Brush Up! 権利の変動篇
契約総合の過去問アーカイブス 条件付法律行為 平成11年・問6
AとBは,A所有の土地をBに売却する契約を締結し,その契約に『AがCからマンションを購入する契約を締結すること』を停止条件として付けた(仮登記の手続きは行っていない)場合に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか。 |
1.「停止条件の成否未定の間は,AB間の契約の効力は生じていない。」 |
2.「AB間の契約締結後に土地の時価が下落したため,停止条件の成就により不利益を受けることとなったBが,AC間の契約の締結を故意に妨害した場合,Aは,当該停止条件が成就したものとみなすことができる。」 |
3.「停止条件の成否未定の間は,Aが当該A所有の土地をDに売却して所有権移転登記をしたとしても,Aは,Bに対して損害賠償義務を負うことはない。」 |
4.「停止条件の成否未定の間に,Bが死亡した場合,Bの相続人は,AB間の契約における買主としての地位を承継することができる。」 |
●条件付法律行為 |
◆停止条件付法律行為 ・・・条件が成就することにより法律行為の効力が発生する。 条件成就 条件成就までは停止していることで、成就したらGO!! (法律行為の効力発生) ◆解除条件付法律行為 ・・・条件が成就することにより現在効力のある法律行為が消滅する。 条件成就 条件が成就したらSTOP!! (法律行為の効力の消滅) |
●停止条件付契約の出題 |
昭和43年・・・停止条件付法律行為の無効 昭和61年・・・危険負担での特則〔535条1項〕 平成11年・・・条件成就未定の間の保護 平成15年・・・条件成就未定の間の保護 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | × | ○ |
AとBは,A所有の土地をBに売却する契約を締結し,その契約に『AがCからマンションを購入する契約を締結すること』を停止条件として付けた(仮登記の手続きは行っていない)場合に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか。 C |
1.「停止条件の成否未定の間は,AB間の契約の効力は生じていない。」
【正解:○】 ◆停止条件付法律行為の効力 契約成立 条件成就 停止条件付法律行為は、原則として条件が成就したときから、その効力を生じます。(127条1項) ⇒ 効力が生じる 本問題では、A所有の土地の所有権がBに移転する。 ▼特約がなければ、条件が成就したことによる遡及効はないので注意してください。 |
●関連問題 |
1.「停止条件付法律行為について条件が成就した場合,初めから効力を有していたものとみなされる。」(司法書士・平成2年・問16・肢1) |
【正解:×】
当事者が特約で条件成就の効果を遡及させることはできますが、特約がなければ条件成就の効果は原則として遡及することはありません。(127条1項・2項) |
2.「AB間の契約締結後に土地の時価が下落したため,停止条件の成就により不利益
を受けることとなったBが,AC間の契約の締結を故意に妨害した場合,Aは,当該
停止条件が成就したものとみなすことができる。」
【正解:○】Bが悪者の場合 ◆故意にその条件の成就を妨げる行為
土地の地価が下落。Bは条件成就により不利益を受けることを察知。 条件が成就すると不利益を受ける当事者Bが、故意にその条件の成就を ▼形成権 権利者の一方的な意思表示で法律関係の変動を生じさせることができる権利。権利者の一方的な意思表示で法律関係が形成されることから、形成権という。代表例としては、取消権や解除権など。 ▼故意に不正な手段で条件を成就させた場合 民法では、故意に条件の成就を妨害した場合の規定しかありませんが、判例では、条件成就によって利益を受ける当事者が不正な手段で条件を成就させた場合には、相手方は条件が成就しなかったものとみなすことができるとされています。
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●関連問題 |
1.「条件成就により不利益を受ける当事者が故意に成就を妨げた場合,第三者は,条件を成就したものとみなすことができる。」(司法書士・平成2年・問16・肢3) |
【正解:×】
条件が成就したものとみなせるのは、当事者(契約の相手方)であり、第三者がみなすことはできません。(130条) |
3.「停止条件の成否未定の間は,Aが当該A所有の土地をDに売却して所有権
移転登記をしたとしても,Aは,Bに対して損害賠償義務を負うことはない。」
【正解:×】Aが悪者の場合 ◆債務不履行と『期待権−条件付権利』 B 条件付売買契約 契約成立 Dに売却して所有権移転 → Bへの履行ができなくなる
条件付法律行為で、条件成就によって利益を受ける当事者は、条件の成否が未定の間もその利益を期待しています。民法は、条件成就によって利益を受ける当事者の期待を「期待権」として保護し、相手方の侵害を禁止しています。 もし、これを侵害すると、相手方に損害賠償請求権が発生します。 停止条件の成否未定の間にAがDに土地を売却し所有権移転登記をしてしまうということは、停止条件が成就して履行期が到来しても、BがAの所有地を取得できなくなるという不利益を生じさせます。 Aは,Bの期待権を侵害したことにより、Bに対して損害賠償義務を負います。ただし,条件付権利の侵害の効果は条件が成就したときに生じるので、条件成就の前には損害賠償を請求することはできません。(通説) 復習 Aの帰責事由によって引渡し債務が履行不能になれば、債務不履行になり、 ▼条件付権利は当事者だけではなく、第三者も侵害することはできないとされています。(通説)
註 条件付権利の侵害は不法行為とされていましたが,最近では債務不履行と考える説があります。 ▼Bは、仮登記(所有権移転請求権保全の仮登記)をしておけば、本肢のようにAが二重譲渡してDに移転登記したとしても、条件が成就したときに本登記に直すことによって土地の所有権をBは取得できます。(大審院・昭和11.8.4)
→ 本肢の設定では、Dに移転登記がされていてDは対抗要件を満たしているため、BはDに対抗することはできません。 |
●条件成就を妨げた場合に相手方ができること | |
128条,130条より次のようになります。
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4.「停止条件の成否未定の間に,Bが死亡した場合,Bの相続人は,AB間の契約
における買主としての地位を承継することができる。」
【正解:○】 ◆条件付法律行為での権利義務は相続される 相続人は、相続開始のときから被相続人の財産に属する一切の権利義務を承継するので(896条)、停止条件の成否未定の間にBが死亡した場合でも、AB間の契約は効力を失うのではなく、Bの相続人が、買主としての地位を承継し相続します。(129条) ▼条件成否未定の間でも、条件付権利は、一般の規定にしたがって処分・相続・保存(仮登記・時効中断etc)したり、担保をつけることができます。(129条) 註) 条件付権利に担保をつけるというのは、相手方が条件付権利を侵害する恐れがあるときに、保証人を立てたり、目的物に抵当権をつけることを意味します。 |