Brush Up! 権利の変動篇

正解・解説

弁済に関する問題1 平成5年・問6


【正解】

×

からの借入金100万円の弁済に関する次のそれぞれの記述は,民法の規定及び判例によれば○か,×か。(平成5年・問6)

1.「の兄は,が反対してもの承諾があれば,に返済することができる。」

【正解:×

 債務の弁済は第三者でもなすことができます(民法第474条1項)が、当該債務に利害関係のない第三者は(たとえ親族・友人であっても)、債務者の意思に反して、弁済をすることはできません。

 つまり、本設問の記述によれば、Aの兄Cは、

・Aの借金の保証人になっている とか、

・Aの借金のために、自己の不動産に抵当権を設定している(物上保証人

とかではなく、Aの債務に関して何等の利害関係を有さず、単なる血縁関係だけであり、まして債務者Aが反対しているのは、その債務の額や債務の存在そのものにつき争いがあるのかも知れず、また「僕の借金に兄さんは関係ないヨ」とAが言うことも考えられ、後に別のトラブルの発生する余地もあり、いかに兄とはいえ、ただそれだけの理由で、本人の反対を押し切って弁済することはできません。

2.「の保証人に弁済した場合,は,の承諾がなくてもに代位することが

できる。」

【正解:

 設問1の解説でも触れましたが、保証人は、債務者の利害関係人であるため、「債務者の承諾がなくても」弁済することができます。

 この場合の保証人Cは、元債権者Bの承諾を得ることなくBの地位(=債権者としての地位)に代わることができ(第500条「弁済者の法定代位」という)、新たに“債権者C”となって、債務者本人Aに弁済金を請求(求償)できます(第501条)。

3.「名義の領収証をが持参したので,に弁済した場合において,

受領権限がなくても,が過失無くしてその事情を知らなかったときは,は免責される。」

【正解:受取証書持参人への弁済出題歴・昭和62年・問11・肢4

 真正の受取証書を持参した者は必ずしも弁済受領権限があるとは限りません。しかし,真正の受取証書を持参した者にはあたかも受領権限があるかのような外観を生じるため,民法では,受取証書を持参しても弁済受領権限のない者に為した弁済を一定の場合に有効として弁済者を保護する規定があります。〔ただし,受取証書は真正なものでないといけません。大審院・明治41.1.23〕

 正当に成立した領収書の持参人のEは、弁済受領の権限のある者とみなされ、弁済者Aが“善意・無過失”であれば有効な弁済とみなされます(第480条)。

関連・債権の準占有者への弁済 → 出題・平成11年・問5・肢3

4.「は,弁済にあたり,に対して領収証を請求し,がこれを交付しないときは,

その交付がなされるまで弁済を拒むことができる。」

【正解:

 弁済と領収証の交付(第486条)は、判例によれば、同時履行の関係に立つ(第533条)とされ、したがって弁済しようとする者は、受取証書の交付がなければ、弁済を拒むことができます(受取証書請求権、大審院・昭和16.3.1) 

受取証書はなぜ必要か?

・弁済によって債権は消滅するが、弁済した証拠がないと再び請求を受けるおそれがある。

・弁済した者が債務者ではない場合、債務者に対して求償したり債権者代位するときに、弁済した証拠になる。

一部弁済

 受取証書の交付は、全部弁済だけでなく、一部の弁済でも請求できます。(ただし、一部の弁済では債権証書の返還は請求できないことに注意。)

●債権証書請求権(487条)

 債権全部の弁済を終えたときは,その債権証書〔借用書など〕の返還を請求できます。〔一部弁済でも,不足額が僅かの場合は信義則により債権者は証書の返還を拒否できない,とされる。(判例・昭和9.2.26)

 ⇒通説では,債権証書の返還と弁済とは同時履行の関係には立たないとされます。

受取証書請求権 判例  弁済と受取証書→同時履行の関係に立つ
債権証書請求権 通説  弁済と債権証書→同時履行の関係には立たない

債権証書の返還はなぜ必要か?

 債権証書が残っていると債権の存在が推定されることになるので、紛争になったときには、債務者に不利になるためです。

弁済の費用

 弁済について費用がかかるときは原則として〔別段の意思表示がないとき〕債務者の負担とし,債権者が住所を移転したなどの理由で弁済の費用が増加したときは債権者が負担します。(485条)


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