Brush Up! 権利の変動篇
借地借家法の過去問アーカイブス 平成7年・問13
借家権 造作買取請求権・定期借家契約・借家権の継承・対抗要件
Aを賃貸人、Bを賃借人とするA所有の居住用建物の賃貸借に関する次のそれぞれの記述は、民法及び借地借家法の規定によれば○か、×か。(平成7年・問13) |
1.「AB間で『Bが自己の費用で造作することは自由であるが、賃貸借が終了する場合、Bはその造作の買取請求をすることはできない』と定める特約は、有効である。」 |
2.「Aが3年間の転勤によって不在の後生活の本拠として使用することが明らかな場合、AB間で『賃貸借期間の3年が満了しても更新しない』旨の定期借家契約をするには、公正証書でしなければその効力を生じない。」(平成12年3月1日以降の契約とする。) |
3.「AとBとC(Bと同居する内縁の妻)の三者で『Bが相続人なくして死亡したときでも、Cは借家権を承継することができない』と定めた場合、その特約は、無効である。」 |
4.「AB間で、『建物についている抵当権は、Aが責任を持って解決する』と特約して入居しても、期間2年の賃貸借であれば、賃借権の登記をした上で抵当権者の同意の登記を得なくても、Bは、その後の競落人に対して、賃借権を対抗することができる。」 |
【正解】
1 | 2 | 3 | 4 |
○ | × | × | × |
1.「AB間で『Bが自己の費用で造作することは自由であるが、賃貸借が終了する場合、
Bはその造作の買取請求をすることはできない』と定める特約は、有効である。」
【正解:○】造作買取請求権 賃貸人の同意を得て建物に付加した造作(畳、建具、エアコン等)について、賃借人は、賃貸借期間が満了によって〔または解約の申入れによって〕終了するときに、賃貸人に買取請求できるのが原則です(借地借家法第33条)が、この規定は“任意規定(第37条)”とされており、買取請求しない特約も有効です。 |
2.「Aが3年間の転勤によって不在の後生活の本拠として使用することが明らかな場合、
AB間で『賃貸借期間の3年が満了しても更新しない』旨の定期借家契約をするには、
公正証書でしなければその効力を生じない。」(平成12年3月1日以降の契約とする。)改題
【正解:×】定期建物賃貸借 賃貸人が定期借家契約をするのに必要な要件はない〔賃貸人が定期借家契約にする理由は問われない〕のでダラダラ前半に書いてある<3年間の転勤によって不在の後生活の本拠として使用することが明らかな場合>というのは過剰な条件です。本設問を特にあたって必要なものではなく,迷わせるために置いてあるようなものです。(→改正法レポート5) 定期建物賃貸借は、“契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借が満了する”旨を記載した書面によって契約しなければなりません(第38条1項)が、その書面は、「公正証書による」とは限定されていません。(『書面』であればよい。) ≪条文≫ 定期借家契約 〔定期建物賃貸借〕 「期間の定めがある建物の賃貸借」をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第30条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。(借地借家法38条1項) また、「定期建物賃貸借」の要件としては、貸主からの事前説明とその旨の書面の事前交付 (借地借家法38条2項) も必要とされており、事前説明・事前交付をしなかったときは更新ナシの定めは無効 (38条3項) となっています。ちなみに、この借地借家法38条2項での事前交付書面も公正証書とは限定されていません。
≪参考≫改正前 借地借家法・旧38条は、賃貸人不在による「期限付き建物賃貸借契約」でしたが平成11年の改正によって廃止され、現行の38条の定期建物賃貸借に変わりました。本設問は「期限付き建物賃貸借契約」が廃止される前に出題されたもので、改題しました。 |
3.「AとBとC(Bと同居する内縁の妻)の三者で『Bが相続人なくして死亡したときでも、
Cは借家権を承継することができない』と定めた場合、その特約は、無効である。」
【正解:×】内縁の妻による承継排除の特約 内縁関係者間の居住用建物の賃貸借の承継の規定(第36条)は、強行規定(=これに反するものは無効)から外されて“任意規定”となっており(第37条)、また、この場合、内縁関係者Cも特約に加わっており、その意思表示が「錯誤(民法第5条)」によってなされたものでなければ、有効です。 この特約がなければ、Bが死亡して相続人がいないときに、Cから承継しない意思表示がなければBの賃借権をCが承継することになります。〔Bが相続人なくして死亡したことをCが知ってから1ヵ月以内に承継しないことをAに意思表示すればCは承継しない。〕 |
◆「居住用建物の賃借権の承継」(借家人が死亡した場合) (1) 相続人がいる場合は、相続人が相続する。 (2) 相続人がいない場合 →同居人の承継について、「同居していた内縁の配偶者や事実上の養子関係にあった者は賃借権を承継できない」と特約することも有効。 イ.承継を希望しない場合には、死亡を“知った日”から「1ヶ月以内」に承継しない旨の意思表示をして、放棄することができる。 ※以上の規定は、「居住用の建物」に限られ、事業用の建物には適用されません。 |
4.「AB間で、『建物についている抵当権は、Aが責任を持って解決する』と特約して
入居しても、期間2年の賃貸借であれば、賃借権の登記をした上で抵当権者の同意の
登記を得なくても、Bは、その後の競落人に対して、賃借権を対抗することができる。」
【正解:×】 短期賃貸借は廃止された 本設問では、<建物についている抵当権>とあるので、抵当権設定後にABが賃貸借契約契約を締結したと考えます。 たとえ2年間の賃貸借とはいえ、賃借権の登記をしたうえで抵当権者の同意の登記がないと、抵当権者や競落人に対抗することはできません。 ■抵当権者の同意の登記と明渡しの猶予 抵当権を登記した後に抵当不動産上に設定された使用・収益権は、抵当権が実行されれば消滅するのが原則です。 (平成15年改正の前は、抵当権を登記した後に短期賃貸借という制度がありましたが悪用されることが多く不良債権処理を進めやすくするため廃止されました。) しかし、そうなると抵当不動産を利用することは難しくなりますので、民法では以下の二つの措置をしています。(第395条)。 1) 登記した賃貸借は,抵当権者の同意があれば抵当権者に対抗できる ・登記した賃貸借は,賃貸借の登記前にすでに登記してあった抵当権を有するすべての者が同意し,かつ,その同意の登記があるときは,これをもってその同意をした抵当権者に対抗することができる。(第387条1項) 抵当権者が同意をするには,その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受ける利害関係人がいるときは,その承諾を得なければならない。(第387条2項) 2) 建物明渡し猶予制度の創設 → 土地にはない 抵当権者に対抗できない賃貸借により抵当権の目的たる建物を使用収益する者で, ・競売手続の開始前より使用収益する者 ・強制管理・担保不動産収益執行の管理人が競売手続後にした賃貸借により使用収益する者 は,その建物の競売において,買受人の買受けのときから6ヵ月を経過するまではその建物を買受人に引き渡すことを要しない。(第395条1項) 買受人の買受後に建物を使用した対価について,買受人が建物使用者に対して相当の期間を定め,その1ヵ月分以上の支払いを催告し,その相当の期間内に履行がない場合は,建物使用者はその建物を買受人に引渡さなければならない。(第395条2項) |