Brush Up! 権利の変動篇

不動産登記 表題部の所有者 改正対応 関連平成7年・問16・肢1-2


●メッセージ

ここは誤解の多いところです。くれぐれもご注意ください。

表題部所有者に関する次の記述は,○か,×か。

1.「所有権の登記がない建物(保存登記も移転登記もされていない建物)では,表題部に所有者が記載されるが,所有権保存登記がなされると,表題部所有者に関する登記事項を抹消する記号を記録しなければならない。

2.「表題部の所有者の氏名に変更があった場合は,その所有者は,1ヵ月以内にその変更の登記を申請しなければならない。」

3.「表題部に記載されている所有者が死亡したとき,その相続人は,表題部所有者の氏名等の変更の登記を申請することができる。」

4.「表題部に記載された所有者から建物の所有権を取得したは,の承諾を証する情報を申請情報と併せて提供して,表題部所有者の更正の登記を申請することができる。」

5.「建物の表題部に記載した所有者の更正の登記は,申請情報と併せて,その者の承諾を証する情報を提供して,書面により自己の所有権を証する者から申請することができる。」

【正解】

× × ×

●定義 (不動産登記法・2条10号〜13号)
■表題部所有者 所有権の登記がない不動産の登記記録の表題部に、所有者として記録されている者をいう。

■登記名義人 登記記録の権利部に、次条各号に掲げる権利について権利者として記録されている者をいう。

■登記権利者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。

■登記義務者 権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人をいい、間接に不利益を受ける登記名義人を除く。

●表題部の所有者の表示
 所有権の登記がないときには,表題部に所有者の氏名・住所(共有では持分も)が記載されます。

 この記載には対抗力はありませんが,表題部に所有者として記載された者は,自己に所有権があることを証する書面を添付しなくても,単独で所有権保存登記を申請することができます。

1.「所有権の登記がない建物(保存登記も移転登記もされていない建物)では,表題部に所有者が記載されるが,所有権保存登記がなされると,表題部所有者に関する登記事項を抹消する記号を記録しなければならない。(新作問題)

【正解:

表題部における所有者の表示の朱抹

 所有権の登記がない建物(保存登記も移転登記もされていない建物)では、表題部に所有者が記載されていますが、所有権保存登記がなされると表題部所有者の登記事項は抹消する記号が記録されます(登記規則・158条)

 → 逆にいえば、表題部に所有者が抹消されないで記録されているということは、まだ所有権保存の登記がされていないことを意味します。このことをアタマにシッカリ焼き付けてこのページ全体を読んでください。

2.「表題部の所有者の氏名に変更があった場合は,その所有者は,1ヵ月以内にその変更の登記を申請しなければならない。」(土地家屋調査士・昭和44年)

【正解:×

◆表題部所有者の氏名等の変更の登記

 「所有者の氏名等に変更があった」というのは表題登記をした後に,実体としての所有者に変更はないが,氏名・住所に変更があった場合です。この変更登記は,対象となる登記の同一性を害さない範囲に限ってすることができます。

・氏名の変更があった → 結婚・離婚・養子縁組・離縁・商号の変更など

・住所の変更があった。 → 転居・本店の移転・行政区画の変更など

 所有者の氏名等の変更の登記には申請期間や申請義務は定められていません。

▼注意・表題部所有者の氏名等の変更の登記と「表題部所有者の氏名等の更正の登記」,「表題部所有者の更正の登記」を区別する

▼注意・所有者の氏名等に変更があったときに登記は義務付けられていませんが,建物の表示で建物の所在種類・構造及び床面積など,土地の地目地積に変更があったときは,1ヵ月以内に変更の登記を申請することが義務付けられています。忘れがちなので注意してください。

