民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
意思の欠缺 / 心裡留保・第1回・心裡留保の基礎事項 |
意思表示の問題では、 0 契約のプロセスに、何か問題はないか 1 契約当事者間の効力はどうなっているか 2 第3者に対抗できるか をつかむことがポイントです。(意思表示の問題解決のカギ) |
この連載は、宅建の過去問を解くためのバックボーンとなる知識をまとめてい
ます。したがって、暗記しようとしたりしないで、こういうこともあるのかと、
チラとアタマの片隅にいれておく程度で十分です。
宅建の基本書の意思表示を覚えても得点できない原因は、背景知識・判例・通
説を知らないこと、また、せっかくの基本書の知識をウロ覚えであるためと思わ
れます。判例や事例問題は、少しずつアタマの片隅に蓄積していくしか対処の
しようがありません。
◆心裡留保の定義
「効果意思(真意)≠表示行為」となるのが、「意思の欠缺」で、心裡留保は、
「表示行為に対応する真意がないのを知りながらする意思表示」 「表示行為が表意者の真意と異なる意味で解釈・理解されるのを 知りながらする意思表示」 |
です。
◆ほかの意思の欠缺との違い
錯誤では、「表示行為と真意が不一致なのに、表意者が知らない」 通謀虚偽表示では、 「表示行為に対応する真意がないのを知りながら 相手方と通謀してする意思表示」、 つまり「相手方との通謀」という点で、心裡留保と異なっています。 |
◆具体的には…
Aを表意者、Bを相手方とします。
・Aが土地を売る意思がないのに、冗談で、Bに「100万円で売る」と言い、 どうせBに100万円など揃えられるはずがないとタカを括っていた場合。 ・Aが全くのウソとはいえないまでも、後で重大な義務を負担するとは思わずに、 その場のノリで、キャバレーのホステスBに将来の独立資金を与えるなどの約束を した場合。(有名な「カフェ丸玉女給事件」) |
2つのケースとも、将来わが身にふりかかる責任の重大さを自覚せずに、
不注意な意思表示をしています。
したがって、このような無責任な態度での意思表示ではあっても、
相手方の保護や取引の安全の為には、表意者を保護する必要はなく、 民法では、相手方が善意・無過失なら、「有効」としています。 |
◆心裡留保は原則有効
相手方が善意かつ無過失→有効(93条) 相手方が悪意―――――→無効(93条但し書) 相手方が有過失――――→無効(93条但し書) |
◆心裡留保が「有効」になる場合(93条)
A(心裡留保)―B(善意・無過失) 相手方がその事情を知らず(善意)、かつ、 その知らないことが社会通念上やむを得ない(無過失)場合 →相手方の利益を保護するために有効。 |
≪系-1≫ただし、婚姻や養子縁組のような当事者の真意が尊重されるべき
身分上の行為には適用されません。
≪系-2≫相手方のない意思表示(広告、遺言、寄付行為)も、
93条但し書は適用されず、常に有効とするのがかつては通説でしたが、
現在では、これを疑問とする学説が出ています。
(ex.心裡留保による遺言で受遺者とされた者が
遺言者の真意を知っていた(悪意)場合
にも有効な遺言とするのはおかしいではないか、という説があります)
◆心裡留保が「無効」になる場合(93条但し書)
A(心裡留保)―B(悪意・有過失)
相手方がその事情を知っていたり(悪意)、 または、その事情を知らなかったとしても過失がある場合 →相手方を保護する必要もなく、 表意者に内心の効果意思もないため、無効。 |
◆善意の第3者に対抗できない
A(心裡留保)―B(悪意/有過失)―C(善意)
Aの心裡留保をBが悪意または有過失ならAはBに無効を主張できますが、 Bからさらに権利を取得したCに対しては、 Cが善意であれば保護されます。(通説) 心裡留保の93条には規定はありませんが、虚偽表示94条2項が類推適用されます |
<番外知識> ◆相手方Bは無効を主張できるか A(心裡留保)―B できる・・・無効は誰からも主張できるので相手方も無効を主張できる できない・・心裡留保で無効の主張を認めるのは表意者を保護するためであり、 相手方の無効を認めるのは趣旨に反するため、認められない。 この2つの学説が対立しており、試験には出ません。 |
□■□心裡留保の出題歴(1)■□■□
<平成10年出題> Aが、A所有の土地をBに売却する契約を締結した場合に関する次の 記述は、民法の規定によれば正しいか。 肢3 Aが、自分の真意ではないと認識しながらBに対する売却の意思表示を 行った場合で、BがそのAの真意を知っていたとき、Aは、売却の意思表示の 無効を主張できる。 |
【正解】○ 93条の但し書そのまま。