Brush Up! 権利の変動篇

正解・解説

代物弁済に関する問題 (平成12年・問9)


代物弁済については,平成12年に出題される前には,昭和55年・問12・肢4に初歩的な出題があっただけでした。しかし,昭和55年と平成12年の問題では余りに落差がありすぎるため,平成12年の問題をご覧になる前に以下のページを先にご覧になっておくことをお勧めします
 ⇒ 平成12年・問9の問題を解くのに必要な代物弁済の予備知識

【正解】

× × ×

●代物弁済とは何か
 代物弁済とは,債務者が,債権者の承諾を得て,本来の給付とは異なる給付をすることです。(482条)

代物弁済は弁済と同一の効力をもつため,弁済の規定が適用され,代物弁済がなされるとその債権は消滅し,債権を担保する権利〔担保物権〕も消滅します。簡易な債権回収として使われることが多いようです。

・債務者以外の第三者も代物弁済をすることができる。

・債務の一部のみを消滅させる代物弁済も当事者の合意があれば可能。〔この場合,債務は代物弁済した分を除いて当然残る。〕

が,に対する金銭債務について,代物弁済をする場合に関する次の記述のうち,民法の規定及び判例によれば,正しいものはどれか。(平成12年・問9)

1. 「が,不動産の所有権をもって代物弁済の目的とする場合,への所有権移転登記その他第三者に対する対抗要件を具備するため必要な行為を完了しなければ,弁済としての効力は生じない。」

【正解:】 代物弁済の規定は民法482条

 債務消滅の効力を生じさせるには、意思表示だけでなく、代物弁済の目的物が不動産であるときは、所有権移転登記手続の完了によって、第三者に対抗する要件を備えたときに代物弁済は成立するとされています。(最高裁・昭和39.11.26)

≪参考≫

 代物弁済の要件としては、次の四つがあります。

1 債権が存在すること。

2 本来の給付と異なる給付が現実になされること。(要物契約)

3 給付が弁済に代えてなされること。

4 債権者の承諾があること。

2. 「の提供する不動産の価格が1,000万円で,に対する金銭債務が950万円である場合,AB間で清算の取決めをしなければ,代物弁済はできない。」

【正解:×

 代物弁済は、債務者が債権者の承諾を得て行うもの(契約)で、本来の給付と代物弁済としてなされた給付が必ずしも同価値である必要はなく、清算義務もないとされています。(大審院・大正10.11.24)

 したがって、当事者が合意しているのであれば、不動産の価格と金銭債務の金額が同価値ではない場合でも、その清算の取り決めをしなくても、代物弁済はできます。

本設問では、代物弁済として給付されたものが若干高額になっていますが、逆に代物弁済として給付されたものが本来の給付より不足している場合でも差し支えないとされています。

 しかし、代物弁済として給付されたものが本来の給付よりはるかに多額のもので暴利行為になりうる場合は無効とされています。(最高裁・昭和27.11.20)

本設問は、代物弁済についての問題であり、担保目的の代物弁済予約についての問題ではありません。代物弁済予約では、判例で、代物弁済の目的物の客観的な価値と債権額との差額を、債権者から債務者に清算する義務を負うとしており、代物弁済予約についての判例法理は1978年に仮登記担保契約に関する法律の制定として活かされ、現在では、代物弁済予約は不動産などでは余り用いられなくなっていると言われます。

3. 「が,に対する金銭債務の弁済に代えて,に対するの金銭債権を譲渡する場合に,その金銭債権の弁済期が未到来のものであるときは,弁済としての効力は生じない。」

【正解:×

 代物弁済は、不動産だけでなく、動産、第三者に対する債権の譲渡(大審院・大正4.11.20)でもよいとされています。

 代物弁済として金銭債権を譲渡する場合は、対抗要件が具備されているならばその金銭債権の弁済期が到来していなくても、弁済としての効力を生じます

手形・小切手などの交付は,「債務の履行(弁済)に代えて」という当事者の意思がある場合には,代物弁済となる。

4 .「は,から代物弁済として不動産の所有権の移転を受けた後は,その不動産に隠れた瑕疵があっても,の責任を追求することはできない。」

【正解:×

 代物弁済として給付されたものに隠れた瑕疵があった場合でも、債権は消滅し、それを担保する権利(担保物権)も消滅します。この場合、ほかのものに取替えてくれと、瑕疵の無いものの給付を請求できません。

 しかし、代物弁済は有償契約であるため、売買の瑕疵担保責任の規定が準用され(559条)、隠れた瑕疵がある場合には、債権者は、契約の解除あるいは損害賠償の請求をすることができます。(570条、576条)


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