲渡があった場合と同じように

Aから譲渡を受けたFと転得者Eは対抗関係に立つとされており、

EとFは先に登記を得たほうが所有権を取得するとされています。(下図参照)

(判例 最高裁・昭和42.10.31)

  虚偽表示

  |           |

           (善意)        

 本問の場合、Eは所有権移転登記を受けていないため、Fに対して所有権は

主張できません。(Fに登記があるかどうかは本問では書いていませんが、Eが

所有権を主張できるかどうかはこの登記のあるなしでも判断できます。)

 よって、肢4は×ということになり、正解肢となります。

(本問に94条第2項をあてはめるのは、判例を知らないために起こります。)

 この判例に対しては、ある学説(四宮説)では疑問を表明しています。しかし、

これまで宅建試験に出題された判例の中にも、学説で評価が分かれているものは

ありますので、今回もご紹介は致しません。通説と離れたものは出題されていない

と考えられるからです。(鑑定士や司法書士の受験では当然知らなければいけませんが)


 2回に渡って、過去問の範囲内で「通謀虚偽表示」を扱ってきました

基本書の通謀虚偽表示の解説には出てこないものはありますが、過去問で扱われ

た範囲を整理することは必要であると考えた為です。

 条文以外に判例が相当細かい所まで、判断を下していることに気がついて

いただければ幸いです。

また事例問題では、法の趣旨と共に判例を知らないと問題が解けないことも

おわかりいただけたと思います。

 (要するに、知っていれば難問ではありません。根拠を明確にした学習が必要

だと思います。)


引き続き、通謀虚偽表示の3回目を読む

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