民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
瑕疵ある意思表示/詐欺と物権変動 |
復習を兼ねて、詐欺が物権変動で出題されたものを今回は見ていきます。
<過去問出題歴> 10- 7-1 第3者の詐欺 9- 6-1 取消し後の第3者 8- 5-1 取消し前の善意の第3者 4- 8-4 第3者の詐欺と代金返還 11- 5-3 偽造の文書所持者への弁済 (次回掲載) 10-10-4 相続と詐欺 (次回掲載) |
●●第3者の詐欺 →詐欺・第1回の復習
●根本原理1 96条2項 ある人に対する意思表示につき、第3者が詐欺を行いたる場合において は、相手方がその事実を知りたるときに限り、その意思表示を取消す ことを得(う)。 C(詐欺師) ↓ A――――――B(相手方、悪意) Aが第3者Cの詐欺により、Bと契約したときは、 Bが悪意、つまりCの詐欺について知っている ならば、Aは取り消す事ができます。 しかし、Bが善意ならば、取り消す事はできません。 |
―(ケース1)―――――――――――――――――――――――――
Aが、A所有の土地をBに売却する契約を締結した場合に関する次の
記述は、民法の規定によれば、○か×か。
AのBに対する売却の意思表示がCの詐欺によって行われた場合で、
BがそのCによる詐欺の事実を知っていたとき、Aは、売却の意思表
示を取消す事ができる。(平成10年問7肢1)
―――――――――――――――――――――――――――――――
<関係図>
C(詐欺師)
↓
A――――――B(相手方、悪意)
<解> 本問は、上の基本原理そのままのパターンです。
【正解 : ○】
―(ケース2)<参考問題>――――――――――――――――――――
居住用不動産の売買契約の解除又は取消しに関する次の記述は、
民法の規定及び判例によれば、○か×か。
当該契約の締結は第3者Cの詐欺によるものであったとして、買主Aが
契約を取消した場合、買主Aは、まず登記の抹消手続を終えなければ、
相手方Bに代金返還を請求する事ができない。
このとき、Bは第3者の詐欺について悪意であったとする。
(平成4年問8肢4 改)
――――――――――――――――――――――――――――――――
●同時履行の抗弁権
<関係図>
C(詐欺師)
↓
A(買主、移転登記)――――――B(相手方、悪意)
このケースは上で見た通り、Aは悪意のBに対して「取消し」ができます。
判断しなければならないのは、このとき、登記の抹消手続をしなければ(登記
をBに戻す)、払った代金を返還するようBに請求できないのかという事です。
Aにしてみれば、切実な問題です。取消した以上、早く代金を返してもらい
たいと思うのは当然のことですが、判例ではどうなのでしょうか?
<この場合の原状回復とは>
・AにとってはBから、払った代金を返還してもらうこと。
・BにとってはAから、登記を元のBの登記に戻してもらうこと。
●根本原理2 判例では、この「第3者の詐欺による取消」に基づく不当利得返還請求、 にも、同時履行の抗弁権(533条)を類推適用して、当事者双方の原状回復 義務は同時履行の関係にあるとしました。 つまり、「登記の抹消手続」と「代金返還」は同時履行の関係です。 |
Aはこれで安心して、登記の抹消手続きをすることができます。
同時履行の抗弁権により、Aが登記の抹消手続をしたにもかかわらず、
Bが代金を返還しなければ、Bは履行遅滞に陥るからです。
このため、本問は×になります。(最高裁判例 昭和47.9.7)
◆注意しなければいけないのは、この判例は、第3者の登場しない詐欺の
場合にも、原状回復義務で「同時履行の抗弁権」を認めたわけではない
と言う事です。
【正解:×】
●●取消前の善意の第3者、取消後の第3者→詐欺・第1回
●根本原理3 96条 3項 詐欺による意思表示の取消は之を以って善意の第3者に 対抗することを得ず。 判例1 96条の3項にいう「善意の第3者」とは、 「詐欺による意思表示によって生じた法律関係に基づいて 事情を知らないまま、新たに利害関係を入った者」 (大審院判決・明治33.5.7) 判例2 大審院判決・昭和17.9.30 において、 取消前の善意の第3者、取消後の第3者についての判断が 示されているので,紹介します。 ○善意の第3者出現―→Aの取消し (取消し前の善意の第3者) ・土地取引で考えます。 A――――――B(相手方、詐欺師) ↓ C(善意) 先----BからCが転得した後に、Aが取消す ・Aは当然Bに対しては、取消しを主張できます。 ・取消し前の第3者Cは、96条の3項により保護される。 Cは「登記ナシ」でも保護される。 Cは単に「善意」であればよい。 ・Aは、Cに対して、取消によって土地を取り戻せない。 96条の3項は、取消しによる遡及効から第3者を守るためのもの で、96条の3項で保護されるのは「取消し前の善意の第3者」に限る。 ・Cが悪意なら、保護されないことはいうまでもありません。
