Brush Up! 権利の変動篇
正解・解説
不法行為に関する問題4 使用者責任 平成11年・問9
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | ○ | ○ | × |
●使用者責任(715条) | |
被用者が事業の執行について不法行為をしたとき、選任・監督の注意等の免責事由がないならば、使用者は第三者に与えた損害を賠償をしなければいけません。(民法715条1項) ▼判例では、被害者の救済を重視し、被用者が不法行為をした以上は使用者に監督上の過失があるとして、使用者の免責事由の立証はほとんど認められていません。
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Aの被用者Bが,Aの事業の執行につきCとの間の取引において不法行為をし,CからAに対し損害賠償の請求がされた場合のAの使用者責任に関する次の記述は,民法の規定及び判例によれば,○か×か。(平成11年・問9) |
1.「Bの行為が,Bの職務行為そのものには属しない場合でも,その行為の外形から
判断して,Bの職務の範囲内に属すると認められるとき,Aは,Cに対して使用者責任
を負うことがある。」
【正解:○】 ◆行為の外形から判断して職務の範囲内 −"事業の執行"についての判例
A(使用者)
| B(被用者)・・・・・・・・・・・C(取引相手) 不法行為 被用者のした不法行為が「事業の執行について」行われたものであるかどうかは重要です。それにより、被用者のした不法行為について、使用者が賠償責任を負うかどうかが決定されるからです。この点について、判例は、取引行為の相手方である第三者を保護するために、次のように判断しています。
したがって、本肢は○になります。 |
●参考問題 | ||||||
AがBとの請負契約によりBに建物を建築させてその所有者となった。その後、この建物の建築の際におけるBの過失により生じた瑕疵により、その外壁の一部が剥離して落下し、通行人Cが重傷を負った。Aは、この建築の際において注文または指図に過失がなく、かつ、その瑕疵を過失なくして知らなかったときでも、Cに対して不法行為責任を負うことがある。(平成8年改) | ||||||
【正解:×】
◆注文者の指図・注文に、過失があるときは、請負の注文者にも不法行為責任 原則として、注文者は、請負人がその仕事で第三者に加えた損害を賠償する責任を負いません。しかし、注文や指図によって注文者に過失があって第三者に損害を与えた場合は賠償責任を負います。(716条)
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2.「Bが職務権限なくその行為を行っていることをCが知らなかった場合で,そのこと
につきCに重大な過失があるとき,Aは,Cに対して使用者責任を負わない。」
【正解:○】 ◆被用者に職務権限のないことに悪意or重過失のとき 判例では、上でみたように、被用者が職務を逸脱したり、地位を濫用して第三者に損害を与えた場合に、被用者の職務行為そのものには属していなくても、その行為の外形から判断して、職務の範囲内に属すると認められるときは、使用者責任を認めています。これは、取引行為で、外形を信頼した相手方を保護するためのものでした。 しかし、その後、判例は、取引の相手方が、その被用者が職務権限なくその行為を行っていることについて、悪意の場合や、または重過失によって知らなかった場合には、当該損害は事業の執行について加えた損害とはいえないとしています。(最高裁, 昭和42.11.2) このような場合まで取引の相手方を保護する必要はないため、本設問の場合は、使用者が使用者責任を負う必要はありません。
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3.「Aが,Bの行為につきCに使用者責任を負う場合は,CのBに対する損害賠償
請求権が消滅時効にかかったときでも,そのことによってAのCに対する損害賠償の
義務が消滅することはない。」
【正解:○】 ◆不真正連帯債務 A(使用者) 被用者と使用者は、どちらも被害者に対して全額の損害賠償義務があり、被用者と使用者の損害賠償責任は、不真正連帯債務の関係にあるとされています。 通常、連帯債務では、債務者の1人に生じた事由は、他の債務者にも影響を与えますが、不真正連帯債務では、債務者の1人に生じた事由は、弁済など債権を満足させるものを除いて、ほかの債務者の債務に影響を及ぼさないとされています。(判例) したがって、連帯債務では、債務者の1人に消滅時効が完成すれば、他の債務者の債務も消滅しますが、不真正連帯債務では、債務者の1人に対する損害賠償請求権が消滅時効にかかったときでも、そのことによってほかの債務者に対する損害賠償の義務が消滅することはない、とされています。
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4.「AがBの行為につきCに対して使用者責任を負う場合で,AがCに損害賠償金
を支払ったときでも,Bに故意又は重大な過失があったときでなければ,Aは,Bに
対して求償権を行使することができない。」
【正解:×】 ◆被用者への求償権 使用者が被害者に損害賠償金を支払ったときは、被用者に対して求償することができます。(715条3項) このことは、被用者の故意又は重大な過失があろうとなかろうと関係がありません。したがって、本肢は×になります。 ▼この求償については後日談があります。労働環境が整備されていない状況で被用者が事故を起こしたような場合にも、被用者に全額の求償を請求するのは酷な話ですが、判例では、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」使用者は被用者に対して求償することができる、としています。(最高裁、昭和51.7.8) |