●三つの違いをしっかり頭にいれよう

 「表題部所有者の氏名等の変更登記」と,「表題部所有者の更正の登記」は,その登記をする前と後で,実体としての所有者は変わっていないことに注意してください。

表題部所有者の「氏名等」の変更登記

→ 表題部に記載されている所有者の氏名・住所が変わった(結婚・養子縁組・離婚・商号変更など)が,実体としての所有者は変わっていない。(法31条)

表題部所有者の「氏名等の」の更正の登記

→ 錯誤や遺漏によって表題部に記載されている所有者の氏名・住所が誤って記載されていたので訂正する登記。実体としての所有者は変わっていない。(法31条)

表題部所有者の更正の登記

→ 錯誤などによって誤って別人の所有者が記載されていたので訂正する登記。更正登記前には真正な所有者が記載されていなかっただけで,実体としての所有者に変動はない。(法33条)

実例で見てみましょう

 before       after
  山田 太郎 →

 養子になって
 姓が小泉に変わった。

  所有者の「氏名等」の変更の登記   小泉 太郎 

  姓を変更。

  山田 太   →

 本当は『太郎』
 なのに表題部
 で間違って表記

  所有者の「氏名等」の更正の登記   山田 太郎

  正しい名に訂正。

  豊臣 秀吉 

 本当の所有者は
 山田太郎なのに
 別人が記載。

  所有者の更正の登記   山田 太郎

  真正な所有者が
  記載される。

  変更登記・・・後発的に生じた不一致

          ・登記した後に生じた登記事項の記載と実際との不一致を
           一致させるための登記。 

  更正登記・・・錯誤や遺漏などで原始的に生じていた不一致

          ・登記時点で生じた登記事項の記載と実際との不一致を
           是正するために訂正補充する登記。

実体としての所有者そのもの譲渡や相続などで別の人になってしまった場合には、その公示は、「所有者の氏名等の変更登記」や「所有者の氏名等の更正登記」「所有者の更正の登記」によることはできません

 表題部所有者や持分の変更は,所有権の保存の登記をした後で,所有権の移転登記をしなければ,登記することができません。(法32条)

●建物の表題部の変更の登記
 以下のものに変更があったときは,表題部所有者または所有権の登記名義人1ヵ月以内に建物の表示の変更の登記を申請しなければなりません。(法51条)

 建物の所在種類・構造及び床面積,建物の番号,附属建物の種類・構造及び床面積

●土地の地目・地積の変更の登記
 以下のものに変更があったときは,表題部所有者または所有権の登記名義人1ヵ月以内に建物の表示の変更の登記を申請しなければなりません。(法37条)

 地目地積

3.「表題部所有者が死亡したとき,その相続人は,表題部所有者の氏名等の変更の登記を申請することができる。」(土地家屋調査士・昭和50年)

【正解:×

◆実体としての所有者が相続によって変わった場合は所有権の保存登記による

 表題部に記載した所有者が死亡したとき,その相続人は,所有権保存の登記を申請することができます。(法74条1項1号)

 この場合の所有権保存登記の登記名義人は「表題部所有者(被相続人)」,「相続人」のどちらでもよいとされています。

 所有者の氏名等の変更の登記を申請することはできません。

まとめ

 所有権の登記のない建物では,表題部に所有者が記載されていますが,この問題のように,被相続人が表示の登記をしただけで所有権の登記をしないまま死亡した場合は,相続人は,表題部所有者を相続人の名義にする申請はできません。

 相続人は,所有権保存登記の申請をなすべきものとされています。

 相続人名義の所有権保存登記がされると、表題部所有者の登記事項(被相続人名義)は、職権で登記官によって抹消する記号が記録されます。(登記規則158条)

同一出題・平成7年・問16・肢1

4.「表題部所有者から建物の所有権を取得したは,の承諾を証する情報を申請情報と併せて提供して,表題部所有者の更正の登記を申請することができる。」(土地家屋調査士・昭和47年)

