Brush Up! 権利の変動篇
危険負担の過去問アーカイブス 昭和61年
A所有の建物につき,Aを売主,Bを買主とする売買契約が成立した。この場合,民法の規定によれば,次の記述のうち誤っているものはどれか。(昭和61年・問8) |
1.「移転登記後,引渡し前に建物がCの放火により半焼した場合,BはAに対し代金の減額を請求できる。」 |
2.「Aの海外出張が決まったら売却する旨の条件がつけられている場合,条件の成否が未定のうちに,建物が大地震により滅失したときは,Aは売買代金債権を失う。」 |
3.「移転登記後,引渡し前に建物が大地震により滅失したときも,Aは売買代金債権を失わない。」 |
4.「移転登記後,引渡し前にAが自己の失火により建物を半焼させた場合は,Aの債務不履行となり,Bは売買契約を解除できる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | ○ | ○ |
1.「移転登記後,引渡し前に建物がCの放火により半焼した場合,BはAに対し代金
の減額を請求できる。」
【正解:×】 ◆毀損のときの危険負担の債権者主義
契約締結 移転登記 放火により半焼
――●――――●――――●――――→ 特定物の売買契約の成立後、引渡し前に、引渡し債務の債務者(売主)に責任のない事由で、売買の目的物が滅失・毀損した場合は、別段の特約がなければ,そのリスクは、買主つまり債権者が負担します。(534条1項) 目的物が毀損した場合は、売主Bは毀損したまま引き渡せば債務を履行したことになります。(483条) このとき、買主Bは、代金の減額を請求することはできず、代金を全額支払わなければいけません。
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●関連問題 | ||
1.「売買契約の目的物である建物の一部が,契約締結後に引渡し期日前に,台風により損壊したときは,売主は,その損壊した部分を補修のうえ,期日までに引き渡さなければならない。」(昭和59年・問10・肢2) | ||
【正解:×】
特定物の引渡しでは、引渡し期日での現状のままで引き渡すこととなっています。したがって、目的物が毀損した場合は、毀損したまま引き渡せば債務を履行したことになります。(483条) 本肢の場合は、損壊した部分を補修する必要はなく、毀損したそのままの状態で引き渡します。
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2.「Aの海外出張が決まったら売却する旨の条件がつけられている場合,条件の成否
が未定のうちに,建物が大地震により滅失したときは,Aは売買代金債権を失う。」
【正解:○】 ◆条件付売買契約での特則
契約成立 大地震により滅失 → 履行できなくなる
●――――――――●- - - - - - - - - - - - - 成否未定 この場合、条件付売買契約であっても、契約は成立していますから、危険負担の問題になります。通常の売買契約ならば、危険負担の債権者主義 (リスクは債権者が負担) によって、Aは売買代金債権を失いません。 しかし、この条件付売買契約では、以下のような特則があります。
つまり、条件付売買契約では、条件が成否未定の間に、債務者に帰責事由なく目的物が滅失したときは、引渡し債務が消滅すると同時に、代金支払債務も消滅します。 したがって、売主Aは買主Bに対して代金支払いの請求をすることができなくなります。 |
●成否未定での不能−債務者に帰責事由がある場合の出題例 | |||||||
1.「AとBは,A所有の土地をBに売却する契約を締結し,その契約に「AがCからマンションを購入する契約を締結すること」を停止条件として付けた(仮登記の手続きは行っていない)。
停止条件の成否未定の間は,Aが当該A所有の土地をDに売却して所有権移転登記をしたとしても,Aは,Bに対して損害賠償義務を負うことはない。」(平成11年・問6・肢3) |
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【正解:×】
◆債務不履行と『期待権−条件付権利』 B 条件付売買契約 契約成立 Dに売却して所有権移転 → Bへの履行ができなくなる
条件付法律行為で、条件成就によって利益を受ける当事者は、条件の成否が未定の間もその利益を期待しています。民法は、条件成就によって利益を受ける当事者の期待を「期待権」として保護し、相手方の侵害を禁止しています。 もし、これを侵害すると、相手方に損害賠償請求権が発生します。 停止条件の成否未定の間にAがDに土地を売却し所有権移転登記をしてしまうということは、停止条件が成就して履行期が到来しても、BがAの所有地を取得できなくなるという不利益を生じさせます。 Aは,Bの期待権を侵害したことにより、Bに対して損害賠償義務を負います。ただし,条件付権利の侵害の効果は条件が成就したときに生じるので、条件成就の前には損害賠償を請求することはできません。(通説) 復習 Aの帰責事由によって引渡し債務が履行不能になれば、債務不履行になり、 ▼条件付権利は当事者だけではなく、第三者も侵害することはできないとされています。(通説)
註 条件付権利の侵害は不法行為とされていましたが,最近では債務不履行と考える説があります。 |
●成否未定での不能−債務者に帰責事由がない場合の出題例 |
1.「 Aは,軽井沢に所有する別荘をBに売り渡す旨の契約を締結した。 『Aが今年中に海外へ転勤を命じられること』を売買の停止条件としていた場合において,契約締結後,転勤命令前に落雷により別荘が全焼したときは,AはBに対して代金を請求できない。」 |
【正解:○】
落雷により全焼(滅失) 条件付売買契約の特則により、リスクは債務者Aの負担となり、AはBに対して代金を請求できません。 ▼停止条件付売買契約では、条件が成就したときから契約の効力が生じます。(127条1項) |
●停止条件付契約の出題 |
昭和61年・・・危険負担での特則〔535条1項〕 平成11年・・・条件成就の成否未定の間の保護 平成15年・・・条件成就の成否未定の間の保護 |
3.「移転登記後,引渡し前に建物が大地震により滅失したときも,Aは売買代金債権
を失わない。」
【正解:○】 ◆滅失のときの危険負担の債権者主義
契約締結 移転登記 大地震により滅失
――●――――●――――●――――→ 契約成立後に、引渡し債務が実現できない。
特定物の売買契約(特定物に関する所有権の移転を目的とする双務契約)では、契約が成立して引渡しをする前に、売主(債務者)の責任ではない事由で目的物が滅失したときは、負担契約についての別段の特約がなければ、そのリスクは買主(債権者)が負担し、買主は代金の支払いを免れることはできませんでした。(危険負担の債権者主義) したがって、引渡し前に建物が大地震により滅失したときも,Aの帰責事由による滅失ではないため、Aは売買代金債権を失いません。 |
4.「移転登記後,引渡し前にAが自己の失火により建物を半焼させた場合は,Aの
債務不履行となり,Bは売買契約を解除できる。」
【正解:○】 ◆債務不履行(履行不能)
契約締結 移転登記 売主Aの失火により滅失
――●――――●――――●――――→ 契約成立後に、引渡し債務が実現できない。
売主(債務者)の過失によって建物が半焼した場合、建物の毀損になりますが、半焼では、もはや契約の意味をなすとは言えず、履行不能になったと考えられます。
したがって、債務者Aは債務不履行の責任を負い、債権者Bは契約を解除することができます。 |