民法クローズ・アップ |
判例による意思表示の研究 |
意思の欠缺 / 意思表示・第3回・意思表示と法律行為 |
前回、民法での心理分析を扱いました。今回は、法律行為について初歩的なもの
を整理します。少しネムたい所ですが、前提になるところなのでチョット我慢し
てください。
1 法律行為とは、
法律行為は「それを行う者の意思表示の内容通りの法的効果が発生する行為」
(大村敦志・基本民法1・p.17)と考えられていますが、
(1)単独行為・・・単一の意思表示によって構成。
相手方のある単独行為の例としては、取消・解除など。
相手方のない単独行為の例としては、遺言など。
(2)双方行為(契約)・・・2つ以上の意思表示の合致によって成立。
(3)合同行為・・・社団法人の設立など。
などに分類され、宅建の範囲としては(1)(2)になります。
●法律行為の有効要件
法律行為の効力要件としては、次の三つがあります。
(1)当事者が能力を有すること(意思無能力者の法律行為は無効、制限能力者の行為
は取り消し得る法律行為になります)
(2)内容の妥当性(公序良俗・強行規定に反するものは無効)
(3)意思の完全性(意思と表示が一致していること。意思の欠缺がないこと。)
心裡留保…原則有効。
93条但書では、相手方が悪意・有過失のときは無効。 ただし、善意の第3者には対抗できないとされる。 通謀虚偽表示…原則として無効。ただし、善意の第3者には対抗できない。 また善意の第3者は無効も有効も主張できる。(善意の第3 者が権利を主張する場合、対抗要件は不要) 錯誤…要素の錯誤は無効。 表意者に重大な過失があるときは無効主張はできない。 無効は原則として表意者のみ主張できるとされているが、 第3者が表意者に対する債権を保全する場合は、 主張できることがある。(判例) 表意者は、善意の第3者に対しても無効を主張できる。 |
無効や取消は、前回、動機や意思表示の過程の中にも潜んでいると申し上げまし
たが、無効や取消で悩む最大の原因は、位置付けがハッキリしていないことにより
ます。
2 意思表示の到達
原則として、相手方のある場合は、到達の時点を持って効力を生じます。
例外として、発信の時点で効力を持つものとしては、 (1) クーリング・オフの発信 (2) 契約の承諾 (民法526条) (3) 制限行為能力者側への催告に、制限行為能力者側が確答を与えるとき(民法19条) などがあります。 |
到達の時点で、効力をもつとすると、受領した人の受領能力も問題になります。
相手方が意思表示の受領当時、未成年者・成年被後見人であったときは、意思表示
がなされたことをこちらは主張できません。被保佐人・被補助人には受領能力が
あるので注意してください。(民法98条)
前回と今回で、意思表示を扱う前提ができました。
次回から、いよいよ意思表示の本題にはいります。次回は「錯誤(1)」です。過去問
出題例で、錯誤のからんだ問題を研究していきます。
●読者からのメール |
読者の方より、「法律行為と意思表示を見ていく必要性」をまとめていただきました。 ありがとうございます。 民法では、契約の成立のプロセスに問題があるときに法律行為の効力に制限を かけています。契約の効力を意思表示のプロセスから見ていくのが、この連載の 狙いなのですが、この狙いを正に的確にまとめていただきました。 |
◆なぜ、「意思表示」をみていく必要があるか? 法律行為とは、私法上の権利(義務)の得喪変更を生じさせる行為を言います ↓ 法律行為の主要なものである売買契約を例にとると、 売主と買主双方に、権利と義務が発生します。 ↓ 買主であれば、目的物の所有権を取得する権利を得ますが、 それとともに代金を支払う義務も生じます。 ↓ 契約が成立すると、契約に拘束力が生じ、 契約当事者は、お互いに義務を果たさなければなりませんが、 民法は、当事者が契約に拘束される根拠を、そのような法律関係に身を置く ことを望んだからだという、その人の意思にあると考えます。 ↓ だから、契約が成立した以上、「契約をやめる」事情が発生しないかぎり、 契約は有効なままです。 ↓ しかし、(一旦有効に契約が成立しても、) 契約の効力は、諸条件をクリアしなければ有効が完全に確定せず、 それらにひっかかるときは、契約の効力を法的に否定する必要が 出てきます。 (契約の成立のプロセスに問題があるときも、その1つに当たります。) ↓ それを明らかにしていくことが、 意思の欠缺/瑕疵ある意思表示を扱う意味です。 |