【正解:×

◆実体としての所有者が変わった場合は所有権の登記(保存・移転)による

  (表題部に所有者として記載されている) 
 | 譲渡
  

 表題部に所有者が抹消されないで記録されているというのは,まだ所有権の登記がなされていないことを意味します。

実体としての所有者そのものが別人に変わってしまった場合には、その公示は、「所有者の表示の変更登記」や「所有者の表示の更正登記」「所有者の更正登記」によることはできません

 表題部に記載した所有者や持分に実体として変更があった場合,それを公示するためには、所有権に関する登記の手続(保存登記・移転登記)によらなければならない(不動産登記法32条)
 所有権保存登記がなされると,表題部に記載されている所有者の登記事項は抹消される記号が記録されます。(登記規則158条)

 本肢のように,まだ所有権の登記がなされていない建物を譲渡された者が自らに所有権があることを登記するには次の二つの方法があります。

 所有権の保存の登記 → 所有権移転の登記

 譲渡人が所有権保存の登記をして譲受人に所有権移転の登記をする。

 所有権の保存の登記

 譲渡人が登記に協力してくれない場合には,譲受人は建物の所有権が自己にあることを判決(給付判決だけではなく、確認判決でもよいとされる)によって証明し,当該建物の所有権保存の登記を申請する。

相続と所有権保存(平成7年・問16)の問題は相続が絡んでいますが,基本的には本肢の知識をベースに作成された問題です。

●参考問題
1.「所有権の登記がされていない建物について,その所有権が自己にあることを確定判決によって証明できる者は,当該建物の所有権保存の登記をすることができる。」(宅建・平成12年・問14・肢1)

【正解:(不動産登記法・74条・1項・2号)

5.「建物の表題部所有者の更正の登記は,申請情報と併せて,その者の承諾を証する情報を提供して,書面により自己の所有権を証する者から申請することができる。」(宅建・平成8年・問15・肢3)

【正解:

所有者の更正の登記

 所有者の更正の登記の申請は,建物の表題部に所有者として別人が誤って記載されていて,真正な所有者の記載に訂正するためのものです。この登記の前後で実体としての所有者に変更はありません。

 (この更正の登記によって不利益を被ることになる)「表題部に所有者として記載されている者」の承諾書があれば間違いないということで,その者の承諾を証する情報を提供することになっています。(法33条2項)

表題部所有者の氏名等の更正の登記」「表題部所有者の更正の登記」を区別する

 表題部所有者の氏名等の更正の登記

→ 錯誤や遺漏によって表題部に記載されている所有者の氏名・住所が誤って記載されていたので訂正する登記。実体としての所有者は変わっていない。(法31条)

 表題部所有者の更正の登記

→ 錯誤などによって誤って別人の所有者が記載されていたので訂正する登記。実体としての所有者は変わっていない。(法33条)

●類題

「表題部所有者の更正の登記は,表題部に記載された者と自己の所有権を証する者とが共同して申請しなければならない。」(土地家屋調査士・昭和51年)

【正解:×

 宅建試験によく出題されるヒッカケのパターン。共同申請というコトバにダマされてはいけません。

 表題部所有者の更正の登記を申請する時点での「表題部に所有者として記載された者」とは,いわば無権利者です。

 無権利者は単に承諾義務があるだけで申請する権利はありません。

 つまり,自己の所有権を証する者(真正な所有者)は,申請情報と併せて,「表題部に所有者として記載された者」の承諾を証する情報を提供して,所有者の更正の登記の申請を単独ですることができるのです。(法33条1項)

●類題・共有の持分の更正の登記

「表題部に記載された所有者の持分の更正の登記は,申請書に持分を更正すべき他の共有者の承諾書を添付して,共有者の1人から申請することができる。」

【正解:

 共有者の持分が誤って記載されているときには,申請書に持分を更正すべき他の共有者(複数いれば全員)の承諾を証する情報を提供して,所有者の持分の更正の登記を共有者の1人から申請することができます。 (法33条2項)

 持分を更正すべき他の共有者の承諾を証する情報を提供する趣旨は上の5の解説と同じです。


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