Brush Up! 権利の変動篇

無効と取消の過去問アーカイブス 意思表示・表意者の死亡 (昭和46年)


宅地又は建物の売買に関する意思表示について次の記述のうち,誤っているものはどれか。(昭和46年)

1.「相手方と通じて行った虚偽の意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。」

2.「意思表示の通知をした後に表意者が死亡したときは,その意思表示は効力を失う。」

3.「強迫されて行った意思表示は,常に取り消すことができる。」

4.「法律行為の要素に錯誤がある意思表示といえども,表意者に重大な過失があるときは,その者は意思表示の無効を主張することができない。」

【正解】

×

1.「相手方と通じて行った虚偽の意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない。」

【正解:

◆通謀虚偽表示 : 善意の第三者には対抗できない

 例 −通謀虚偽表示(善意)
                   ↑善意であれば無登記・有過失でも保護される。

 通謀虚偽表示の無効は,善意の第三者には対抗することができません(94条2項)

AB間の譲渡は当事者AB間では無効であっても,にとっては有効だとみなされます。

 判例では,善意の第三者として保護されるには,ただ単に善意でありさえすればよく,登記がなくても(大審院・昭和10.5.31),また過失があっても(大審院・昭和12.8.10),善意の第三者CはAに対抗できる,としています。

通謀虚偽表示の無効は,善意の第三者には対抗することができませんが,が悪意の第三者の場合は,に対しAB間の売買契約の無効を主張することができます。(94条2項の反対解釈) → 出題・平成7年

2.「意思表示の通知をした後表意者が死亡したときは,その意思表示は効力を失う。」

【正解:×

◆表意者の死亡

 隔地者に対する意思表示の効力発生については,民法では原則として到達主義をとっており,意思表示が発せられても到達しなければ意思表示の効力は発生しません。(97条1項)

例外・発信主義=隔地者間での契約の承諾制限行為能力者に対する催告への確答

 表意者が意思表示を発信した後で,相手方に到達する前に死亡したり,能力を失った場合でも,相手方に到達すれば,原則として意思表示の効力が発生します。(契約の申込など。)(97条2項)

 → ただし契約の申込では相手方が申込者の死亡や能力の喪失の事実を知っていた場合は契約の申込の効力は失われます。(525条)

本肢の意思表示が「契約の承諾」の場合は,発信時点で契約は成立していることに注意。

 → 契約の承諾の場合は,表意者が発信後死亡しても意思表示の効力は失われない。

『契約の承諾・催告への確答』以外の意思表示の場合→原則としての到達主義

  (契約の申込など。)

        発信      死亡    到達

 ―――――――――――――――→

                        到達により意思表示の効力発生

契約の承諾・制限行為能力者に対する催告への確答の場合 → 発信主義

        発信      死亡    到達

 ―――――――――――――――→

       発信の時点で意思表示の効力発生

3.「強迫されて行った意思表示は,常に取り消すことができる。」

【正解:

◆強迫

 強迫による意思表示では常に取り消すことができるとされています。(96条1項)

強迫による意思表示の要件

 強迫者が故意に違法な (社会観念上許される限度を超えた)強迫行為を行い,表意者が畏怖して真意に反する意思表示をした場合取り消すことができます。

 → 畏怖の結果,真意に反する意思表示をしたことに注意。表意者が完全に選択の自由を失っていた場合は意思表示は存在していなかったものとされ無効になります。(最高裁・昭和33.7.1)

強迫では,詐欺と異なり,強迫されて行った意思表示の取消は取消前の第三者に対抗できます。(96条3項の反対解釈)

4.「法律行為の要素に錯誤がある意思表示といえども,表意者に重大な過失があるときは,その者は意思表示の無効を主張することができない。」

【正解:

◆錯誤無効の成立要件−要素に錯誤がある+重過失がない

 表意者に重過失がある場合,表意者は要素の錯誤があっても無効は主張できず,意思表示は“有効”になります。(95条但書) → ただし,表意者に重過失があっても相手方がそれについて悪意であれば〔知っていれば〕,相手方を保護する必要はないので,表意者は無効を主張できると考えられています。


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