Brush Up! 権利の変動篇

契約総合の過去問アーカイブス 売買契約 昭和59年・問10


不動産の売買契約に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているのはどれか。(昭和59年・問10)

1.「承諾の期間の定めのある買受けの申し込みは,原則として,申込者がその期間中に承諾の通知を受けなければ効力を失う。」

2.「売買契約の目的物である建物の一部が,契約成立後引渡し期日前に,台風により損壊したときは,売主は,その損壊した部分を補修のうえ,期日までに引き渡さねばならない。」

3.「売買契約が解除された場合,両当事者は原状回復義務を負うが,売主が返還すべき金銭には受領時からの利息を付さなければならない。」

4.「買受けた不動産について抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続きを終わるまで,その代金を拒絶することができる。」

【正解】

×
1.「承諾の期間の定めのある買受けの申し込みは,原則として,申込者がその期間中に承諾の通知を受けなければ効力を失う。」

【正解:

 売買契約は,申込みと承諾の合致によって成立します。 (類:昭和53年)

 申込みに承諾の期間の定めがあるときは,その期間内に承諾の通知が到達しなければなりません。(521条2項)

 承諾の期間内に承諾の通知を発信しても,期間内に到達しない場合は,契約は成立しなかったとみなされます。〔その期間内に到達すれば,承諾の通知を発したときに契約は成立します。契約成立での発信主義したがって,本肢はです。

2.「売買契約の目的物である建物の一部が,契約成立後引渡し期日前に,台風により損壊したときは,売主は,その損壊した部分を補修のうえ,期日までに引き渡さねばならない。」

【正解:×

 土地・建物などの特定物の引渡しは,当事者間で特約がなければ,引渡し期日の現状のママで引き渡せばその引渡しの債務は消滅します。(483条)

 契約成立後引渡し期日前に,引渡しの債務者の帰責事由によらずに目的物の一部の毀損があった場合は,当事者間で特約がなければ,危険負担の規定により債権者の負担になります。(534条1項)

 したがって,『売主は,損壊した部分を補修のうえ,期日までに引き渡さねばならない』とする本肢は×になります。

▼契約成立後引渡し期日前に,引渡しの債務者の帰責事由により目的物の滅失や一部の毀損があった場合は,債務者は債務不履行責任を負うことになります。(400条,415条)

3.「売買契約が解除された場合,両当事者は原状回復義務を負うが,売主が返還すべき金銭には受領時からの利息を付さなければならない。」

【正解:

◆解除での原状回復−受領した金銭を返すときには利息をつける

 契約が解除されたときには,契約ははじめから存在しなかったのと同じ法律的な効果を生じ,各当事者は,原状回復義務を負い(545条1項),受け取ったものがあればお互いに返還することになります。この原状回復は同時履行の関係に立ちます。(546条)

 不動産の売買の解除では,売主は代金を受領しているならばその受領の日からの利息をつけて返還しなければなりません。(545条2項)

 買主は,引き渡されたり移転登記をしていたときには,その不動産の返還や登記の抹消をしなければなりません。

4.「買受けた不動産について抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続きを終わるまで,その代金を拒絶することができる。」

【正解:

◆買い受けた不動産に登記があるときの代金支払拒絶権

 買い受けた不動産に,抵当権・先取特権・質権の登記があるときは,買主は抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払いを拒絶することができます。(577条)
 → 代金支払い拒絶権

◆代金支払拒絶権が認められないとき

 以下の場合は代金支払拒絶権が認められません。

・売主から「遅滞なく抵当権消滅請求をせよ」と請求されたにもかかわらず,抵当権消滅請求しなかったとき

・売主から「供託せよ」と請求されたにもかかわらず,供託しなかったとき

・売主と買主の間で,予め担保物権が設定されていることを考慮しその分を差し引いて代金を決めていたとき


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