Brush Up! 権利の変動篇
契約総合の過去問アーカイブス 他人物売買 昭和43年
AはBに,C所有の土地を売ることを約束し,売買契約を締結した。次の記述のうち,正しいのはどれか。(昭和43年) |
1.「第三者の土地を売買することはできないので,この売買契約は無効である。」 |
2.「AはCから土地を取得して,Bに移転すればよいので,この売買契約は,はじめから有効である。」 |
3.「AはCから土地を取得して,Bに移転すればよいので,AがCから権利を取得したときから,この売買契約は有効となる。」 |
4.「AがC所有の土地を自分の土地と信じていた場合にのみ,契約は有効である。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
× | ○ | × | × |
→ 他人物売買と担保責任については,アウトライン,昭和48年など参照。
1.「第三者の土地を売買することはできないので,この売買契約は無効である。」 |
【正解:×】 ◆売買の効力 売買とは,当事者の一方が特定の財産権を相手方に移転することを約し,また相手方がその代金を支払うことを約することによってその効力を生じます。(555条) 売買は,その財産権を相手方に給付(履行)することが社会通念上可能であれば,有効に成立します。(公序良俗に反したり不可能なものは始めから無効。) したがって,他人物売買であるといえども,売主が所有者からその所有権を取得して買主に引き渡す可能性がゼロでないならば,契約の効力はあるわけです。 本問題で言えば,B(債権者)は,Aとの契約時点ではC(第三者)に対して無権利ですが,契約成立以降は,A(債務者)に対して土地の引渡しを求める権利があります。 |
●債権の性質 |
▼債権とは,特定の人(債権者)が他の人(債務者)に対して何らかの行為を要求することのできる権利です。つまり,債権は原則として債務者以外の第三者に対しては主張することができませんが,債務者に対しては履行を主張することができます。 |
▼債権は人と人との関係なので,同一の物について,同一の給付を内容とする契約が複数成立して競合することがあり得ます。〔例えば,二重売買〕 物権は物を直接に支配する権利なので,同一物の上に一つの権利が成立すると同一内容の権利が併存することは許されませんが〔一物一権主義〕,債権では,人が人に特定の契約の履行を求める権利に過ぎないなので,二重売買や他人物売買が可能なのです。 |
2.「AはCから土地を取得して,Bに移転すればよいので,この売買契約は,はじめから有効である。」 |
【正解:○】 ◆他人物売買での売主の義務 民法では,売買の目的物〔正確には,財産権。ここでは土地の所有権〕が他人の物であったとしても無効とはせずに有効に成立するものとし,その代わり,他人物売買での売主には,他人の権利を取得して買主に移転する義務を課しました。(560条) → もし,売主が他人の権利を取得できなかった場合には,担保責任を負います。(561条〜564条〕 したがって,他人物売買でも,はじめから有効に成立します。 ▼他人物売買では,売買の目的物の所有者が契約成立時に譲渡する意思がない場合でも有効に成立し,売主は担保責任を負います。(最高裁・昭和25.10.26) |
3.「AはCから土地を取得して,Bに移転すればよいので,AがCから権利を取得したときから,この売買契約は有効となる。」 |
【正解:×】 ◆『売買の目的物の所有権移転の時期』と『他人物売買の契約成立時期』は別 「他人物売買は契約締結時点で有効に成立」し,「その土地の所有権移転の時期」とは別です。 したがって,「AがCから権利を取得したときから,この売買契約は有効となる」のではありません。 ●他人物売買での所有権移転の時期 当事者に特約がなければ,売主が,所有者から目的物を取得する契約を締結したと同時に,所有権は直ちに買主に移転します。(大審院・大正8.7.5) |
4.「AがC所有の土地を自分の土地と信じていた場合にのみ,契約は有効である。」 |
【正解:×】 ◆売主が他人物であることを知っていたかに関係なく成立 他人物売買では,売主が「売買の目的物が他人物であること」を知っていたかどうかには関係なく成立し,契約成立以後は,売主は,売買の目的物を引き渡す給付義務を負担します。 つまり,もし売買の目的物が他人物であることを売主が契約当時知らないでいて,後で他人物であることを売主が知ったとしても,契約は無効にはならず有効のまま存続します。 したがって,本肢は×です。 |