Brush Up! 権利の変動篇

借地借家法の過去問アーカイブス 平成2年・問13 

借家権 建物の賃貸借中に建物が売却
敷金返還債務の承継・供託による免責・相続人のいない場合の借家権の継承


 は、から所有の建物を賃借して、居住しているが、がその建物をに売却し、登記も移転した。
 この場合次のそれぞれの記述は、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば○か、×か。(平成2年・問13)

1.「は、建物の引渡しを受けているから、に貸家権を対抗することができるが、建物の引渡しを受けていないときは、常にに対抗することができない。」

2.「に敷金を差し入れていた場合、は、からその敷金を受領しない限り、に対する敷金返還債務を引き継がない。」

3.「に賃料の増額を請求した場合、は、その増額を相当でないと考えたときは、相当と認める賃料を、直ちに供託すればよい。」

4.「が相続人なくして死亡した場合、と事実上夫婦と同様の関係にあった同居者は、その事実を知った後1月内にに対し特段の意思表示をしないときは、に対する権利義務を承継する。」

【正解】

× × ×

1.「Aは、建物の引渡しを受けているから、Cに貸家権を対抗することができるが、建物

の引渡しを受けていないときは、常にCに対抗することができない。」

【正解:×】 賃貸借契約後に建物が譲渡

 賃貸借契約後に、建物の所有者が替わる場合の賃借人の対抗要件を訊いています。

 本設問は、宅建特有のヒッカケ問題です。"常にとあるから×"という説明に満足してはいけません。

 建物の賃借権(借家権)の対抗力は、民法では「建物の賃借権の設定登記」ですが(民法605条)、借地借家法31条1項では、このほかに「登記がなくても、建物の引渡し」があれば、建物の賃借権に対抗力が与えられています。これは、基本書で何度も見ているはずです。

 本設問は、このことをよく考えずに呪文のように暗記している受験者を狙って直撃している問題です。

 借家権の対抗力・・・建物の賃借権の設定登記または建物の引渡し

 つまり、建物の引渡しがなくても、賃借権の登記があれば対抗できるわけで、「建物の引渡しを受けていないときは、常にに対抗することはできない」というのはおかしいわけです。

賃借権の登記がなくても、建物の引渡しがあればよい。

建物の引渡しがなくても、賃借権の登記があればよい。

対抗力に関連して、次のような判例もあります。

 と建物の賃貸借契約を結んだ際に、に対して当該建物の契約期間全てにわたる賃料全額を支払っていた場合にも、は、新しい賃貸人に対して賃料全額を前払いしていたことについて対抗できます。つまり、このように賃料を全額前払いしていた場合は、賃貸人が交替しても、少なくとも、と結んだ契約期間の間は、から賃料を取ることはできません。(最高裁・昭和38.1.18)

2.「AがBに敷金を差し入れていた場合、Cは、Bからその敷金を受領しない限り、Aに

対する敷金返還債務を引き継がない。」

【正解:×敷金返還債務の承継

 賃貸人の地位を引継いだCは、前の賃貸人であるBから敷金の引継ぎがあったかどうかに関係なく(敷金の現実の引渡しを要しない)、借家人Aに対して敷金返還債務を引継ぎます。(最高裁・昭和44.7.7)

3.「CがAに賃料の増額を請求した場合、Aは、その増額を相当でないと考えたときは

、相当と認める賃料を、直ちに供託すればよい。」

【正解:×賃料増額請求と供託による免責

 賃料の増額請求が行われ、当事者間で協議が調わないときは裁判でその増額が確定するまでは、賃借人は相当と認められる額を支払うことで足りるとされていますが、賃借人はまず、相当と認められる賃料弁済の提供をしてその受領が拒否されたときにはじめてこれを供託することができます。(借地借家法32条2項、民法492,494条)

 賃料の提供(弁済の提供、口頭の提供でも可) → 債務不履行・履行遅滞を免れる

 供託 → (その時点での)債務の消滅

  口頭の提供・・・弁済の準備をしたことを通知し、その受領を催告する

したがって、まず、相当と考える賃料を賃貸人に持参し、賃料の提供か口頭の提供をしなければいけません。供託は、賃貸人から受領を拒否されて賃貸人を受領遅滞にさせてから、供託するということになります。直ちに供託するのではありません

<供託による免責>

 供託は、次のどれかに該当するときにできます。

(1) 債権者が弁済の受領を拒んだとき

 判例では、

「債権者があらかじめ受領を拒んでいても、債務者はまず口頭の提供をしなければ原則として、供託できない」(大審院・明治40.5.20)

「例外として、債務者が提供しても債権者が受領しないことが明白なときは、提供しないで直ちに供託することができる」(大審院・明治45.7.3)

と、されています。

(2) 債権者が受領できないとき

 持参債務での債権者の不在、住所不明(信義則上、合理的な手段を尽くせば債権者の所在を確認できる場合を除く) 

(3) 真正な債権者が誰か確知できないとき

 相続や債権譲渡があって、誰に弁済すればいいのか、わからないとき。

4.「Aが相続人なくして死亡した場合、Aと事実上夫婦と同様の関係にあった同居者D

は、その事実を知った後1月内にCに対し特段の意思表示をしないときは、AのCに対

する権利義務を承継する。」(関連問題・昭和60年・問14・肢2)

【正解:相続人のいない場合の借家権の継承

 居住用建物の賃借人が死亡し、相続人がいない場合、賃借人と事実上夫婦もしくは養親子と同様の関係であった同居者は、賃借人としての権利義務を承継できます。

 しかし、これは同居者が死亡したのを知った後1月内に、建物の賃貸人に反対の意思を表示をしたときは承継しないことになります。(借地借家法36条1項)

この規定は任意規定なので特約で排除すること(「Aが相続人なくして死亡しても同居人Dは借家権を承継しない」と定めること)できます。「→平成7年問13出題

この規定は居住用の建物に限ります。非・居住用の建物には適用されないので注意してください。

●類題
1.「建物の賃借人が相続人なくして死亡した場合,賃借人と同居していた者は,どのような者であっても立ち退かなければならない。」(昭和55年・問14・肢4)
【正解:×

 相続人がいないときは,賃借人の事実上夫婦・養親子と同様の関係のあった同居者は、賃借人の権利義務〔賃借権と賃料支払い義務〕を承継するので,賃貸人が立ち退きを請求されても,引き続き居住することができます。

2.「居住の用に供する建物の賃借人が相続人なくして死亡した場合,その当時婚姻の届出はしていないが事実上賃借人と夫婦同様の関係にあった同居者は,賃貸人が賃借人の死亡の事実を知った日から1ヵ月以内に異議を述べなかったときに限り,賃借人の賃借権を承継することができる。」(昭和60年・問14・肢2)
【正解:×

 数字は正しくてもその周りの文が間違っているという典型的なヒッカケ問題。

×賃貸人が賃借人の死亡の事実を知ってから1ヵ月以内→事実上賃借人と夫婦同様の関係にあった同居者が,「賃借人が相続人なしに死亡した」のを知った後1月内

×賃貸人が異議を述べなかったときに限り→事実上賃借人と夫婦同様の関係にあった同居者が,建物の賃貸人に反対の意思〔賃借人の権利義務を承継しない意思表示〕を表示をしたときに限り


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