民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
意思の欠缺 / 心裡留保・第2回・悪意の第3者と代理権の濫用への類推適用 |
意思表示の問題では、 0 契約のプロセスに、何か問題はないか 1 契約当事者間の効力はどうなっているか 2 第3者に対抗できるか をつかむことがポイントです。(意思表示の問題解決のカギ) |
●悪意の第3者の登場
【cf-1】 A(心裡留保)―B(善意無過失)―C(悪意) こう書けば、大体のシナリオが思い浮かぶと思いますが、Aが無効を主張した ときに、悪意の第3者CがAに対抗できるかが問題です。 |
前回のまとめである、
相手方が善意かつ無過失→有効(93条) 相手方が悪意―――――→無効(93条但し書) 相手方が有過失――――→無効(93条但し書) |
を考えるとわかりますが、(cf-1)の場合のCは、Aに対抗できます。
Aの相手方のBが善意無過失なので、この契約は有効であり、
Cが悪意であっても、
そのことはAとBの契約の有効・無効とは関係がありません。
有効か無効かは相手方Bの善意無過失・悪意or有過失によって決まります。
Cが悪意なので納得できない方もいらっしゃると思いますが、条文や判例上では
こうなっているのです。
≪補足≫ 前回、公式として、以下の場合をとりあげました。 【cf-2】 A(心裡留保)―B(悪意or有過失)―C(善意/善意無過失/善意有過失) この場合、AはBに対して無効を主張できました。 しかし、この場合の第3者Cが善意なら、Aが無効を主張しても、 AはCに対抗できませんでした。善意の第3者を保護する必要があるからです。 (もちろん、Cが悪意であれば、CはAに対抗できません。 相手方Bの悪意or有過失によってAとBの契約が無効であり、 悪意の第3者まで保護する必要はないからです。) |
●とんでもない代理人登場
A(代理権授与) | B――――C(悪意or有過失) (代理人) ここでBが、Aから授与された代理権の範囲で、B自身又は第3者の利益を 図る目的でAとCの契約を締結した場合、 AはCに対し、Bの行為について無効を主張できるでしょうか? |
【解説】
この代理権の濫用は、代理で「心裡留保」が類推適用されるので有名な例です。
判例では、
「代理人が自己又は第3者の利益を図るため権限内の行為をしたときは、相手方
が代理人の右意図を知り又は知ることを得べかりし場合に限り、民法93条但し書
の規定を類推して、本人はその行為につき責めに任じない」(最高裁・昭42.4.20)
としています。
判例の法律構成としては、次のようなものでした。 『代理人のした契約の効果は本人に帰属するのが原則であり、この意味で、本人A と代理人Bとは一体と考えると、A+Bは、その真意(本人Aの意思)に反する意思 表示を行ったことになり、これは「意図的に真意に反する意思表示を行ったときの 効果」を定めている93条の心裡留保を類推適用できる。』 |
「本人の真意≠代理人のした行為」を「効果意思(真意)≠表示行為」と見たてて
ます。
心裡留保で、無効を主張できるのは、相手方が悪意又は有過失のときでした。
判例は、このケースにもそれをあてはめています。
【答】AはCに無効を主張できます。
本問は、ズバ予想宅建塾・分野別編、今年の直前対策問題集などでも取り上げら
れている問題です。実は、これ以外にも心裡留保で代理に絡んだ問題が、直前
問題集や模試編などでも取り上げられていますが、過去問出題の範囲を大きく
逸脱していると思われるため、今回は取り上げませんでした。
≪補足≫ 【cf-3】代理人が自己又は第3者の利益を図るため権限内の行為をした ことについて、相手方が善意無過失のとき A(代理権授与) | B――――C(善意無過失) (代理人) この場合は、Aは無効を主張できません。 心裡留保では、相手方が善意無過失のときは「有効」であったからです。 |