民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
意思の欠缺 / 通謀虚偽表示・第4回・類推適用 |
今回は、通謀虚偽表示で、出題予想としては低いけれども、見ておくことで
通謀虚偽表示の理解の助けになると思われる判例を2つご紹介します。
通謀虚偽表示は、 1 相手と通謀し、 2 実際には売却の意思がないのに、 3 自己所有の不動産を相手に売却したことにし、 所有権移転登記などの虚偽の外観を作り出すこと ですが、 この定義にあてはまらないものに対しても、判例では、通謀虚偽表示と同じ扱い をすることがあり、これを「類推適用」といいます。 |
【判例の基礎】 今回の判例の基礎となるものは、 通謀虚偽表示は当事者間では無効だが、 通謀虚偽表示の無効で、善意の第3者に対抗できない。 という94条の2項をベースにしています。 A―(通謀虚偽表示)―B | C(善意)…有過失でもよい、登記がなくてもよい この94条2項は、 ・虚偽の外形(Bに登記があること)をAが作り出しており、 Aが権利を失ってもやむをえないこと、 ・虚偽の外形を信じて取引に入った者を保護する必要があること、 ・第3者が当事者間の内部関係を調査することは煩雑であること、 などから、善意(有過失でもよい)の第3者Cは保護される、という規定です。 |
【判例1・94条2項の類推適用】
<判例> 判例では、このケースでは、 事実上、虚偽表示が行われたのと同じだとみなし、94条2項を類推適用して、 Cが善意ならば、Cは保護される、としました。 理由としては、 Bとの通謀はなくても(Bの承諾を得ていない)、 Aは、自己所有の不動産をBに譲渡する意思がないにもかかわらず、 A自らBに所有権移転登記して、自ら虚偽の外観を作り出しており、 虚偽の外観についてAの帰責事由が大きいとされたためです。 (最高裁・昭和45.7.24) |
【判例2・94条2項の類推適用】 勝手に移転登記されたことを放置し、かつ明示・黙示に承認していた場合
<最高裁の下した判断> この事例では、相手との通謀はありません(Aに無断でBが移転登記)が、 判例は、 Aは、自己所有の不動産をBに譲渡する意思がなかったにもかかわらず、 ・Aが偽りの登記を放置していたこと。 ・Aが、Bの名義の登記であることを積極的に承認したとも見られる 行動をしたこと。 (Aが銀行から融資を受ける際に、その不動産をBの名義のままで抵当権を つけたこと。) などから、 事実上、虚偽表示が行われたのと同じだとみなし、94条2項を類推適用して 「Cが善意であれば、 Aは、当該不動産がBに移っていないことをCに対抗できない」 としました。(最高裁・昭和45.9.22) <論点のポイント> この場合のポイントとしては、Aが偽りの登記を放置していたことだけでなく、 Bに登記があることを積極的に明示したことが、虚偽の外観を作り出すこと になり、Aの帰責事由が大きいとされたものです。 (この文脈では、偽りの登記を放置していたことだけで、 Aの帰責事由について判断できるか不明) |
▼この類似例が、宅建試験で出たことがあります。
【過去問 平成3年 問4 肢3】
Aの所有地にFがAに無断でF名義の所有権移転登記をし、Aがこれを知りながら 放置していたところ、FがF所有地として善意無過失のGに売り渡し、GがG名義の 所有権移転登記をした場合、Aは、その所有権をGに対抗する事ができない。 |
<関係図>
A(放置)-------------F(Aに無断で所有権移転) | G(善意無過失・登記) |
基本書の書いてある、なしに係らず、このような事例が過去問で出ていたことは、
アタマに入れておく必要があります。
【正解 : ○】 「虚偽表示で無効でも、このことで善意の第3者には対抗できない」
という、94条2項の類推適用により、○。