○Aの取消し―→第3者出現 (取消し後の第3者) ・土地取引で考えます。 A――――――B(相手方、詐欺師) ↓ D 後----すでにAが取消した後にBから転得 取消し後の第3者Dは、Aと対抗関係に立ち、AとDのどちらが 登記を得るかで、その土地の所有権が誰にあるかが決まる。→民法177条 もし、登記がDにあり、Dが土地を取得した場合は、当然、Aは 不法行為に基づく損害賠償責任(709条)、不当利得の返還義務(704条)を Bに請求できます。(これは取消し前の善意の第三者の場合も同じです。) (注意) 判例では、Dの善意・悪意については触れていません。 |
<大審院判決・昭和17.9.30の事例とは?>
実は、この判例では、上のCとDの立場が登場するものでした。
Aは、Bにダマされて、土地・甲、土地・乙をBに譲渡。
Bは、土地・甲をすぐにCに譲渡しました。
この後、Aは、詐欺により契約を取消しました。
しかし、Bはまだ登記がB名義である事を利用し、土地・乙をDに譲渡。
<関係図>
A―B(相手方、詐欺師)→C 先----Aが取消す前にCがBより転得。
↓
D 後----すでにAが取消した後にDがBより転得。
この判例は、2つの立場C、Dに対しての判断だったわけです。
―(ケース3)――――――――――――――――――――――――――――――
物権変動に関する次の記述は、民法の規定及び判例によれば、○か×か。
AがBに土地を譲渡して登記を移転した後、詐欺を理由に売買契約を取り消した
場合で、Aの取消し後に、BがCにその土地を譲渡して登記を移転したとき、
Aは、登記ナシにCに対して土地の所有権を主張できる。(平成9年問6肢1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●取消し後の第3者
Cの善意・悪意については、判例では触れていなかったことに注意しましょう。
したがって、Cの善意・悪意に関係なく、判断しなければなりません。
(基本書には書いてあるはずです)
<関係図>
A―B(相手方、詐欺師)
↓
C(登記) 後----すでにAが取消した後にDが転得。
この場合は、AはBに対して、取消しは主張できても、上の根本原則により、
すでにCが登記を得ている為、Cには対抗できません。
【正解:×】
―(ケース4)――――――――――――――――――――――――――――――
A所有の土地について、AがBに、BがCに売り渡し、AからBへ、BからCへ
それぞれ、所有権移転登記がなされた場合に関する次の記述のうち、民法の規定
によれば、○か×か。
Cが移転登記をする際に、AB間の売買契約がBの詐欺に基づくものであること
を知らなかった場合で、当該登記の後にAによりAB間の売買契約が取消された
とき、Cは、Aに対して土地の所有権の取得を対抗できる。(平成8年問5肢1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
●取消し前の善意の第3者
<関係図>
A――――――B(相手方、詐欺師)
↓
C(善意、登記) 先----BからCが転得した後に、Aが取消す
これもセオリー通りの問題です。
【正解:○】
―(ケース5)――――――――――――――――――――――――――――――
A所有の土地が、AからB、BからCへと売り渡され、移転登記もなされている。
この場合、民法の規定によれば、AがBの詐欺により売り渡したとき、Cがそのことに
つき善意なら、AはBに対しても取消しを主張できない。(昭和の過去問)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【正解:×】
A――――――B(相手方、詐欺師)
↓
C(善意、登記)
この書き方だと、はっきりと、Cが取消し前の第三者であると書いてはいませんが、
Cが移転登記した後のAが取消すと考えると、Cは取消し前の第三者ということになります。
(つまり、Cに移転登記後に取消せるかどうか判断を求めているので、こう考えます)
この場合は、善意の第三者Cに対してAは対抗できませんが、Bに対して、取消しが
できないというわけではありません。当然、AはBに対して取り消しを主張できます。
また、さらに、不法行為に基づく損害賠償責任(709条)、不当利得の返還義務(704条)を
AがBに請求できることは言うまでもありません。